創造の方法を電子化する仕組みを考える
――電子書籍はご利用になっていますか?
高橋誠氏: 今のところ、東洋経済新報社から出した『ブレインライティング』は電子書籍化していただいています。友人が電子書籍を作る会社をやっておりまして、販売会社も知り合いがやったりしています。「問題解決フレームワーク」という創造技法の電子アプリも1つ出しています。そして現在、ツイッターを使った発想法や創造技法をパッドなどを使って電子化するプロジェクトも進めています。
――電子黒板なども手掛けていらっしゃるそうですね。
高橋誠氏: 教科書に載っているデータも、実は一番新しいものでも3年前のものです。はっきり言って、ナンセンスですよね。だから、現代社会などの分野では電子教科書にするのが当たり前なのではないかと思います。朝、先生が「今から送るね」と生徒の端末にデータを送れば、生徒たちの現代社会の教科書は、常に新しい内容を取り入れられますよね。日本では今でも先生が黒板を使って情報を書きだして、それをノートにとらせていますが、パワーポイントで重要なところだけを見せて、必要に応じてテキストにすればいい話なのですが、なかなか変わらない。やっぱり先生が変わるしかないのです。ICT教育の研究会を立ち上げ、ある私立中学・高校で1割以上の先生たちにICT(情報通信技術)の教育をやって、まずは使えるようにした。それから、使うのに必要なデータを東京書籍さんのご協力で進めるというようなトライアルをやりました。そのプロセスを学会で発表もしました。それから、大手上場企業と組んで、今まで紙ベースでやってきたのを、ブレインライティングをパソコンなどを使ってやり、まとめをする時は電子黒板に映してというように、手法を電子化するための開発のお手伝い、いわゆるコンサルもやっています。例えば商品開発をする部署などに使ってもらうとか、そういう創造の方法を電子化する仕組みを今、一所懸命考えているのです。
クリエイティブな人を褒めるために、「日本創造大賞」を
――今の「日本の創造性」は、高橋さんの目にはどのように映っているのでしょうか?
高橋誠氏: 私が目標としているのは「日本をクリエイティブにすること」なんです。アメリカで「クリエイティブ」というのはすごい褒め言葉なのですが、残念ながら日本では、創造的な人に対して「あいつは変わり者だ」といった感じで、優しくない。だから、まずはクリエイティブな人たちを褒めること。私が死ぬまでに成し遂げたいと思っているのは、「日本創造大賞」の創設です。全世界で20兆円から30兆円のマーケットをもつ「カラオケ」は、神戸の井上大佑さんが考えたものです。井上大佑さんは元々バーで、ギターの伴奏をしていたんです。ある時、お客さんから「今度、有馬温泉にみんなで旅行に行くので、一緒に来て伴奏をやってくれ」と言われたのですが、その日はどうしても行けなかった。そこで「私の伴奏をテープに入れればいいじゃないか」とひらめいて、それが好評だったというのがカラオケの始まりです。井上大佑さんは日本ではあまり知られていないのですが、アメリカの『タイム』では20世紀、「世界に影響を与えた20人」の中に選ばれていますし、イグノーベル賞も貰っています。日本がもっと創造的になるためにも、そういった人たちを、「やっぱりあんたは偉かったよね」と褒めてあげたいのです。
――褒めることによって、大きな価値があるのだと世の中に伝わりやすくなりますね。
高橋誠氏: 失敗があるからこそ成功があるのです。失敗とはマイナスではなくて“成功へのチャレンジ”と言えます。これを評価しない限り、絶対に成功は無い。富山にあるコーセル株式会社の社長さんの話を聞いたことがありあります。彼の会社では“失敗大賞”という、過去1年間に大失敗した人が、「お前よくチャレンジしたな」と褒められる賞があるそうです。笑いの文化や、ダジャレも大いに結構。そういう文化・世界を作りたいと私は思っているのです。日経新聞さんと一緒にやった、企業創造や個人の創造などのキャンペーンなども、その延長の1つなのです。日本は「クリエイティビティを大切にしない?」「自分のクリエイティブ能力を出すことを躊躇する?」と私は思っていますので、創造性を重視する日本にする仕事を様々な形で展開していきたいと思っています。私は、創造性の伝道師といったものになれればいいなと思っています。
――クリエイティビティを大切にするということ。そのためにはやはり、教育の面から改善の余地がありそうですか?
高橋誠氏: アメリカなどのキャリア教育を見ると、すごいなと思います。カリフォルニアのサンディエゴというエリアの学校へ取材に行きましたが、中学校にキャリアカウンセラーがいるのです。学校に入ると、まず「君は将来何になりたいの?」ということを聞かれ、「それだったらこういう授業をとったらどう?」とアドバイスをしてくれるのです。大学でも同様のアドバイスをされます。高校時代になりたかったことを最後まで成し遂げた人は、実は6%くらいしかいません。しかしF1のレーサーになりたいと思って一生懸命勉強した後に、植物について勉強したいなと方向が変わっても、それまで培ってきたやり方、考え方が応用できるわけです。2010年に、IBMが世界のCEO1541人に「これから5年先のリーダーに何が必要か」と質問したら、回答のトップはダントツでクリエイティビティでした。でも残念ながら日本ではまだまだクリエイティビティは重視されていない気がします。私はその底上げを図るために、小学校や中学でも創造性の教育をやりたい。今、ある女子高の総合的なお手伝いをしているのですが、ある企業の商品開発を、3クラスある2年生の生徒たちにやらせるという話になりお手伝いをしています。私の教え子でもある先生が1年間教えて新商品を考えさせるのです。もしかしたらそのまま商品化できるかもしれません。
――今後の展望をお聞かせください。
高橋誠氏: 去年は、ナボナというお菓子を作っている亀屋万年堂さんをテーマにしていて、現在は試作を作る段階に入りました。学園祭を「グローバルでクリエイティブな探求女子」というのをテーマにして、創造性の発想法などを考えて展示するといった計画もあります。2005年からは、日経新聞さんと組んで物理学者の江崎玲於奈さんを委員長に、創造型企業や創造委員会をつくり、このメンバーで企業向けの「創造企業」シンポジウムをやりました。また個人対象では「クリエイティブな暮らし」というテーマで、クリエイティブという概念を広めようと年間のキャンペーン広告も実施しました。また日本経営関連学会協議会の企画担当理事の任期が来年の3月で終わるので、来年までにもう1つきちんとシンポジウムをやろうと思っていますし、創造性の方で韓国や台湾、そして中国では創造学会を作るお手伝いもしましたので、創造学会でも、近々、海外の方をお呼びして国際大会をやりたいと考えています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 高橋誠 』