髙梨智弘

Profile

1945年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科中退。ハーバード・ビジネススクールAMPコース修了。経営学博士。専門は、経営品質、ナレッジ・マネジメント(知の経営)、ベンチマーキング、ハーマンモデル、IT経営。公認会計士として多くの企業監査と経営コンサルティングを行う。その経験を活かし、「儲かる体質」の確立を支援。業務の有効性・効率性に焦点を当てた中小企業向け内部統制評価者の育成が注目されている。 著書に『知の経営―透き通った組織』(白桃書房)、『ベンチマーキング入門』(生産性出版)、『弓と矢の国』(電子書籍BookLive)など。

Book Information

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

膨大な量の情報を絞り込み、選択することが大事


――電子書籍ではどういったことが可能になるのでしょうか?


髙梨智弘氏: 例えば、本を読んでいる時に、色々な図が出てきた場合。電子書籍の場合はその図表を立体化してほしいと思います。そうすると、普通の本より面白い。それからパッと開けたら絵が動画になっているのも良いですよね。『弓と矢の国』じゃないけど、動物がいたら、立体化、動画化して動くとか。それからリファレンスリンク。例えば、本を読んでいて「なんで弓はこんな形なの?」と思った時に、弓の作り方が載っているページへ飛ぶことができたりすると、「弓はこう作る」といった宣伝にもなる。これは本には書いてないことだから、面白いと思います。

――電子書籍の役割とはどういったものでしょうか?


髙梨智弘氏: 私の友人にトム・ダベンポートという学者がいるのですが、「情報っていうのは、兆単位ある」と言っています。たくさんあるからインターネットで調べると、どんどん情報が入ってきて、通常の何百倍、何千倍も分かるとみんなが勘違いしている。例えば「髙梨智弘」とGoogleにいれると、72000くらいヒットします。でもどんなに時間があっても、多分100件も読む人は少ないと思います。寝たり食事したりする時間を引くと、1日12時間が限度だと思いますが、12時間でその膨大な量の情報を読むことはできません。だからこそ、情報を絞り込まないといけない。そこが電子出版の売りなんです。情報にランキングを付けてあげて、リンクから飛んで情報が取れて、という仕組みができたら、あらゆることが解決する。これが電子書籍こそできる役割ですよね。
アナログからデジタル化した電子書籍を、アナログへ戻す作業、「デジタルのアナログとはなんぞや」ということを、出版社や編集者には考えてほしいと私は思っています。デジタルだけじゃ、12時間でやっと1000の単語を覚えたとしても、データベースに100万入ってるわけですから、意味無いですよね。だからこそ何に意味が有るのかというと、「選択」なんです。よく選択と集中と言いますが、どのデータを持ってくるか、どういう場を作るかが大事なんです。

――コーディネータやファシリテータといったように、選択して集約することが大事なんですね。


髙梨智弘氏: そうです。ネットで結ばれているので、世界中の情報が溢れています。全部を見られるけど、そんなのを恐れる必要は無い。どんな人と競争しても、たった24時間、12時間の競争だから、差が無いんです。若い人たちに限らず、情報をあまり選択できていない人たちは、つまらないものばかり見てるわけです。12時間しか無いのですから、情報は選択して見なくてはいけない。その選択を、電子書籍が与えてほしい。この本はこういう本で、こういうところに繋がって、こういうことが書いてあって、と本の前に説明を作れば良い。「分からないことはこっちへ飛ばせます」とか、「こんな情報を貰えます」とか、「この1冊の本の電子書籍を買ってくれたら、色々なところへ飛んであげますよ」という売り方をしたら、もっと売れるのではないかと私は思います。

――今メディアでは紙対電子などと言われていますが、そのことについてはどうお考えですか?


