望月実

Profile

1972年、愛知県生まれ。立教大学卒業後、大手監査法人に入社。監査、株式公開業務、会計コンサルティング等を担当。2002年に独立し、望月公認会計士事務所を設立。就活やキャリアアップにおいて「数字センス」で状況を切り開 いていく方法を伝えることをミッションとして、日本人を数字に強くするための活動を精力的に展開。 著書に『内向型人間のための伝える技術』、『ビジネスモデル分析術 数字とストーリーでわかるあの会社のビジョンと戦略』(共著)、『最小の努力で概略をつかむ! IFRS(国際会計基準)決算書読解術』(共著。以上、阪急コミュニケーションズ)など多数。講演、テレビ出演も行う。

Book Information

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

一人ひとりにあったコミュニケーションスタイルを伝えていきたい



公認会計士である望月さんは、大手監査法人に入社後、2002年に独立し、望月公認会計士事務所を設立されました。「数字センス」を伝えるため、社会人や大学生向けの講演を行うなど、精力的に活動を展開されています。著書には『数字がダメな人用 会計のトリセツ』や『問題は「数学センス」で8割解決する』などがあり、今年1月には『内向型人間のための伝える技術』を出版された望月さんに、出版されたきっかけ、数字との出会い、また、伝えることの重要性についてお聞きしました。

日本人を数字に強くする


――公認会計士としてのお仕事のほか、様々なご活動をされていますね。


望月実氏: そうですね。会計士の仕事、コンサルティングなどと並行して、本を書いたり、研修をさせていただいたりしています。仕事の比率はその時々で大きく変わるのですが、今は執筆や研修が多いです。

――活動のテーマとして掲げられている「日本人を数字に強くする」というのは、具体的にはどういうことなのでしょうか?


望月実氏: 合理的に考えられるようにすることです。会社も人も全部一緒だと思うのですが、結果を出せる人と出せない人では、お金と時間の使い方が違うと思うんです。お金も時間も数字でコントロールしなきゃいけない点では同じで、ならば数字を使って合理的に考える方が、その人が持っている力を引き出せるのではないかなと思ったんです。

バブル経済を目の当たりにした学生時代


――経済に興味をもつようになったきっかけは何だったのでしょうか?


望月実氏: ちょうど中学、高校時代はバブル時代で、経済にすごく活気があったというか、勢いが良かった時代だったんです。エコノミストの人が「株が上がる」と言ったら株が上がり、「不動産が上がる」といえば上がっているのを見て、予言者のようで「格好いいな」と思っていました。「世の中を動かしているのは何か?」と考えた時、それがたぶん経済なんだろうなと思ったんです。その頃は伝えたいというよりは、「知りたい」という気持ちが強かったと思います。

――経済に関する仕事に就きたいという想いは、子供の頃からあったのでしょうか?


望月実氏: 小学校、中学校の頃はまだ、エコノミストという言葉を知らなかったかもしれません。高校生の時は商社マンが格好いいなと思っていましたし、経済に関わる仕事をしたいなという気持ちはありました。中学校の頃に、藤田田さんが書いた『ユダヤの商法』を読んだことがあって、上手くいく人、上手くいく会社は他と何が違うんだろうと考えたりもしました。

伝える言葉を持っていないと、上手く伝えることはできない


――何かを「伝える」ために、大切なことはなんでしょうか?


望月実氏: 伝える言葉を持っていないと上手く伝えられないと思います。私は会計畑にいた人間で、会計の本は大量に読んだので、会計の本を書くことは、それほど難しくありません。それに対して、『内向型人間のための伝える技術』のようにコミュニケーションの本を書く場合は、思っていることを伝えようとすると、陳腐な言葉になってしまうこともあります。本を20冊ぐらい読んで、「コミュニケーションの本は、だいたいこういう持っていき方をするんだな」とか、そういった方向が分かってから本を書かないと、伝えるのが難しいんです。伝えたいことが漠然とあっても、それを上手く伝えるための言葉がないと、なかなか伝える勇気も出ません。私自身は、基本的に内向的というか心配性です。今は発信者としての仕事もしていますが、自分が出ていくのは、実は恥ずかしいんです(笑)。だから自己紹介などの「自分とは何か」という部分をさらけ出すようなものは得意ではないし緊張しますが、研修だと伝えるべき会計のコンテンツがあったり、コンサルティングではご相談を受けながら「こうした方がいいんじゃないか」という解決策を伝えるという「目的」があります。そういったものを伝える場合は、怖さが減るんです。相手を喜ばすとか幸せにするとか、そういった何か目的や使命のようなものがあると「伝えたい」と思うんです。だから本などを大量に読みながら、伝えるための言葉をストックしていかないといけない。私にとって読書は、自分で考えていることを伝えられる手段、表現を見つけるという意味あいも強いと思います。

