人生を味わい尽くすには、「新しい出会い」が必要
1994年早稲田大学商学部を卒業後、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。2000年退行後、仕出し弁当販売業、マンションデベロッパー取締役を経て、30歳で銀座のクラブオーナーに。その後、バリュークリエーション常務取締役兼、日本ベンチャー協議会事務局長に就任。2004年株式会社就職課を設立し代表取締役に就任。優秀な学生を見つけたい企業と自分の適職を見つけたい学生をマッチングするビジネスを開始されました。著書は、『図解 人脈力の作り方』、『スゴい人になる人脈力入門』など。マッチングのスペシャリストとしてご活躍の内田さんに、人との出会い、執筆活動、電子書籍の可能性などについてお聞きしました。
父親を見て学んだ「ワンクッション」技法
――現在のお仕事についてお聞かせ下さい。
内田雅章氏: 一言で言えば「企業マッチング」を中心にしたコンサルティングです。自社の強みを活かして他社とのコラボレーションでお互いがwin winになっていく関係作り。天職と思っています。それ以外には社会貢献として2030倶楽部という、20代、30代を応援する会を運営しています。また、漬物の全国大会の審査部や、納豆の審査員をするなど、地域活性化、地方活性化に携わっています。「日本を元気にする」などというのは口だけなら誰でも言えますが、実際、目に見える形で実現出来なければ意味がありません。ですから私は、形に残ることが本物だと思ってやっています。仕事でも、私の過去の経験、アイディアや人脈などをご提供することによって、そのクライアントさんにとってメリットになるというような形で貢献したいなと思っています。ですから、私の人生ではほとんどが新たな出会いの連続です。そして、これが人生の醍醐味だとも思っています。
――一貫したスタイルで走り続けていらっしゃいますよね。
内田雅章氏: そうですね。常に新しい人と出会い続けているということです。しかし、私の場合は走り続けているという表現とはちょっと違います。1本線でひた走りしているというよりも、色々な方に出会って繋がっていっています。とにかく今までもこれからも、ものすごい数の人に出会い続けます。そして、自分の目でスクリーニングした人たちだけを自分の財産にし、その財産をクライアントや若者などと共有し、還元したいと思っています。若い人たちからはお金をもらいませんが、企業からはお金をもらいます。そういう風に新しい出会いの場を私が提供しているということなんです。
――今までの歩みをお聞かせ下さい。
内田雅章氏: 実家は自営業だったので、特に父親という存在からの影響はものすごく大きかったです。小さな洋服屋でしたが、いつも満員で、とても流行っていたんです。駅からあまり近くもなくて、そんなに小奇麗でもない洋服屋に、なんで人が来るのかなと、子ども心に不思議で仕方ありませんでした。駅前には他の服屋もいっぱいあったので、ある時父親に、「なんでうちにはお客さんがこんなに来るの」と聞きました。すると、父が色々な仕掛けをしていたということが分かったんです。
――どのような仕掛けだったのでしょうか。
内田雅章氏: うちの洋服屋をコミュニティの場にして、洋服を売るだけじゃなく、物々交換の場にしていたんです。野菜や果物をもらったよとか、魚が釣れたよとか、「うちの店に来ると何かがもらえるし、何かを皆が持って来る」という感じです。ソファのような椅子が置いてあり、そこに座ってコーヒーを飲む人もいました。服を買わなくてもコーヒーを飲みにくる人もいるんです。「自由に寄っていって」というような感じだったので、店内にはいつも人が居ました。そこから服が売れていくんです。だから、コミュニティを作るっていうことがものすごく重要だなということを、小さな頃から感じていました。何かを売りたいんだったら、いきなり売るのではなく、ワンクッションを入れるという技法を、父親を見て知ったんです。
“自分に関わる人”と、“その人を育てた人”にも感謝
――ご両親から直接、「勉強しなさい」、「こういう人間になりなさい」ということは言われたのでしょうか?
