歯ごたえのある人生を
――内田さんの本は、新しい事に出会ってみたい、目標に向かって動き出したいと思っている方々の、大きなきっかけとなっているのではないでしょうか。
内田雅章氏: そういった人たちが、私の本の最高のターゲットゾーンです。一番任せてほしいところです。ビッグな人すぎてしまったら遠過ぎて、真似できない。例えば、会社をやめて新しい事に打ち込もうか迷っている人が、いきなり楽天の三木谷社長みたいな大物の話を聞いたって、次元が違うから参考にはならないし、今から野球を始めようとしている小学生が、いきなりイチローに野球を習ったって、ビギナーに高度な技術までは分からない。それなら、高校野球の上手い人に聞けば十分学べるはずですよね。実行に移すことが大事なんだとすれば、そういったビッグネームの方の伝記よりも、実行できる、自分にも真似できるエピソードやハウツーを見て学ぶほうがいいと私は思います。
――目指すにしても、段階があるということですね。
内田雅章氏: はい、そうです。まずは高校野球の普通のピッチャーに習った方が良いと言いましたが、人生においても、「こうなりたいんだったらまずはこうすべきだ」と段階を踏むべきです。まず私段階の話を聞いてクリアできない人が、私以上の段階の人の話を聞いても無理です。この段階を上るということを、分かっていない人が多いと思います。皆、どこかで人生をワープできると思っていますが、人生にワープはないんです。1段ずつ登って行かなきゃ進めないんです。
――そういった思いを受けた読者が、影響を受けて少しずつ行動していくんですね。
内田雅章氏: それが私の執筆活動の醍醐味でしょうね。小さな力が動いていくのを見て醍醐味を感じる人はなかなかいないかもしれませんね。私は、人生を味わい尽くしたいと思っているから、歯ごたえのある新しい出会いがないと、次に進めません。その新しい出会いというのは、自分の求めた人物に実際にお会いすることが一番なのですが、本という媒体を通して行動していくことでもあると思います。私は、1冊の本を読んだら、その作者と会って話した気分になります。それほど本というのはその人の体験や経験が詰まっているんです。私の本も、自分の経験を詰め込んで、一人一人に会って話しているような感覚で書くようにしています。
本は、その著者と会える場所
――内田さんにとっての読書とはなんでしょう。
内田雅章氏: 本を読むのは好きですが、ただ単に文字を追いかけることが読書だとは思っていません。どちらかというと、人に会いに行く気分です。例えば、好きなアイドルの写真集なら、その人に会いたいけど、会えないから写真で我慢する、という感覚と同じです。
――電子書籍の可能性についてはいかがでしょうか?
内田雅章氏: 何かを検索する、調べていくとかに特化すれば、もっと受け入れられるようになるんじゃないかと思います。
可能性はものすごくあるんじゃないかと思うものの、正直「目が疲れるし」というような不慣れを感じる部分もあります。まだまだ物足りないというのが、今の段階での私の結論です。要するにウェブは検索するのには向くけど、人が情報を記憶することには向かないから、ゆっくり記憶させたいものを流すのには向かないと思います。
電子書籍の可能性として一つの例ですが、個人のプロフィールを簡単に作れるようにして、それをすぐに見られるようにしたらみんな見るし、使うと思います。幼い頃の顔写真だとかパーティの写真だとか、データのやりとりが必要な時はたくさんありますよね。そういった、探すとか知るとかにはいいと思いますが、読むとか覚えるっていうことに向いているものじゃないと思います。向くものと向かないものがごちゃ混ぜになっている気がします。
――玉石混交の中から選び抜くという意味でも、出版社の役割はますます重要になっていきますね。
内田雅章氏: 私の経験上、出版社は読者の気持ちになった意見を言うのが得意ですから、私は極力、出版社の意見に耳を傾けるんです。要するに、“本を出版することに関してどっちがより本気なのか”ということ。より本気の人が言うことが正しいんです。会社の社長と社員だったら、責任の重さで考えると、社員の方はそこまで本気じゃなかったりするわけです。だから、社長の意見を聞くのがベター。出版も同じですよね。自費出版だったらお金を払う人が強い意見を言うし、印税を貰うという時ならば出版社の意見が正しいんです。何かをやる時というのは、どっちかがリスクを背負っていて、リスクを背負っている人の意見が正しいというケースが多いです。ですから、今後も出版社の役割は変わらず重要だと思っています。
――執筆活動を含め、今後の展望をお聞かせ下さい。
内田雅章氏: まず、絶対譲れないポイントは「誰にも真似ができないことをする」ということです。まだ世の中にない、難しくて誰もできないということをやりたいです。アイディアや出会いもこの切り口でいきます。そこで今考えているのは、絆の復活です。インターネットの登場で、心と心の繋がりが希薄化しているので、ウェブの普及で忘れられつつある絆を強くしたいのです。
皆、ウェブの発達で関係が薄くなってきているということにやっと気付いてきているので、また戻りたいと思っています。けれども、戻る場所がなかなかない。そこで、私はリアルな場所を作っていきたい。ウェブに走った人たちにもう1回こっちに戻ってきてもらおうと考えています。
(聞き手:沖中幸太郎)
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