芦永奈雄

Profile

早稲田大学卒。大学で、芥川賞作家・三田誠広氏に4年間師事する。2002年1月、国語専門塾の小平村塾を開塾。国語が苦手だった子供たちをトップレベルに育て、作文コンクールで全国1位の大臣賞・総裁賞、都道府県知事賞レベルの賞の受賞者を続々輩出する。教材はすべて自ら開発。学力の根本である「思考力」を鍛える「ストーリー作文」を考案。 著書に『コミュニケーション力を高める文章の技術』(フォレスト2545新書)、『読むだけで「書く力」が劇的に伸びる本』『「本当の英語力」は5文型で劇的に伸びる』(大和出版)など。

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瞬間的な結果ではない。目標は「人を育てる」こと



早稲田大学在学時に、芥川賞作家の三田誠広氏に師事。ご自身の国語力、文章力を活かし、2002年に国語専門塾小平村塾を開かれました。大臣賞や総裁賞の受賞者を輩出し、たった1日の作文講習会で、受講生の偏差値を42から70に上げた実績も。著書には、『コミュニケーション力を高める文章の技術』『「本当の学力」は作文で劇的に伸びる』『家庭で伸ばす「本当の学力」作文親子トレーニング』などがあります。作文のスペシャリストである芦永奈雄さんに、ご自身の国語力が上がったという勉強方法、小平村塾での教育方針、芦永さんの考える「グローバル」、電子書籍などについてお聞きしました。

3人の授業、3回の課題が国語力アップへと繋がった


――現在は国語専門の小平村塾を開かれていますが、昔から国語は得意だったのですか?


芦永奈雄氏: いいえ、高校3年生までは国語は大の苦手でした。現役受験の時まで、小論文すら書いたことも無かったのですが、希望の学部を変えたことで小論文が必要になり、予備校に通い始めました。小論文を教えてくださる先生は当時3人いたのですが、普通はどなたか1人の授業を選ぶところを、私は3人の授業を全て受けました。二浪というずいぶん落ち込んだ状態にありながら、小論文を書いたことがないという、スタートがゼロに近い状態だったので、「とにかくやってやろう」と思いました。3人とも課題は同じでしたが、同じ課題を3回も書くと圧倒的に力が付くわけです(笑)。半年ぐらいが過ぎた頃に成績が上がっていき、60だった偏差値が二浪目の秋には74まで伸びました。その頃には早稲田大学を受けると決めていました。赤本を見て出題傾向などを徹底的に分析していたので、記述問題などの文章に関して全く困らなくなっていました。世界史をとっていたので、「何百字以内に書きなさい」という問題の宿題があると、文学的な表現を交えて書けるようになっていきました。

――どういった理由で国語力が上がったと思われますか?


芦永奈雄氏: もちろん問題集などでも色々と勉強をしましたが、当時は小論文を徹底的に勉強し、その書き方を学ぶというよりも、自分の頭で一所懸命に持論を展開しようとしていたところが大きかったと思っています。

自身の国語力を生かして、開塾を決意


――昔から、塾を作ろうと考えてらっしゃったのでしょうか?


芦永奈雄氏: 小説家になって身を立てようと思っていたこともあったのですが、その望みは絶たれました。2001年、私の師である三田先生から、元旦に送ったメールの返事が来ました。ちょうど21世紀が始まった時で、「20世紀の所感」と書かれたそのメールに、「小説家という職業は20世紀で終わったという気がします」と書かれてあったのです。先生は、ただなんとなく書いただけだったのかもしれませんが、私はそれにショックを受け、「どうしようかな」と考え込みました。会社勤めは、あくまでも小説家になるための腰かけぐらいにしか捉えてなかったので、「もうここにはいられない」「望みもないのにこんなことをやっている場合ではない」と思い、自力でやってみようと、独立することにしました。

――それで、学習塾を開かれたわけですね。


芦永奈雄氏: その当時、私には実績として独立してやっていけるような武器がありませんでしたし、プロとしての実績もありませんでした。いくつか試しましたが、最終的には「自分の一番の強みというのは国語、文章だな。これでなんとか身を立てよう」という結論に至り、学習塾に前から興味があったのもあって、塾をやろうと思ったのです。最低でも英語と数学と3教科ぐらいはやらないといけないだろうなと思っていたのですが、人を雇える状況でもなく、自分で3教科を教えるのも大変だなと。それで「余計なことはできない、自分が一番得意とするものに絞るしかない」と考えたのです。

――国語だけに絞ることになった決定的なきっかけは、なんだったのでしょうか?


