創造性の伝道師となり、日本をクリエイティブに
産能短期大学の講師を経て、1979年に日本での創造ビジネスのパイオニア的存在である、株式会社創造開発研究所(創研)を創立。企業や行政などに採用試験システムを提供するほか、人事・教育戦略、企業戦略、商品開発、ネーミング開発、創造性開発に至るまで幅広く企画立案し、講演・研修を行っています。創造性教育を中心に2000社以上、20万人もの人々を教育。300以上のネーミングを開発されました。「キャリア教育」は20数年前から企業人に実施されていて、10年ほど前からは高校生や大学生を相手に、学校現場でも実施されています。子ども対象には、累計で2万人の小学生を集めた「ワンパク発明学校」を主催。その他、5000人を米・加・英で学ばせた海外ホームステイの「NNS国際スクール」も実施しました。創造性の「研究」では60冊もの書籍を刊行、その中には『創造力事典』『ブレインライティング』『問題解決手法の知識』『会議の進め方』『企画力をつける』『発想の瞬間』などがあります。今回は高橋さんの目から見た日本の創造性と、創造性の教育について語っていただきました。
誠心創意
――学生時代から創造性の研究をされていたそうですね。
高橋誠氏: 心理学を学び、学生時代から創造性の教育、創造性の方法を研究してきました。米国生まれのブレインストーミングという発想法、日本で生まれたKJ法など創造技法を研究する学生の団体がありました。それが日本で最初の創造性を研究する団体の日本独創性協会でした。3年の時にその委員長をしたのが縁で、創造性の研究をその頃から少しずつ始めました。その団体を紹介してくれたのが「この木なんの木 気になる木~」で知られる『日立の樹』コマソン(コマーシャルソング)の作詞家、伊藤アキラさんです。伊藤さんが大学の先輩であったので仕事もいただき、私もコマソンを作って賞をもらったことがあります。その流れで、TBSの「お笑い頭の体操」などテレビの番組の問題作りもしましたね。このように1つは実務的に創造するという部分と、発想するための方法の研究、その両方を学生時代からやってきました。大学を出てからしばらくして産能大に勤め、ビジネスコンサルタント的な仕事と、創造性教育の企業向けのコースで教えるという2つの仕事をやっていました。その後、元々私が取ってきたクライアントでもあった電通さんと日本テレビさんの2社から声をかけられたのが、創造開発研究所を作るきっかけとなりました。
――創造開発研究所ではどのようなお仕事をされているのでしょうか?
高橋誠氏: 1つは創造性の教育を中心に、企業教育や企業の人事関連の仕事です。次は創造性開発に関してのさまざまな実践です。採用試験問題は各種開発していまして創造性テストといった独自なものがあります。また大手広告会社をはじめ人事制度を作るお手伝いなどもやっています。学校教育の分野では、殆どゼロベースのスタートとなりましたが、9年前には日本教育大学院大学創立を手掛けました。そこで学校教育に創造性教育を取り入れるのも仕事です。また私は、いかにして発想するかという方法論を研究してきましたので、色々な企業の商品開発のお手伝いも展開しています。すでに200ケースくらいかかわりました。もう1つは、CI(Corporate Identity)なのですが、企業の戦略やビジョン、ミッションを決めブランドの向上をはかる仕事です。JTBさんやテレビ新潟さんなどといった企業のブランド開発などのお手伝いをしてきました。商品のネーミングでは、「ゆうパック」「トステム」とか「ビッグエッグ」や「たまプラーザ」などのネーミングは私の会社が開発しました。それからマーケティング関係の仕事も幅広くしています。色々な仕事をしていますが、どの仕事も面白い。「誠の心を持って、もっと創造的に生きましょう」という意味を込めた、「誠心創意」という言葉を事務所に掲げています。寒山寺という中国の有名なお寺の住職さんに字を書いていただいたものです。
子どものための創造性教育
――子どもの教育関係のお仕事はいつ頃から始められたのでしょうか?
