当たり前のことをしっかりし、かけ算の成果を目指す。
日本ヒューレット・パッカードに入社し、人事部門で採用、教育人事コミュニケーションなどを担当されてきた大串さんは、現在、年間250日を超えるビジネスコミュニケーションの企業研修の実績を持ち、驚異のリピート率を誇るグローバリンクの代表取締役を勤められています。『15秒でツカみ90秒でオトすアサーティブ交渉術』『アサーティブ-「自己主張」の技術』などの著作も執筆されており、多くのビジネスパーソンに支持されています。CHANEL、三井不動産、ソニーマーケティング、日本ロレアル、明治、京王電鉄、住友重機械、虎屋などの有名企業の教育研修を担当し、「研修の女王」と呼ばれる大串さんに、今回は、独立への道、お仕事に対する思いなどをお聞きしました。
ライブに近い感覚で研修を
――研修も含めてご多忙だと思いますが、普段のお仕事内容も含め、近況をお聞かせください。
大串亜由美氏: 基本は物書きではなく研修の講師をしていて、企業向けの研修を、朝9時から5時半ぐらいまで毎日行っています。その合間に客先に行って打ち合わせたり、夜からは1対1のコーチングをしたり、ほぼ毎日走り回っているという感じです。生まれて初めて会った人と、1日か2日で成果を出すという仕事です。カタい会社からフランクな会社まで、女性中心のオフィスや男性中心の職場だったり、日本やアメリカ、あるいはフランスの企業まで、毎日多種多様な団体や人と話をしています。何本かの基本になるプログラムをお客さんのニーズに合わせて変えているので、逆に言えば同じようなことを、毎日違う人に向かってしゃべっているという感じでしょうか。ですが、その会社ごとにフィットする例題、単語を考えて使い分けが必要です。目の前にいる人に集中して、顔を見ながら「この人のキーワードはこれだよね」といったように、感覚的に自分の中から出てくるんだと思います。歌手の人たちも、プログラムや歌うタイトルは決まっているけれど、その時のお客さんに合わせてペースや調子を変えていますよね。たぶん私もそういうライブに近い感覚で毎日仕事をしているんだと思います。
――現在に至るまでの歩みを、幼少時代から遡ってお聞かせ下さい。
大串亜由美氏: 小学校の図書室で「年間で一番多く本を借りている人」として名前が載るぐらい、小さい頃はよく本を読んでいたんです。小学校の図書館にある、いわゆる名作集というようなものは読破していました。中学校までは、本当によく本を読んでいましたが、それ以降は、あまり熱心な読者ではありません。仕事で、ドラッカーやカーネギー、ビジネスコミュニケーション系、マネージメントの基本などといった本はたくさん読んでいます。でもそれらの本は資料として読んでいるので、自分の欲しているキーワードを拾っていくという感じです。小説などは、旅行に行く時の移動中に簡単に読むぐらいで、昔ほど読まなくなりましたね。
――中学、高校時代で印象に残っていることはありますか?
大串亜由美氏: 中学の時、とてもいい国語の先生に会えました。その先生は授業で教科書を音読させていたんですが、今の仕事における話し方の基礎はそこから学んだのだと思っています。その時の音読は「きちんと読む」という練習だったと思うのですが、同じ本を、声を出してみんなで読み、間違っているということに気が付いたら手を挙げて、「てにをはを抜かした」とか、「てにをはを間違えた」などと指摘するんです。そのトレーニングが今となっては凄く生きていていると感じています。研修などで受講者の方にテキストを読んでもらうと、正しく読んでいない人が多いです。漢字が読めないとかではなく、「今日は」のところを「本日は」などと勝手に読んだりします。声を出して読めるということは簡単なことではないということが分かったので、音読は今もやっています。
アサーティブが根本となっている環境
――成城大学卒業後、HP(ヒューレット・パッカード)への就職を決められた理由はなんだったのでしょうか?
大串亜由美氏: 小学校から短大までずっと一貫の学校だったので受験を1度もしたことがなく、初めて社会にでるという時も、親の意見がかなり大きな理由の1つでした。今では有名な日本HP、その頃は横河HPの時代でしたが、何をしている会社かも知らず、色々な条件と親の意見も踏まえて、就職することにしたんです。
――HPでのお仕事と今のお仕事において、繋がっていると思われることはありますか?
大串亜由美氏: 私は今、アサーティブということを推奨しているのですが、HPという会社は、ヒューレットさんとパッカードさんという人格者が作った、アサーティブを信じられる会社なんです。HP Wayというのに私は心底納得していて、「男も女も、若くても年を重ねていても、いい環境さえ整えばいい仕事をする。だから会社やマネージメントの仕事は、そのいい環境を提供するものなんだ」という性善説が根本にある会社なんです。私はアメリカのヒューレットパッカードにも2年ほど勤務していましたが、アメリカでは普通、麻薬のテストがあったり、色々と取り締まりがあるそうなのですが、当時のHPでは全くありませんでした。「みんなで力を合わせて、儲けた分はみんなで分けようね」というボーナス制度で、小学校から大学まで一貫校の成城学園も、全人教育といって「みんなそれぞれいいところがある」というアサーティブが基本にあったんです。私はこの仕事を始めて、改めてアサーティブという言葉を知りましたが、振り返ってみると元々そういう環境にいたということに気が付きました。
――ずっとそういう環境にいて、それが定義づけられたのがHPに入社された後だったわけですね。
大串亜由美氏: そうなんです。だから色々な人の本を読んでも、「分かる分かる。でもそれって当たり前のことじゃないの?」と感じることがたくさんあって、それを自分のフィルターに通したり、自分の言葉で人に伝えてあげれば、ヒントを得られる人は多いんだなということに気が付いたんです。
――ビジネスの世界は、「出し抜いてやろう」という競争感覚が当たり前のように語られていますが、性善説を基本にするということも大事なのですね。
大串亜由美氏: 私のアサーティブの研修でも必ず言っていることなのですが、“本気”のWIN―WINなんです。ビジネスはきれいごとではないので、時にハッピーエンドにならないこともあるし、厳しい決断を下さなきゃいけないこともあるけれど、その時々で誠意をつくすこと。できもしないのに「できます!」といって迷惑をかけるのもいけないし、オーダーを出すつもりもないのに「そのうちね」と言って縛っていてもいけない。自分のためにも相手の為にも、無理なことは無理と、ちゃんと誠意をつくして言うというのがアサーティブなんです。だからこそ、耳に優しい言葉や甘い言葉ではなくても、きちんと伝えることが大切なんです。
著書一覧『 大串亜由美 』