内田雅章氏: 正直、たまに言われました。でも、父と母のすごいところは、私に「勉強をがんがんやれ」と言うより、やりたくなる環境を作るのが上手かったこと。そのおかげで私は、テストや通信簿が楽しみで仕方なかったんです。
――普通は嫌だと思いますが、そこにもご両親の仕掛けがあったのでしょうか。
内田雅章氏: テストを受ける度に、お金を貰えたんです。小学校の時からそうでした。80点越えるといくら、90点越えるといくら、100点でいくら。テストの点数がお金に全部換算されていました。中学校や高校だと順位が出ますよね。その順位や通信簿でもお金を貰えました。それで結果的に良い点数や順位を常にとり続けていたので、テストや通信簿が楽しみだと思えたんです。楽しく勉強する環境をつくり、育ててくれた両親のことを私はとても尊敬しています。
――ご両親のほかに、自分とは切り離せないといった尊敬する方はいらっしゃいますか?
内田雅章氏: 私の祖父、祖母です。うちの父、母を生み育てた人だからです。まずはそこに感謝しなければいけません。私はいつも、目の前に何かあったら、「誰のおかげだったのかな」とその先を考え、1つ立ち帰ろうとするんです。目の前に見える人たちだけでなく、それを作り上げてくれた人たちのことも思い出し、その環境すべてに対して感謝をしようと思っています。
――仕事やその他色々な面においても、そういうお考えがあるのですか?
内田雅章氏: いつもそう思っています。だから、何か新しい人と出会えたり、仕事が来たら「紹介者は誰だったっけな?」と考えます。それで「ああ、あの人の紹介で知り合えたんだったな。連絡しなきゃ」と思います。だからこそ出会い続けていられるんじゃないかなと思います。周囲の人がひっきりなしに紹介してくれるので、私はものすごい数の人たちと出会っているんです。人というのは、自分と似た価値観や世界観の人を紹介してくれます。すばらしい人に出会えれば、自然とすばらしい人が集まってくるのです。
――1つ1つの物事を実行する時というのは、色々な案件がある中で、何かリンクするのでしょうか?
内田雅章氏: 新たな出会いを創出するということが切り口です。皆、何を望んでいるかというと、自分にとってメリットがある新たな出会いが欲しいわけです。しかし、自分の力だけではそういった人を見分けて出会うことはなかなかできません。「この人とつながっても自分にはメリットがないんじゃないか」と思い、億劫になってしまうんです。
でも、私にはその先が見えます。「この人と仲良くなると、近い未来にこういう活動をしてそこでこういった利益をもたらしますよ」と紹介できるんです。多くの人にはそれが見えにくい。なぜなら、出会ったその瞬間にその人との未来がイメージできない限り、相手を切り捨ててしまうからです。だから「この人のあなたにとっての価値はこういったところだよ」と私は情報を説明しているんです。人は、情報を得たとしても、その価値が分からないと邪険にしてしまいます。
同じ顔ぶれの慣れ親しんだ人たちの中だけで交流し続けることを批判するつもりはありませんが、私は新しい出会いを求め続けているからこそ、今の自分に共感してくれる仲間が増え続けているのだと思います。
本の出版は、人との出会いを活かすことで決定する
――本を出版するようになったきっかけはなんだったのでしょうか。
内田雅章氏: 元々のきっかけは、講談社の編集長とパーティーで偶然出会ったことです。出会った時に、「こういう本を出したい」と、プレゼンしたんです。そしたら、「その企画はつまらないからだめだ」と言われてしまったんですが、「じゃあ、どういう本だったら良いですか」と食い下がりました。「君は何が強みなの」と言われ、強みはわからなかったのですが、銀行員や銀座のクラブオーナーなど、自分の経歴を話したんです。そしたら、「なんでそんなに色々なことができたの?」と言われたので、「こういう人にお世話になって」とか、「こういう人に出会って」とか、お世話になった方の名前をたくさん出して説明しました。すると編集長が「それって皆知り合いなの?なんでそんなすごい人たちと知り合ってるの?」と、興味を持ってくれたんです。そして、「その人たちとどういう風に仲良くなったのかを解説する本だったら、うちで出そう」と言ってくださったわけです。それが私の1冊目となりました。
本なんて、普通の人間である自分が出せるものじゃないと思っていたのですが、たまたま1冊目が売れ、次々と出版社さんからお話を頂いて、それで今は30冊以上になっちゃったんです。
――出会いを活かして、そこで正しく発揮した訳ですね。
内田雅章氏: 私の書籍の出版は、半分以上が編集者と出会ったり、パーティーなどで偶然会ったり、誰かの紹介だったりなどというように、その場で決定していました。一撃必殺なんです(笑)。
――どんな想いやメッセージを伝えようと思って書かれていますか?