数字という共通言語によって、ハッキリと見える


――ご出身は名古屋ですが、東京に行こうと決められたのには何か特別な思いがあったのでしょうか?


望月実氏: その時は東京の景気が良かったですし、憧れもあったと思います。東京は経済の中心ですので、そこを見てみたいという思いがありました。活気のあるもの、と考えると、その当時は東京だったので、東京で経済を学びたいと思いました。一番栄えているところに行かないと、なかなか全体は見えてこないんです。

――会計の勉強を始めるきっかけはなんだったのでしょうか?


望月実氏: ちょうど私が大学に入った時に、バブルがはじけたんです。大学1年生の時にサークルの先輩から、「今年は就活がちょっと厳しかったけど、お前たちが大学4年になる頃は大丈夫だと思う」と言われたんです。でも大学2年生になった時に、「今年は去年より厳しかった」と言われて、「じゃあ自分が4年生になる時はどうなるんだろう」と不安を感じました。そして進路を決める時、景気が悪くても業績がいい会社があるので、そこに入るにはどうすれば良いかを考えたんです。そういう会社では決算書を出しているので、「決算書が読めるようになった方がいいな」と、会計の勉強をすることにしたんです。僕はいつも「状況が変わってきたら、どうやって切り抜けるか」というのを考えていると思います。すごいスピードで変化している中で、数字が全てではないですが、より合理的に考えればブレなくなると思うんです。

――望月さんにとって、数字は「本質を見抜く道具」といった感じでしょうか?


望月実氏: 数字にすると分かりやすいですよね。言葉だと漠然としたものでも、数字を見るとすごくハッキリするから自分の判断にも役に立ちます。数字は自分だけでなく、共通言語として分かりやすい。そういった考えから会計の道へ進んだのですが、次に学んだことは、残念ながら「企業の業績は変動する」ということでした。自分が22歳の時に、仮に最高の企業に入れたとしても、40歳の時にその会社の業績がどうなっているか分かりませんよね。

――学んだ問題について、どういう答えを出したのでしょうか?


望月実氏: 例えば銀行や不動産業界は、バブルの頃には強いと言われたのが、バブルが崩壊したら変わってしまった。今は良くても20年後は分からないとなると、「じゃあどうしたらいいんだろう」と考えました。企業を渡り歩ける専門知識があって、リストラされないようにしようと思ったんです。基本的に、人や会社に人生を委ねるのは好きじゃないし、人のせいにするのも嫌いです。だからその時も、「将来的に後悔しないような選択肢を選ぼう」と思いました。会計士の試験も結構難しいから、受かるかどうかは分からないけれど、40歳でリストラされるよりも、25歳で就職できていない方がまだいいなと思ったんです。

自分の長所で勝負する


――仕事をする上で、大事にしていることはありますか?


望月実氏: 昔から資料などを作るのは割と得意でしたが、お客さんの前でプレゼンしたりするのは、社会人1、2年目の頃はすごく怖かった。人には得意なことと苦手なことがあると思うのですが、「すごくプレゼンが上手い自分じゃないといけない」と思ってしまうと、苦しい。だから、会社の中で資料を作ったり、複雑な計算をしたりとか、そういう自分の長けている部分で勝負した方が、自分にとっても楽だし、会社からも戦力として使ってもらえる、ということに気付きました。文章を書くのは結構難しいけれど、話すことと比べたら、文章を書く方が得意だと思いますし、苦手意識はありませんでした。新人の頃は、目の前のことの中でできそうなことを探して、そこに力を入れて取り組んでいました。そういった姿勢はこれからもまた継続させていきたいです。

――仕事でつまずいた時は、どうやってそれを乗り越えたのでしょうか?


