書き手としても、検索機能は重要
――電子書籍の登場で、出版の垣根が低くなっていると思うんですが、電子書籍の可能性についてはどのようにお考えでしょうか?
山田修氏: 電子書籍は手軽に手に入る、という所がいいですよね。私も古い世代の作家だから紙の本は好きです。紙の本の良いところというのは、右のページをめくっている時に左の、或いはもっと先のページも見られるという一覧性。電子書籍の場合は、基本的には頭から読んでいかないといけない。でも検索機能などは良いと思います。でもやっぱり「紙をめくる楽しみ」というのはありますよね。
――論文なども、最近は電子化されているという話も聞きます。
山田修氏: データベース、といった点では大変良いですね。昔、華僑の経営に関する本を出した時に、資料を探しに行ったんです。八重洲ブックセンターに行ったのですが、あそこは1階にコンシェルジュがいるので、「こういうテーマで本を書くんだ」と伝えたら、キーワード検索で300冊位のタイトルリストを出してくれたんです。その中からマーカーを使って60冊くらいを選んだんですが、店頭在庫がないものもたくさんあって。2回位、段ボールで持ってきてくれました。文献を集めるというような研究者にとって面倒臭い作業でも、電子だと、文献の検索自体も容易ですね。クレジットカードなどで買ってしまえば、それですぐに読める。ハーバードの論文などは立派なデータベースがあって、検索もできる。本を書く時には、そういう点ではとても便利ですね。
――書き手としても活用されているのですね。
山田修氏: もちろんそうです。きちんとしたものを書こうとすると、最後に参考文献を書かなきゃいけないように著作法で決まっているんです。まずは参考文献を読まなきゃいけないから、探さなきゃいけない。テーマ名で検索して、翌日には届くからAmazonは便利です。ただ、研究文献レベルだとAmazonでは買えないので、種々のデータベースは非常に便利です。
――書き手としての仕事の仕方も変わっていっていると感じますか?
山田修氏: それは間違いないです。研究文献だけじゃなくて本だって全部電子化されてしまえば、それを参考にして知識を膨らませた上で、書き進めることができる。そういう意味では知識、知能はものすごく広がる可能性があるよね。
文化の進歩が加速する
――多くの知識を手に入れることができるようになったという世界において、差を生むもの、重要なこととはなんでしょうか。
山田修氏: 単にそこにあるのは情報、つまりピース・オブ・インフォメーションで、それだけでは価値が出てきません。そこに価値を見つけることによって、もとは同じものでも知識に格上げされるという、評価の問題です。読み手や使い手が知識と知識を組み合わせると、新しい知識を作り出すことができる。今までは単位制の知識があってそれを発掘するという作業でしたが、知識と知識を組み合わせると新しい知見や意見が出てきて、それは今までになかったものです。新しい知識が統合されるので、進歩になる訳です。また、その作業の効率はさらに良くなる可能性があるから、そういう意味では文化の進歩が加速されるというか、1つ上のレベルになる時代に突入したと言えるのかもしれません。
――山田さんのミッション、使命とは?
山田修氏: 成り行き人生というか、そういう覚悟があるわけでもないような気がします。要するに私は、楽しい人生を送りたい。でも、経営者をずっとやってきて、今は経営者を育てるプロジェクトをやっていますので、これが私の今後のミッションなのかなとは思っています。経営者ブートキャンプというのをやっているのですが、「できるだけ皆が上手く会社を回せるようになってもらいたい」とか、「幸せになるように」ということを思うようになりました。これから5年~10年位はその気持ちを持って進みたいと思っています。上から目線になるかもしれませんが、自分はある程度幸せだから、皆さんにもぜひ幸せになってほしいと思っています。
――今後の展望をお聞かせください。
山田修氏: 執筆に関しては、『本当に使える戦略の立て方 5つのステップ「戦略カード」で立案・発表・実践が思いのままに』という本が3月28日に発売されます。今までの経営戦略に関する本は、戦略を立てる時にはこういうことに気をつけろという本ばかりで、具体的に立てる手順を示している本はなかったんです。ここ4年間位教えてきましたが、戦略カードという、情報カードと全く同じ大きさのツールを使って戦略を作るというものを紹介しています。
――図解にすることによって、より分かりやすいものになったという感じですか?
山田修氏: そうですね。戦略を立てる能力というのは、社長さんだけじゃなくて実は部門責任者にも必要なものだったりするんです。「部門戦略を作ってちゃんと率いてほしい」というのも、経営者の望みの1つで、部門長はそういったプレッシャーを受けている訳ですよね。でも「戦略の立て方なんて誰も教えてくれないし、教えてくれる本もない」と困っていた。私の本は非常に易しい図解の本となっているし、文例も全部あります。書き写していって、同じプロセスをたどっていけば「自分の戦略」ができあがります。それからパワーポイントの発表用のファイルもあるので、そうやって書き写していけば8割はできます。そこまで完成している本なので、極めて実践的というか、読んですぐ使える実用書となっています。だから、今回の本を全ての経営者の方と部門部長さんに読んでいただき、役立てて欲しいなと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 山田修 』