内田雅章氏: 私は実践するための方法を書いているつもりです。ですから、できるだけ具体的な名前や場所などを書いています。「私でもできるかもしれない」という風に皆さんに思って欲しいんです。
――内田さんにとって執筆というのは、ある種のボランティア活動なんですね。
内田雅章氏: そうですね。もちろんお金などは目的ではなくて、使命感から本を書き続け、発信し続けているんです。同じ分野の他の本を見ても、「理論だけ」とか「マニュアル本」というようなものばかりなのが現状です。
存在を感謝される人になりたい
――ご自身の使命とはなんだと思いますか?
内田雅章氏: 私の使命は、私が知りえている先輩経営者の苦労話や、体験などを若い世代に繋いで行くことです。自分が20代だった頃に「こんな人がいたら良かった」と思える、人生の道先案内人のような人になりたいんです。
――その使命を果たすために、ご苦労をされたこともあるのではないでしょうか?
内田雅章氏: いつも自分を背水の陣に追い込んでいます。銀行も辞めようと決めていたんです。安定した職を手放すのにはかなりの勇気が必要でしたし、「生きていけるのかな」と、とても不安でした。大げさだと思われるかもしれませんが、死ぬかもしれないというくらいの恐怖もありました。その場にとどまっていれば、悪さをしない限り一生食べていける。それでも会社を辞めたのは、当時の私の周りには「こうなりたい」と思える人がほとんどいなかったからです。
――そういう意味では、皆さんにとっての理想の未来像を出してくれる本の存在というのは、すごくありがたいですね。
内田雅章氏: そうかもしれませんね。本という媒体を通じて、「存在してくれてありがとう」と思われる、父や母、その親である祖父母のような存在に自分もなりたいと思っています。
歯ごたえのある人生を
――内田さんの本は、新しい事に出会ってみたい、目標に向かって動き出したいと思っている方々の、大きなきっかけとなっているのではないでしょうか。
内田雅章氏: そういった人たちが、私の本の最高のターゲットゾーンです。一番任せてほしいところです。ビッグな人すぎてしまったら遠過ぎて、真似できない。例えば、会社をやめて新しい事に打ち込もうか迷っている人が、いきなり楽天の三木谷社長みたいな大物の話を聞いたって、次元が違うから参考にはならないし、今から野球を始めようとしている小学生が、いきなりイチローに野球を習ったって、ビギナーに高度な技術までは分からない。それなら、高校野球の上手い人に聞けば十分学べるはずですよね。実行に移すことが大事なんだとすれば、そういったビッグネームの方の伝記よりも、実行できる、自分にも真似できるエピソードやハウツーを見て学ぶほうがいいと私は思います。
――目指すにしても、段階があるということですね。
内田雅章氏: はい、そうです。まずは高校野球の普通のピッチャーに習った方が良いと言いましたが、人生においても、「こうなりたいんだったらまずはこうすべきだ」と段階を踏むべきです。まず私段階の話を聞いてクリアできない人が、私以上の段階の人の話を聞いても無理です。この段階を上るということを、分かっていない人が多いと思います。皆、どこかで人生をワープできると思っていますが、人生にワープはないんです。1段ずつ登って行かなきゃ進めないんです。
――そういった思いを受けた読者が、影響を受けて少しずつ行動していくんですね。