芦永奈雄氏: 国語力というのは学力全般に関して大事だと、その段階ではぼんやりと思っていて、特に国語をやる上では文章力というのがものすごく大事だなというのを、身を持って経験していたので、国語を中心にやっていこうと思いました。
当時、メルマガを出していたのですが、感想や質問など、読者からの反応が結構ありました。特に学校の先生からのメールが非常に多く、「学校で小論文を教えていますが、私自身、習ったこともないしどう教えていいのか分からなくて困っています」という内容のメールばかりでした。考えてみると、それはある意味当たり前で、先生になるまでに、システム的に小論文を専門的に教わるということがないし、教師になってから勉強するとは言っても、なかなか難しいですよね。その時に、日本の国語教育における現状に気付き、「国語専門でいってみよう」と思いました。



――周りの方の反応は、どのようなものでしたか?


芦永奈雄氏: 周りからは、「国語だけで生徒が集まるわけない」とか「うまく行くわけない」「無理だ」「やめたほうがいい」と散々で、「いいんじゃないか」と言った人は一人もいませんでした。でも、当時の私は会社にも辞めると伝えてしまっていて、もう後がない状態だったので「これでいくしかない」と覚悟を決め、他の選択肢を捨てて突き進みました。それで、かえって「じゃあ自分がやってやろう」と思いました。人から「無理だ」などと言われると、燃える性質(たち)なんです(笑)。

20年後を見据えた教育方法へ転換


――塾ではどのようなことを教えてらっしゃるのでしょうか?


芦永奈雄氏: 私が一番得意とすることは、できる人が当たり前にできることを分析して、それをカリキュラムにすることです。できる人の多くは、感覚でこなしているので自覚がありません。できない人にはその感覚がないから分からない。だから、できる人をよく分析していました。私が受験をする時に3人の先生から教わってみたら、それぞれ傾向も違いました。「あれ、あの先生はこう言っているのに、この先生はこう言ってるじゃないか」などという様々な矛盾が出てきましたし、同じものを3回書くことによって、一般的な学習とは違う、自分なりにものを考えて分析して改良するということをやっていたんだなと今は思います。そういった体験により培われたノウハウや分析結果を塾で教えています。だから、教育関係の本や参考書は全然読まないんですよ。

――塾では、どういった目標を掲げているのでしょうか?


芦永奈雄氏: 自分が目標に据えているのは、あくまでも人間を育てるということ。成果としては偏差値などに表れていきますが、それは分かりやすい結果としての一例として挙げているだけの話。主軸は人間です。一番は、大人になった時に自分の能力を発揮して、第一線で活躍する人を育てること。最初は、結果を出すことばかりに夢中になっていましたが、徐々にそういった目標の大切さを感じ始めました。結果を出すことは、実績として大事ですし、瞬間的に結果を出すのは簡単です。二浪して志望校に合格したという経験から、当初は「受験で徹底的に合格する」ぐらいの考えしかありませんでした。メルマガのスタート時は、小中学生がメインだったので、受験に重きを置いた教育はあまりしていませんでした。その時知ったのが、高校生や大人などとは比較にならないほど、小中学生の伸びがすさまじいということ。「これは面白いな」と思って教えていたのですが、子どもは、最終的には環境、つまり親の考えが最優先です。そうすると、小中学生時代に結果を出していた子たちが、高校生や大学生に成長した時には凡庸になっていたりするのです。それに対する不満が、ずっと私にはありました。

――それが教育方法を変えることになった理由なのですね。


芦永奈雄氏: 今までのものを活用させて羽ばたいてほしいと考えた時に、目先の結果を求めるのは止めました。受験のためというのも断るようにしています。将来を見据えて、子どもたちに勉強をさせたいという人たちばかりを見ようと、2、3年前に決意し、そちらの方にシフトしていきました。例えば20代は、瞬間的に出世しているように見える人が多いのですが、私は今40歳ですが、大人になってから20年も経つと、長期的な目標のためにずっと取り組んでいた人とそうでない人の差は歴然。例えばスポーツなどのように、選手生命が短い場合は別ですが、「瞬間的なことのために力を尽くしたくはない」と思いました。通過点にすぎない目標のために、人生をかけてやっていくのはもう止めにしようと思ったのです。

――ご自身で教材も作られていますよね。それはどういった思いからなのでしょうか?