望月実氏: いい友達がいたこと、それから自分が思っていることを自分で整理できたということが大きかったと思います。結局、自分の思っていることをしっかり言葉で表せないと、なかなか失敗を省みることはできません。自分の中で何が問題なのかということを明確にすることができれば、その上で自分が合わないと思えば退却すればいいし、まだ頑張ろうという道を選ぶこともできる。問題が見えてくると解決につながるんです。私はきっと、自分でもできそうなゴールを見つけるのが上手いんでしょうね。

中間の本が必要だった


――出版のきっかけはどのようなことだったんでしょうか?


望月実氏: 監査法人に勤めていた時に、クライアントから「仕事に使える会計の本はないんですか?」と言われたんです。その頃は会計がブームだったので、会計入門はたくさん出ているのですが、もう一歩進んだような、実際に企業を分析できるような本はありませんでした。それでお客さんから「望月さんの説明は分かりやすいから、望月さんがそのレベルの本を書けばいいんじゃないんですか?」と言われて、それもそうだなと。自分自身も、「入門書と専門書はあるけれど、真ん中の本がないな」と思っていました。読みたいと思っているビジネスマンがいるのに、そういう本が世に出ていないのはすごくもったいない。私としても、仕事に使える本を作りたいという思いがあって、本を書くことにしたんです。

――どのようにして出版へと至ったのでしょうか?


望月実氏: 当時は、本を出したいと思っている人に対する有料メルマガというのがありまして、そのメルマガを講読すると企画書を見てくださったんです。プロデューサの方はもともと出版界にいらっしゃった方で、本を書きたい人に対してノウハウをメルマガで伝えていて、「企画書を送ったら自分の知り合いの編集者に紹介してあげるよ」という感じでした。私はそれまでは企画書を書いたことがなかったのですが、フォーマットに従って書いて送ったら、採用されました。「望月さんの企画書はすごく分かりやすくて良かった」と言っていただけたんです。どういうターゲットに何を伝えたいかを意識して作成したので、分かりやすかったのだと思います。

――その企画が1冊目となったのでしょうか?


望月実氏: 実は、1冊目はその企画書からのものではないんです。その前の2年の間に4回ぐらい会計の本の原稿を出版社に持ち込んだのですが「入門書と専門書の中間は売れない」と相手にされなかったので、ホームページでPDFデータにして公開していたんです。本を出す気は全くなくて、ネットで読んでもらえればいいなと思っていました。企画書は経済ニュースを会計を使って分析するという内容のものだったのですが、「それよりもホームページで公開している会計の入門書の方が、うちのカラーにあっている」と言われて、その本を先に出していただくことになって、それが1冊目になり、そのあと企画書をベースにした2冊目の本を出しました。1冊目はストーリーを楽しみながら会計を理解できるというものなのですが、編集の人が「会計にちょっとストーリーをつけた本を作りたかった。ここにこんなにいいたたき台があるじゃないか」とおっしゃって、加筆修正して本にしたんです。

――編集者が見出して、「これをやってみようよ」という形で本になったわけですが、編集者の役割はどのようなところにあると思いますか?


望月実氏: 著者が考えた深い内容を読者に上手く伝わるようにバランスを取るのが、編集者の一番の役割だと思います。コンテンツを作るのが著者の仕事だと思うのですが、それを伝わりやすい形にしたり、力を入れすぎている部分などに対して、上手くバランスをとってくださると助かります。そういったように、より受け入れられやすい形にする手伝いをしてくださると私はうれしいです。著者だけでは本にできませんし、デザイナーの方も大きな役割を担っていると思います。私としては発信しかできないので、それをどういう形にしてくださるのかということを含めて、編集の方とは、いい関係を築きたいと思っています。

――電子書籍においても、編集者の役割は大きいと思いますか?


望月実氏: バランスよくという意味においては、編集者が介在したものと、そうでないものとでは、大きな違いがあると思います。稀に能力がある著者さんは、自分でもできるのかもしれないとは思いますが‥。

伝えるためのレイアウト


――電子書籍の魅力はどのようなところにあると思いますか?


望月実氏: 検索できるのは素晴らしいと思います。リンクができたりするのもいいと思いますが、私はパソコンを見ている時間が多いので、正直に言うと、できるだけタブレットの画面ではなく紙で読みたいです。パソコンの画面も長文になるとプリントアウトして見ます。目の負担を考えると、どうしてもまだ踏み出せません。

――本の魅力は、どんなところにあると思いますか?


