本への欲求を満たすため、自らアピール
――最初の本はどのようにして出版されることになったのでしょうか?
芦永奈雄氏: もともと小説家になろうと思っていたので、本に対する欲求というのが強くあって、「何か形に残さないと死ねない」という想いもありました。それで、本を出版されたという知り合いの社長さんに会い、「実は、私も本を出したいんです」とお話ししてみたのです。すると、「紹介しましょうか」と言って下さいました。私は、「お願いします。実はもう原稿も持ってきているんですよ。4、50ページ分ぐらいなのですが、良かったら渡してもらえませんか」と言いました(笑)。その社長さんがかなり私を推してくれたのもあって、原稿を渡してもらった後、すぐに話がきました。
――本ができあがった時は、どのような気持ちでしたか?
芦永奈雄氏: 自分の生きた証しがやっとできたなという気がしました。夢だった小説でのデビューではありませんでしたが、今でも趣味で書いていたりもしています。小説を書くときは、漢字にする言葉や、点を打つ場所、打たない場所などを熟考しますから、国語力が伸びます。言葉に対する感覚や意識などが格段に変わってくるのです。
――電子書籍について、どのようにお考えですか?
芦永奈雄氏: 私自身、電子書籍にはほとんど接したことがないので、あまりものを言う資格はないかとは思うのですが、読み手側として、電子書籍が一番結果を出せるやり方が1つあると思うのです。それは、短い時間でたくさんのものを読んで、接して、体系的なものを作り上げるということです。例えば紙の媒体の場合、真面目な人だと最初から最後まで全部読んだりしますよね。学生時代はAmazonがなかったので、絶版になったけれど欲しいと思う本を、古本屋を歩き回って2年間かけて見つけたこともありますが、今ではAmazonがあって簡単に手に入れられますよね。本が増えてくると、「とりあえず2、3冊買ってみようか」という程度の数になるかと思うのです。でも、電子書籍の場合は場所を取らず、やや安価なので、例えばそのジャンルに関して4、50冊分ぐらいの大量の本を買い、目に留まる部分や気になるところを読んでいくと、それこそ1週間、2週間で4、50冊でも目を通すことができます。そうやって多くの本を読むことによって、見えてくるものもあるのではないかとは思います。体系化は、大量の情報を短い期間で接することができるという電子ならではの最大のメリットの1つではないかなと思います。
――読書の良さとはどういうところだと思われますか?
芦永奈雄氏: 情報を得たり、ノウハウや知識などを理解したりすることではなく、心を通わせる、または会話をするぐらい書き手に向き合うということが、読書の神髄だと私は思っています。
人として大切なことを、日本だけではなく世界にも伝えたい
――教育に関して、今後していきたい、伝えていきたいことなどはありますか?
芦永奈雄氏: 最近『龍馬伝』を観直していて、その中で、坂本龍馬が「わしは日本の仕組みを変えちゃろうち思うちょる」と言っています。それと同じく、私は、教育の仕組みを変えようと思っています。今の日本の教育のあり方は、ほぼ明治時代から変わっていません。文学史で新しい小説を取り入れるなどといった表面的な違いはありますが、例えば物理はもう100年近く前のものをやっている状況で、やり方そのものは変わっていないのです。あの頃は確かに「西洋に追い付け追い越せ」という状況だった為、底上げで良かったと思います。でも、今はもう全く違う状況で、根本から変える必要があると思うのです。まず、主要科目は5教科もいらないと思います。選択科目ぐらいにしておいて、欲しいと思ったらいつでも学べるぐらいにしておけばいいと思っています。その代わりに、リーダーシップやコミュニケーション力など、人間としての在り方といった大事なことを学べる授業を、もっと教育現場に取り入れるべきだと私は考えています。
――新しい科目として教えていきたいのですね。
芦永奈雄氏: この10年間でそれをやりたいと思っています。また、「日本で役に立つものを海外でも」という考えで、日本より教育水準の低い国に広めていきたいのです。暗記や型を覚えるというやり方を好む人は、今のままやっていていいとは思いますが、そういった極めて作業的な勉強は、必要最低限でいいと私は思っています。「学ぶ」ということを大事だと思っている人には、社会に出てすぐに通用するぐらいのことを、子どものうちから教えていきたいと思っています。
――「子どもだからまだ早い」ということはないのでしょうか?
芦永奈雄氏: 受講生の中に、小学4年生でハーバードを目指している子がいるのですが、その子は最近作文で大きな賞を取り、学校の朝礼で表彰されることになったのです。その子にはカンボジア人の知り合いがいて、カンボジアの子どもたちが文具類を欲しがっているということを知っていました。その子は、校長先生に直接交渉し、全校児童の前で表彰された際に「いらない文具を寄付してもらえないか」と呼び掛けをしたそうです。その後も教室で呼び掛け、新聞のようなものを貼り出し、寄付を募り、どんどん広がっていきました。カンボジア語や英語を話せるわけではないですが、これこそが、グローバルに活躍する人の在り様だと思いました。「子どもだからまだ早い」などということは全くありません。今までの教育カリキュラムにとらわれないからこそ、できることがあると思います。
教育特区のような感じで、学校教育と関係なく独自の教育ができるような、実践抜きにはあり得ない生の現場で実際に学んでいくという設備、または機関を作ること。この私の理想を現実のものへとすることを、この10年間でなんとか成し遂げたいと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 芦永奈雄 』