留学体験記がベストセラーに。MBA留学ブームを巻き起こす
――執筆に関しては、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
山田修氏: 最初に出したのは1985年の、『アメリカン・ビジネス・スクール決算記』という本です。これは新潮社から出た私のMBA留学記で、正に排出欲の最たるもの。留学して体験したことの顛末をぜひ知ってもらいたいと書き始め、半分くらい書いたところで、出版社に持ち込みました。そうしたら、松本清張の編集者だった鍋谷契子さんという編集者がきて「預かります」と言われました。後から電話で、「読んでみたいから、その残り書いてくれませんか?」と言われて、私は「出してくれるんだったら書きます」と答えました。すると鍋谷さんは少し言葉を切って「出しますから、書いてください」と言ってくれました。おかげ様でその本は、3万部強売れました。1990年代に、MBA留学ブームが起きたのですが、そのきっかけになったと言われている本なんです。その後、私は色々な人を面接する立場になりましたが、「山田さんの本を読んで留学しました」というエグゼクティブが、2000年代には多くいるんです。
――もともと原稿が面白かったということもあると思いますが、それを見極め、2つ返事で出版した編集者の目利きもすごいですね。
山田修氏: どうやって留学を志すことに至ったか、突き動かされたかという課程が書いてあって、帰ってきてからは次のキャリアをどうやって構築し始めたか、ということも書いてありました。「すべてがスムーズに行った訳ではなく、その前後の滑った転んだといった部分も書いてある。それが面白い」と彼女は褒めてくれました。
――執筆することにおいて、何か思いというのはございますか?
山田修氏: 思いは特にないような気がします。私がやるのは構成と文章です。最初はカードを使います。書きたいテーマもあるし、色々な体験もあるから、1つのカードにこういうことを書きたいと全て文章で書き出すんです。そうやっていくとカードは100枚から120枚位なって、それを机の上に並べて、同じようなものを寄せていって6、7つの山を作る訳です。それを並べ替えると、それが第1章、第2章となって、タイトルのカードもその上にもってくる。それを刈り込んだり繋げたりして、カードを整理するとそれが項目になる。だから最初に、章立てというか、構成をするんです。論文を書く時もこの技法でやっていました。最初に構成を考えて章立てをして、話の展開もきちんと作って、どこに伏線を、ということも事前に計算しておかないとだめですね。
大事なのは、構成とバランス
――ブログにも書かれていたと思いますが、書きながら編集者とやり取りするというスタイルではないのですね。
山田修氏: そうなんです。構成やバランスを考えるのが一番大変。書きたいことをカードで網羅して、バランスを取るということを最初にやっておくと、どこから書いても良いんです。1行目を書くのにかなり時間を掛けて真剣にやるという人もいるようですが、私のやり方だと筆の赴くままに書き始めることができます。全部書き終わったところで、今度は繋がるように原稿を手直しするというような執筆作法です。だから1年に1冊というペースで出版できているのかもしれません。思いつきで書き進めると尻切れトンボになったり、曲がったりして着地点が分からないというような本はたくさんある。だから私は最初からきちんと作るようにしているんです。
――文章を書く上で気をつけていることはありますか?
山田修氏: 文章を書く時に心掛けているのは、分かりやすさです。分かりやすくするためには文章を短く書くことが大事。1つの文章が、3、4行に渡ってしまうともうだめ。そういった場合は、3つに分けて間に接続詞を入れるようにしています。
――難しいことを分かりやすく書くという作業は、やはり大変でしょうか?
山田修氏: 難しいよね。学生の頃に、毎週レポートを提出させる授業があったんです。その時の経験が文章を書く上で今でも役に立っていると思います。吉岡曠さんという源氏物語の先生のゼミで、「400詰めで5枚きっかりとレポートを書く。5枚以上書いてはいけません」というものでした。そのレポートのおかげで、字数の感覚ができたんです。例えば224ページの本を書くとすると、1章あたり30ページで、その中で6項目を書くと1つあたり5ページ。テキストとしては何行書ける、という具合に、大体見当をつけてメカニカルに書いていけるんです。
――編集者とのやり取りはどういった感じでしょうか。
山田修氏: 私の本はほとんど完成原稿ということで、いつもすごく評価が高いです。締め切りを落としたこともないです。だから私との組み合わせにおいては、構成とレイアウトが大事。レイアウトに関しては、プロである編集者さんにある程度お任せしています。
著書一覧『 山田修 』