髙梨智弘氏: 全然、ナンセンス。人間から見たら紙とデジタルは同じだから、「どっちか」じゃなくて、「両方とも」なんです。考え違いしているなと思うのは、アナログという基準、デジタルという基準という風に、基準を同じに考えてしまっていること。そもそも基準が違うのだから評価できないし、比較してはいけないものを比較しているように思います。幼稚園の子と大学院の人といて、幼稚園の人に「あなたはこういう解析もできないの?」と言っているようなものだと思います。アナログはアナログの基準で評価して、デジタルはデジタル。デジタルは兆単位でもいいんです。でも人間に兆単位なんて処理しきれ無い。例えばインタビューなら、何件お客様のところへ行けるかというと、「12件、13件回りました」がやっとじゃないですか。機械を使うのであれば、世界中の人のインタビュー記事をインターネット、機械で集めて、ダーッとデータベースに入れる。それで1日に情報を100万件取れました。機械が凄いというのはいいとしても、人間系で動いているのだから、肌感覚や、共感から暗黙知が表出化されて機会でできないことも含めて比較する時は人間系にしないと意味がないのです。



「知の結集」は、国の解決策にもなりえる


――兆単位の情報が溢れる現在のネット社会について、どうお考えですか?


髙梨智弘氏: ネット社会に翻弄される必要は無いし、ネットの洪水で溺れる必要も無い。情報は取らなきゃ流れるだけだから、もし溺れそうになった時には無視すればいい。「朝、日経新聞を読まないと分かんなかった」とか、「テレビを見ないと分からなかった」といった情報もあります。だから選択して取ることが大事。情報を取るのに、どの新聞を選んでも良いし、本が重たいなら、電子書籍で読んでもいい。それは選択の問題です。

――今後の展望をお聞かせ下さい。


髙梨智弘氏: ピーター・ドラッカーの95歳を超えるまで頑張ろうと思っています。これは皆に約束したんです。だって癌も将来は無くなるだろうし、125歳が脳の限界だから、125まで生きる。脳をより進化させれば、倍ぐらい生きるかな。今までは見る、聞く、触った、というような五感で感じていました。目がサイボーグになって、耳も、手も、五感もそうなって、脳だけが残っているということになった場合。脳には凄い能力があるから、今の10倍とか、もしかしたら100倍の処理ができるかもしれません。将来的には、そういった凄いことになるかもしれませんが、まずは、我々の時代は人間らしく生きることですね。
それから、日本イノベーション融合学会という縦割りでなく横割りの知を共有する場を創設します。7年後に東京オリンピックに合わせて「知のオリンピック」を開催しようと思っています。地域の中小企業の小さな知からグローバルな大きな知まで、学生の知から高齢者の知まで活用する場です。定年で退職した人達の膨大な経験知を使わなければ、国家損失です。あらゆる業界、老若男女が集まり勉強会や発表会をやるという場です。世界中から人を集めて、5000人とか10000人くらい集まったら、武道館や東京ドームを借りて行うのが夢です。

――日本イノベーション融合学会は、髙梨さんの使命でもあるのでしょうか。


髙梨智弘氏: スタークラスターってありますよね。星団のことです。夜空を見上げれば、星くずがみえます。星のようにいつでも光っている人たち(有名人、発明家やトップ経営者等)が偉いと思っている人が多いと思います。でも、実際にそんなに多く社会を変える様な人は周りにいません。ということは、本当に有能な世の中を変えるような人は余りいないのでしょうか?実は、昼間だから見えないだけで、星は今でも輝いています。それに気付くことが大事なんです。目立って見えてはいないけど、素晴らしい人はたくさんいる。その星と星を線で結びつければ大熊座や小熊座、あるいは白鳥座といった星座になりますよね。満天の星は無数にあります。無数のうち、ほんの10、20、30を、例えば私と他の2人を結ぶと三角形になる。そうやると、人間関係ができる。そうやって知が結集できイノベーションが起きるわけです。だからどうやって星座を作るかが大事。星座を作ることが私のミッションであり目標です。そこで、政官財学民、老若男女の知を結集する場「日本イノベーション融合学会」を創設します。それが人の解決策に、或いは、中小企業の解決策にもなるし、もちろん大企業や国の解決策になる。多様な人達が多様なイノベーションを起こしそれを見るのが自分自身の満足になる、私はそう思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 髙梨智弘

この著者のタグ: 『大学教授』 『英語』 『海外』 『考え方』 『インターネット』 『イノベーション』 『原動力』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
著者インタビュー一覧へ戻る 著者インタビューのリクエストはこちらから
Prev Next
利用する(会員登録) すべての本・検索
ページトップに戻る