芦永奈雄氏: 業界的に言うと、用意されている基本的な教材を使って教え、先生は解説を読んで教え、補助的なことをしています。ですから、主体がどっちにあるかと言うと、どちらかというと人間ではなくて、教科書や参考書、テキスト、問題集にあります。もちろん良い参考書や問題集もあるのですが、そのほとんどが受験突破や成績向上が目的になっているので、私がやろうとしている目標とは合わない。そこで、既存の教材は使わず、自分で一から教材を作ろうと思ったのです。

人としての道を外さず、自分の「芯」を作り上げる


――スタッフの方々には、どういう指導をしていらっしゃるのでしょうか?


芦永奈雄氏: 例えばAmazonだったら、ジェフ・ベゾスという創業者が世界一の書店にするということで、広大な「アマゾン」という、それらしい名前を付けたというように、その創業者の精神、意気込みを常々伝えないといけない。失敗する人の多くは、自分がやらないで人にやれと言うだけです。「この人は本気だな」とか、「本当にこのことを考えているんだな」ということを分かってもらわなければいけません。大きな見方で言うと、その精神や意気込みを、共有するということをいつもやっています。
スタッフも人間ですから、個性も、得手不得手もありますので、私や他の人の真似をするのではなく、「自分自身の強みを生かして創意工夫をして教えるように」と話しています。それから、困ることがあったらスタッフ同士で共有するようにして、「あいつがライバルだ」といった感じではなく、チームプレーに近い形で競わせています。サッカーや野球にポジションがあるように、「そこは自分がしっかりやるぞ」といった感じのやり方に近いです。「こういうことだったらこのスタッフが得意だからこの人に聞こう」とか、「情報をたくさん持っているあの人に聞こうか」などということが、この1年ぐらいでやっとスムーズにいくようになってきたなと思います。

――芦永さんにとって、「教育」とは?


芦永奈雄氏: 「人間道」です。数学や理科・物理などは研究に入っていくと思うのですが、広い意味での教育、特に国語の場合は、人間としての道ということだと思います。小論文などを書けない人は、「自分は文章力が無くて書けないのだ」と思っていることが多いのですが、実は、意見が少なく、ものを考えていないから書けない、ということもあるのです。マスコミが騒ぎ立てていることを鵜呑みにして、ああだ、こうだと言っている人は、現場のことをよく知らないし、裏をとっているわけでもない。そういった人の多くは、いい加減なことを言っているだけなのです。そういうことばかり言ってきた人が自分の意見を書けるかというと、なかなか難しいのです。書く場合は、自分の積み上げてきたものを記述するべきです。小手先で一般的に言われていることの逆のことを言ったりすることも、ある程度有効ではありますが、それは自分自身の意見ではありません。ですから私は、自分の「芯」を築き上げていくことが一番重要だと思っていて、去年の暮れ頃からグローバル教育に力を入れていこうと、少しずつシフトしています。

――芦永先生の考えるグローバルとは?


芦永奈雄氏: グローバル教育と言うと、みなさん「英語」と思いますが、それは全く関係ありません。日本人が外国で活躍するために英語ができるかどうかというのは重要なことではなくて、その人自身が勝負できるものを持っていないといけません。例えば外国人が日本に来て、日雇いのような仕事をしたり、極端な話、ホームレスになったという場合、その人が日本語を話せても、それはただ住んでいるだけで、グローバルではありません。グローバルというのは国境、垣根を越えて活躍して初めてグローバルなのだと思います。

本への欲求を満たすため、自らアピール


――最初の本はどのようにして出版されることになったのでしょうか?


芦永奈雄氏: もともと小説家になろうと思っていたので、本に対する欲求というのが強くあって、「何か形に残さないと死ねない」という想いもありました。それで、本を出版されたという知り合いの社長さんに会い、「実は、私も本を出したいんです」とお話ししてみたのです。すると、「紹介しましょうか」と言って下さいました。私は、「お願いします。実はもう原稿も持ってきているんですよ。4、50ページ分ぐらいなのですが、良かったら渡してもらえませんか」と言いました(笑)。その社長さんがかなり私を推してくれたのもあって、原稿を渡してもらった後、すぐに話がきました。

――本ができあがった時は、どのような気持ちでしたか?


芦永奈雄氏: 自分の生きた証しがやっとできたなという気がしました。夢だった小説でのデビューではありませんでしたが、今でも趣味で書いていたりもしています。小説を書くときは、漢字にする言葉や、点を打つ場所、打たない場所などを熟考しますから、国語力が伸びます。言葉に対する感覚や意識などが格段に変わってくるのです。

――電子書籍について、どのようにお考えですか?


