僕たちには、「繋ぎ」としての役割がきっとある
――どういう思いで書籍を書かれていますか?
大久保一彦氏: 最初の頃は、自分の書きたいものがあって、それが本になっていったと思います。出してみると本を書くのって、面白い。でも途中からは、自分が書きたいというよりは出版社が「これを出したい」という内容の本を自分でリサーチして書くように変えました。自分が書きたいというもの以上に、世の中に今求められているというようなものを、大事にしていこうと思ったんです。
――出版社・編集者の役割についてどう考えますか?
大久保一彦氏: 次の時代の人が読んでも参考になるような本を、あるいは記録として今残しておかなきゃいけないような、そういう本をもっと出版社が出すべきかなと僕は思っています。僕には書きたい本があって、ただ内容的にはハードなんですが、(井原)西鶴の『日本永代蔵』というのを、1章1章そのエッセンスをオマージュして、今の事例で差し替えて書きたいとずっと思っているんです。みかんを積んで船で渡ってきましたというようなものを、今の話だったらどんな例えに置き換えれば伝わるかなと。その本質を伝えるために事例を置き換えて分かりやすくする、そういう本を1冊作りたいなと思っています。
――今、学んでらっしゃることはありますか?
大久保一彦氏: 昨年は、新橋にある寿司屋の大将を研究しているんです。だからもう30回も行ったんですよ。ネタがどう流れているかとか、どうやってお客さんに価格請求をするのかとか、調理法も含めて1年かけて勉強しに行きました。30回じゃやっぱり分からないということで、もうちょっと行ってみようと思っているんです。
――大久保さんの使命とはなんですか?
大久保一彦氏: 僕らは結局、歳をとって死んでいくわけだから、僕の使命というのはなくて、繋ぎなんです。だから繋ぎとしての役割を果たす。例えば次の、子どもの世代に何を残してあげられるかということは大切です。でも別に僕の名を残す必要はなくて、もしかしたらそれは食文化かもしれないし生産者かもしれない。でも何か「繋ぎ」としての役割というのはあるんじゃないかなと思うんです。だから、たまたまこういう時代を生きているし、流れの速い時代で、たまたまこういう仕事に携わっている。繋ぎとしての役割を果たして、子供たちが大きくなった時、その時代に繋げられるように、例えば本や文化という形で、今の時代にある良いもの残していきたいと思うんです。
――電子媒体の可能性について、どうお考えですか?
大久保一彦氏: 利便性ということを考えると非常に良いと思うんです。僕は古い人間だから、活字、本に対しての思い入れというのがすごく強いので、電子書籍での出版を誘われることもあるのですが、本で読んでもらいたいなという気持ちがあるんです。また、線を引いたり、折り目を入れたりというのが、本の良さのひとつであるような気がするんです。
――今後、どのような取り組みをしようと思っていますか?
大久保一彦氏: それほど「何をやってみようかな」というのはないのですが、年配の人というより、若い経営者の飲食店をお手伝いしたいなとは思っているんです。あとは老舗とか、家を継がなきゃいけない人のお手伝いを基本的にしていきたいなと。若い元気な子がいっぱいいて勢いでやっている面もあるのですが、そういう子たちが前に出ていかないと雇用も生まれないし経済が活性化しない。僕らが若い子に勉強させられることも多いし、若い子なりの「ああそうなんだ」という視点があると思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
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