松田忠徳

Profile

1949年、北海道洞爺湖温泉生まれ。文学博士、医学博士。現在、札幌国際大学観光部教授(温泉学、観光学)、モンゴル国立医科大学教授(温泉医学)。旅行作家。日本で初めて温泉を学問として捉え『温泉学』という分野を切り開いた。「温泉は生きている」という概念のもと「源泉かけ流し」を提唱し、その普及、及び理論の構築に務め、全国の温泉地で「源泉かけ流し宣言」ムーブメントを主唱、指導してきた。著書に『これは、温泉ではない』(光文社新書)、『温泉教授の湯治力』(祥伝社新書)、『江戸の温泉学』(新潮社)、『温泉力』(ちくま文庫)、『一度は泊まってみたい癒しの温泉宿』(PHP新書)、『温泉手張』(東京書籍)、最新刊に、『温泉教授の健康ゼミナール』(双葉新書)等、約140冊ある。

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速読は、人生を豊かにしない


――温泉の研究には、古い資料もたくさん必要なのではないでしょうか?


松田忠徳氏: 温泉の本は国会図書館より持っていると思います。江戸時代のものから明治、大正、現代のものまで2万冊はあると思いますよ。日本人はまめですから、誰かが本を保存しているので、探す根気と最後はお金さえかければ、大概は出てきます。古書目録は、今でこそ減りましたが、年間300冊くらい送られてきましたので、主にそれを調べていました。十数年くらい前からは古書店もネットが普通になっていますし、最近ではネットオークションもあるのでずいぶん探し方が変わりました。1日3回パソコンで調べて、10年掛かってようやく手に入れた本もあります。でも1点だけ出てこないものがあるんです。ベルツの『日本鉱泉論』という、明治13年に100冊くらい出たもので、医者の家には多分あるのでしょうが市場にでてこない。「指名手配」をかけて探しましたが、伊香保や熱海の図書館で見ただけで、これだけは未だにオリジナルが手に入りません。

――蔵書は何冊くらいあるのでしょうか?


松田忠徳氏: 6万冊近くあると思います。私は、歳をとって歩けなくなった時に、床の上に資料を何十冊も広げながら、『日本温泉史』を書くスペースが欲しいと思っていたので、ある日決断し、母屋は中古で買ったのですが、隣に本を収納するための35坪の書斎兼書庫を新築で建てました。母屋にも書斎があり、あと、広い地下室にも収納しています。

――本を探すこと、読むことの楽しみはどういったことでしょうか?


松田忠徳氏: 今日より明日、新しいことを知っていることは楽しい。今朝も、Amazonから2冊届いているので、早く読みたいです(笑)。40年間、月100冊ぐらい読む生活をしてきました。月100冊読むと言ったら、いつも皆から「速読ですか?」と聞かれるので、「速読ではありません」と、怒ったように答えます。それだけ読んでいたら自然と速く読めるんです。速読などという考えが嫌いだし、「速読法」なんて本は読んだこともありません。いま私の読書は、科学と医学の方に傾注していて、時には現役の学生のように勉強したりしています。本を読むことは人生をより豊かにしてくれるから、私にとってはご飯を食べる以上のものです。それをパッと速く、要約した部分だけ覚えて何の意味があるのでしょうか。中学校や高校だけじゃなく、社会人になってまで日本人は偏差値教育のようなことをしていることに気が付かないというのは不幸です。

体に負荷をかけない読書の形を発信せよ


――新しい読書のスタイルとして、電子書籍がありますが、どのようにお感じになっていますか?


松田忠徳氏: 電子書籍で困るのは書き込みができないことです。私は、特に大切な本は必ず2冊買い、1冊はさらのまま書庫に置いて、もう1冊には書き込みをします。1度目は線を引っ張ったり感想を書き込みながら読んで、2度目はその部分だけを再読するなど、まるで高校生の様に読んだりもします。
電子書籍は、多分そのうち書き込みも簡単にできるようになるでしょうが、背文字も見えない状態ですから使いにくいです。ただ、もし入院することがあった場合、電子書籍は便利でしょうね。外国に行く時もたくさんの本が入るから、飛行機の中でもずっと見られます。実際、そのように使っています。将来、失敗して本も家も売り払わないといけなくなった時は、私も電子書籍をもっと使うことになります(笑)。あとは検索です。ずいぶん早くからパソコンを使っている同僚がいて、「平安時代からの重要な古典を検索して、温泉ブームがいつ頃から起きていたか調べてよ」、と頼んだのですが、すぐに調べてくれ、彼の結論は、王朝文学の才媛たち、清少納言とか紫式部の時代、平安時代に最初の温泉ブームが起きたということでした。それは電子書籍を上手に使いこなせたからで、そのうち私も本格的に使わせてもらう時が来ると思います。だから否定するわけではなくて、使い分けが必要だと考えています。

――その他に電子書籍に望むことはありますか?


松田忠徳氏: 我々の活字の歴史って長いですよね。少なくとも奈良時代から本は残っていますから1300年くらいでしょうか。その中で本を読む最も健康的な方法、人間工学みたいなものが自然にでき上がったのだと思います。それが電子書籍になって、人工的な明るさが加わる時に、最も負荷がかからない様なものを発達させることも必要です。人工的な明かりを自然なものに近づけるまで、人間にもかなりの負荷がかかります。健康の本を読んで健康を害したら、どうしようもないですから(笑)、人間が健康に本が読めるように進化していくことが求められると思います。
日本では、畳の目や、石畳がちょっと曲線を描いているなど、自然に近い形が人の心を落ち着かせてきました。明かりもそうです。ebookの元になるものは日本が開発すべきだと思うんです。本が何百冊分も入れるっていう言い方ばかりしていますが、何百冊もそこに入ってないとダメな人はそんなにいないということを考えたら、日本人の人間工学の技術を世界に発信できるレベルのものを作り上げることの方が大切です。団塊の世代の人たちは本を読む習慣があるし、やっぱり健康、特に五感の7割は視覚、目に使っていますから、いかに目に負荷をかけないかが重要だと思いますよ。

著書一覧『 松田忠徳

この著者のタグ: 『考え方』 『歴史』 『日本』 『健康』 『研究』 『速読』 『温泉』

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