芦永奈雄氏: 私自身、電子書籍にはほとんど接したことがないので、あまりものを言う資格はないかとは思うのですが、読み手側として、電子書籍が一番結果を出せるやり方が1つあると思うのです。それは、短い時間でたくさんのものを読んで、接して、体系的なものを作り上げるということです。例えば紙の媒体の場合、真面目な人だと最初から最後まで全部読んだりしますよね。学生時代はAmazonがなかったので、絶版になったけれど欲しいと思う本を、古本屋を歩き回って2年間かけて見つけたこともありますが、今ではAmazonがあって簡単に手に入れられますよね。本が増えてくると、「とりあえず2、3冊買ってみようか」という程度の数になるかと思うのです。でも、電子書籍の場合は場所を取らず、やや安価なので、例えばそのジャンルに関して4、50冊分ぐらいの大量の本を買い、目に留まる部分や気になるところを読んでいくと、それこそ1週間、2週間で4、50冊でも目を通すことができます。そうやって多くの本を読むことによって、見えてくるものもあるのではないかとは思います。体系化は、大量の情報を短い期間で接することができるという電子ならではの最大のメリットの1つではないかなと思います。

――読書の良さとはどういうところだと思われますか?


芦永奈雄氏: 情報を得たり、ノウハウや知識などを理解したりすることではなく、心を通わせる、または会話をするぐらい書き手に向き合うということが、読書の神髄だと私は思っています。



人として大切なことを、日本だけではなく世界にも伝えたい


――教育に関して、今後していきたい、伝えていきたいことなどはありますか?


芦永奈雄氏: 最近『龍馬伝』を観直していて、その中で、坂本龍馬が「わしは日本の仕組みを変えちゃろうち思うちょる」と言っています。それと同じく、私は、教育の仕組みを変えようと思っています。今の日本の教育のあり方は、ほぼ明治時代から変わっていません。文学史で新しい小説を取り入れるなどといった表面的な違いはありますが、例えば物理はもう100年近く前のものをやっている状況で、やり方そのものは変わっていないのです。あの頃は確かに「西洋に追い付け追い越せ」という状況だった為、底上げで良かったと思います。でも、今はもう全く違う状況で、根本から変える必要があると思うのです。まず、主要科目は5教科もいらないと思います。選択科目ぐらいにしておいて、欲しいと思ったらいつでも学べるぐらいにしておけばいいと思っています。その代わりに、リーダーシップやコミュニケーション力など、人間としての在り方といった大事なことを学べる授業を、もっと教育現場に取り入れるべきだと私は考えています。

――新しい科目として教えていきたいのですね。


芦永奈雄氏: この10年間でそれをやりたいと思っています。また、「日本で役に立つものを海外でも」という考えで、日本より教育水準の低い国に広めていきたいのです。暗記や型を覚えるというやり方を好む人は、今のままやっていていいとは思いますが、そういった極めて作業的な勉強は、必要最低限でいいと私は思っています。「学ぶ」ということを大事だと思っている人には、社会に出てすぐに通用するぐらいのことを、子どものうちから教えていきたいと思っています。

――「子どもだからまだ早い」ということはないのでしょうか?


芦永奈雄氏: 受講生の中に、小学4年生でハーバードを目指している子がいるのですが、その子は最近作文で大きな賞を取り、学校の朝礼で表彰されることになったのです。その子にはカンボジア人の知り合いがいて、カンボジアの子どもたちが文具類を欲しがっているということを知っていました。その子は、校長先生に直接交渉し、全校児童の前で表彰された際に「いらない文具を寄付してもらえないか」と呼び掛けをしたそうです。その後も教室で呼び掛け、新聞のようなものを貼り出し、寄付を募り、どんどん広がっていきました。カンボジア語や英語を話せるわけではないですが、これこそが、グローバルに活躍する人の在り様だと思いました。「子どもだからまだ早い」などということは全くありません。今までの教育カリキュラムにとらわれないからこそ、できることがあると思います。
教育特区のような感じで、学校教育と関係なく独自の教育ができるような、実践抜きにはあり得ない生の現場で実際に学んでいくという設備、または機関を作ること。この私の理想を現実のものへとすることを、この10年間でなんとか成し遂げたいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 芦永奈雄

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