望月実氏: 質感ですよね。まだ私は電子書籍に入り込んでいないだけなので、習慣の問題という部分もあると思います。あとKindleの場合、見開きで見ることはできないですよね。会計の本というのは図が入るから、見開きで見えるように作っているんです。図を見た後に、文章を読むと分かりやすいといった場合、図が同じページにないと困ります。だから文字数を削ったりして、できるだけ綺麗にレイアウトするようにしています。元々会計はそれほど簡単なものではないので、「どうしたら分かりやすく伝えられるかな」ということをとても考えます。難しいものを、質を落とさずに分かりやすく書くために試行錯誤しています。

効率的な伝え方と、自分の経験をみんなに知ってもらいたい


――1月30日に『内向型人間のための伝える技術』が出されましたが、今回はどのような思いを込めて、執筆をされたのでしょうか?


望月実氏: 学生時代はお互いに知っている仲なので、少ししゃべれば良かったけれど、社会人になると、相手との背景が全然違うし、伝える内容も複雑なので、分かりやすく整理して伝えないと伝わらないですよね。でもほとんどの人が効率的な伝え方を分かっていないので、伝えることの大切さを一番に訴えたかったんです。それに対して自分はどうやってきたかという私の経験を、みんなに知ってもらいたいという思いで執筆しました。アメリカ人の例も出していますが、どの職種、どの国、どの場面においても通用する伝え方ではないかと思います。元々、国際的な会計事務所であるプライスウォーターハウスクーパース(PWC)にいたのも良かったと思います。国際的な会計事務所にいると、国境を越えても伝わる表現をしないといけません。そのことを新人時代に上司からよく注意されました。専門書を読んで自分の頭では理解できても、それを説得力のある文章では書けない。それで、説得力のある文章を一生懸命探し、その文章を参考にしながら文章を書くようにしました。

――人に伝える際に重要な事とはなんでしょうか?


望月実氏: 私は、他者との競争・比較にとらわれないということが大事だと思っています。みんなが同じところで競争するのは厳しいです。だけど1人ひとり得意なことはあるはずで、その得意なことを生かすことができるようになってほしいと思っています。「私はこれが得意だよ」ということを伝えるための技術が足りないから、評価されなかったり自分に自信がもてなかったりしているのだと思うんです。伝える技術というか、もっと言葉を上手く使えるようにならないといけません。私の本を読んで、何かをしたいと思うようになってくだされば、すごくうれしいです。私は、読んで動けるようなヒントを伝えたいのです。人前で堂々と話せなければだめだと言われても私には難しいけれど、その代わり色々なことを感じる能力があるわけで、それが私の強みです。そのどちらも同じ人間の一部なんです。私の場合は、緊張せずに話せるようにしたのではなく、自分はこういう長所があるということを上手く伝えられるようにしたんです。行動しなくては現実は変わりません。



――本を通して、今伝えたいことはなんですか?


望月実氏: モチベーションを上げる本なども今まであったのですが、答えが見えない状態でモチベーションを上げても辛いんです。でも、『内向型人間のための伝える技術』を読むことによって、自分の将来を悲観するのではなく、「自分は色々なことができるんだな」ということに気付いてもらって、そこにエネルギーを注いでいけるようになってほしいと思っています。
「こういう時はこう悩み、気付いてこういう風に考えました」という一公認会計士の気づきといったものを伝えたい。本には答えが明確な問題を提示して、こんなに上手く解けますよという書き方もあると思うのですが、今回の本で伝えたかったのは、答えの出ないことに対して、自分はどう必死に取り組んだかということ。私は多くの文章を書いてきましたが、未だに苦労しながら文章を書いています。まず書けそうなところを書いていって、あとで一生懸命につなげるんです。そうやって繋げていく作業というか、論理的な文章を作り上げて、それを伝えるということが私の仕事なんだろうなと思っています。執筆だけではなく、色々な生き方というか、自分にできることが、どんどんつながって新しいものができ上がっていったらいいなと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 望月実

この著者のタグ: 『コミュニケーション』 『経済』 『コンサルティング』 『お金』 『会計士』 『数字』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
著者インタビュー一覧へ戻る 著者インタビューのリクエストはこちらから
Prev Next
利用する(会員登録) すべての本・検索
ページトップに戻る