高橋誠氏: ここ10年くらいの間でしょうか。日本教育大学院大学の設立は、実は栄光ゼミナールのオーナーから頼まれたのです。栄光さんやZ会(増進会)さん、市進さんや進学会さんの社長達とご一緒に、「次代の教育を共に拓く」という会を4年前に作りました。主たる仕事は、3月と12月にやっている全国の中学生約2万人に対し実施している学力テスト。春は普通の学力テストですが、冬は新学力と言って、いわばPISA型テストです。PISA型テストとは社会に出て適応できるような能力を調べるテストです。
東京商工会議所さんがやっているエコ検定では、もう16万人の合格者が出ました。私は子どもにこれからの環境について、もっと考えてもらうことが必要ではないかと考えていました。朝日新聞さんは「地球教室」という子どもの環境教育を長年行い、学校に25万冊ほどの教材を無料で提供しています。そこでその勉強の成果を見るために、「エコ検定」の子ども版「子どもエコ検定」を作りました。朝日新聞さんの「地球教室」をその公式テキストにして、8月から翌年3月まで問題をネットで無料提供し、いつでも検定を受けられるようにしました。子どもエコ検定はたいだい小学校4年生から中学生くらいまでの子どもたちを想定していますが、ユネスコスクールなどとも連携して大きく展開しているところです。
――「ワンパク発明学校」もされていますね。
高橋誠氏: イベント形式の子ども教育です。たとえば山形県の教育委員会と話をして、ある学校で子どもたちを集めるのです。そこで「山形は雪が多いでしょ?じゃあ例えば雪の遊園地というテーマで、考えてみよう」ということで、まずはアイディア会議をします。次に設計図を皆に書いてもらい、綿や割り箸やゴムひもなど色々な道具を使ってプロトタイプを作りあげて、最後にはグループごとに発表するのです。それからもう1つは、スクスクスクール。日本テレビさんから「長野県の伊奈という村に廃校があるんだけど、そこを使ってなにかできないだろうか」と言われ、私が考えたのは、田舎の子どもたちが先生となって、都会の子に田んぼや山での遊び方などを教えるというものでした。また、私は富山県ともご縁が深くて、富山県の創造性教育を何十回と行っていて、全県の全ての中学校の先生へ講演もしました。富山県の教育委員会が、「夏休みに、子ども向けの面白い企画をやりたい」と言ってきたので、立山にある少年の村を使って山の創造教育をしました。小・中・高・大学生100人の生徒で縦わりのチームを作り、自分たちで藁などを使ってキャンプ場に家を作ります。チームを部族とし、部族の名前を考えるところから始まり、献立を考えて材料を選び、それから部族のファッションや憲章も作りました。山岳オリエンテーリングでは、普通は番号や絵を使いますが、その時は創造クイズを解くといったような仕掛けにしました。子どもの創造性については共著の本を出してますが、なるべく早く創造性教育をしっかりまとめた本を書こうと思っています。
――子どもの教育に重点をおかれるようになった理由は?
高橋誠氏: 「大きくなったらこうなりたい」といった思いは5歳くらいの子どもにもあるのではないでしょうか。「将来こうなりたいな」と思えば、勉強への意欲は増します。例えば、「小さくてもいいからお店をやりたい」と思えば算数を勉強しないとマズいし、「車を作りたい」とすれば、機械などのメカニズムも研究しないといけないので物理が必要だろう、という話になります。これはいろいろな教科を学ぶ総合教育になるし、“自分は将来どうなりたいか”という生涯教育にもなります。だからこそキャリア教育は、あらゆる教育の基本なのだと思っています。去年の9月に赤城神社のお祭りがありまして、私の8歳の長男が射的で、7発中5つも落としました。秘訣を聞くと「上を狙うと倒れても的が落ちないから、基本的には真ん中。真ん中よりもやや下を狙うと後ろに落ちるんだ」と言いましたので、「次の2020年のオリンピックは、お前はライフル射撃で決まりだな」と話しました。妻の実家の向かいがクレー射撃の練習場で、そこでやらせてみたら100点満点中93点でした。すっかり興奮した私が「ここへ通って練習できるようにおばちゃんの家に住み込んで、学校もこっちに変えよう!」と言ったら「ヤダ」と言われてしまいました(笑)。どこで学んだのかわかりませんが、自分で知識を得て、何がしたい、何になりたいということも自分で判断できる力を持っているようです。息子はまだ小学生ですが、高校生や大学生でも一番重要なのは、「将来どうなりたいか」ということで、そのためには「どの大学」ではなくて「どういう学部がいいのか」、という流れであるべきなのです。しかし、文学部、経営学部、商学部、法学部などといった学部別の本というのはほとんどないのです。ですから、そういった本のシリーズを作ろうということで、法学部の本を作りもしました。
――子ども教育において、参考にされているものなどはありますか?
高橋誠氏: フィンランドでは創造教育と論理教育の2つをやっていて、非常にレベルが高い。「Miksi」(どうして?)という言葉と、「Kartta」というマインドマップ。小学校3年生のテキストを見てみるとマインドマップが掲載されていて、それを使って文章を作ろうといった内容のものでした。創造性と論理性の2つを持つのは、子どもだけではなくて大人にとっても重要。創造性教育をうちの息子にどうやってやろうかと考えた結果が、「考えるノート」です。私はいつも「なぜ?」と彼に問うのです。学校で竹車と紐を使って風力自動車を作ってきたことがありました。「前がこんな形だったらスピードをだすのは難しいんじゃない?」と言うと、切るなどして改良し、「これでスピードがでる?」と彼は質問してくるので、「どんな形がいいかな?」などと問いかけます。すると「この前ライト兄弟の本を読んだら、飛行機を作った時にはカヌーを参考にしたと書いてあった」と言ってきたので、「カヌーはどういう形をしてる?」とか「カヌーだとどうして速いの?」などといった会話をしていくと、最終的に「流線型にするといい」と答えるので、それをノートに記録させるのです。そうすると面白いことに、色々なことを一所懸命に考えるようになってくるのです。
――「面白い」と思えることが、様々な活動につながっているのでしょうか?
高橋誠氏: そうですね。面白いと感じることと、人との繋がりが好きだということ。それとある種の好奇心でしょうか。マドリードには行ったことはあったのですが、残念ながらバルセロナにあるガウディのサグラダファミリア教会などには行ったことがなかったので、今回行ってきました。
3.11の翌年には、被災地の子どもたちに手紙を書こうというキャンペーンをやりました。「励ましの手紙」という冊子を5万部全国に配りました。そしてその代表作を纏めて又冊子を作って配布するなど全国の子供たちと被災地の子供たちを繋げる活動などもしています。やはり一番重要なのは「絆」なので、このキャンペーンには「復興の絆」というタイトルにしました。このように色々なご縁や繋がりから発展した仕事や活動も多くあります。