内田雅章氏: それが私の執筆活動の醍醐味でしょうね。小さな力が動いていくのを見て醍醐味を感じる人はなかなかいないかもしれませんね。私は、人生を味わい尽くしたいと思っているから、歯ごたえのある新しい出会いがないと、次に進めません。その新しい出会いというのは、自分の求めた人物に実際にお会いすることが一番なのですが、本という媒体を通して行動していくことでもあると思います。私は、1冊の本を読んだら、その作者と会って話した気分になります。それほど本というのはその人の体験や経験が詰まっているんです。私の本も、自分の経験を詰め込んで、一人一人に会って話しているような感覚で書くようにしています。
本は、その著者と会える場所
――内田さんにとっての読書とはなんでしょう。
内田雅章氏: 本を読むのは好きですが、ただ単に文字を追いかけることが読書だとは思っていません。どちらかというと、人に会いに行く気分です。例えば、好きなアイドルの写真集なら、その人に会いたいけど、会えないから写真で我慢する、という感覚と同じです。
――電子書籍の可能性についてはいかがでしょうか?
内田雅章氏: 何かを検索する、調べていくとかに特化すれば、もっと受け入れられるようになるんじゃないかと思います。
可能性はものすごくあるんじゃないかと思うものの、正直「目が疲れるし」というような不慣れを感じる部分もあります。まだまだ物足りないというのが、今の段階での私の結論です。要するにウェブは検索するのには向くけど、人が情報を記憶することには向かないから、ゆっくり記憶させたいものを流すのには向かないと思います。
電子書籍の可能性として一つの例ですが、個人のプロフィールを簡単に作れるようにして、それをすぐに見られるようにしたらみんな見るし、使うと思います。幼い頃の顔写真だとかパーティの写真だとか、データのやりとりが必要な時はたくさんありますよね。そういった、探すとか知るとかにはいいと思いますが、読むとか覚えるっていうことに向いているものじゃないと思います。向くものと向かないものがごちゃ混ぜになっている気がします。
――玉石混交の中から選び抜くという意味でも、出版社の役割はますます重要になっていきますね。
内田雅章氏: 私の経験上、出版社は読者の気持ちになった意見を言うのが得意ですから、私は極力、出版社の意見に耳を傾けるんです。要するに、“本を出版することに関してどっちがより本気なのか”ということ。より本気の人が言うことが正しいんです。会社の社長と社員だったら、責任の重さで考えると、社員の方はそこまで本気じゃなかったりするわけです。だから、社長の意見を聞くのがベター。出版も同じですよね。自費出版だったらお金を払う人が強い意見を言うし、印税を貰うという時ならば出版社の意見が正しいんです。何かをやる時というのは、どっちかがリスクを背負っていて、リスクを背負っている人の意見が正しいというケースが多いです。ですから、今後も出版社の役割は変わらず重要だと思っています。
――執筆活動を含め、今後の展望をお聞かせ下さい。
内田雅章氏: まず、絶対譲れないポイントは「誰にも真似ができないことをする」ということです。まだ世の中にない、難しくて誰もできないということをやりたいです。アイディアや出会いもこの切り口でいきます。そこで今考えているのは、絆の復活です。インターネットの登場で、心と心の繋がりが希薄化しているので、ウェブの普及で忘れられつつある絆を強くしたいのです。
皆、ウェブの発達で関係が薄くなってきているということにやっと気付いてきているので、また戻りたいと思っています。けれども、戻る場所がなかなかない。そこで、私はリアルな場所を作っていきたい。ウェブに走った人たちにもう1回こっちに戻ってきてもらおうと考えています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 内田雅章 』