夏井睦

Profile

1957年、秋田県生まれ。東北大学医学部卒業。従来からあった基本概念を発展させ理論構築し、消毒とガーゼを使わない創傷・熱傷の湿潤療法を普及させた。傷治療の現場を変えるべく、発信を続けている。著書に『キズ・ヤケドは消毒してはいけない 治療の新常識「湿潤療法」のすべて』(主婦の友社)、『ドクター夏井の熱傷治療裏マニュアル―すぐに役立つHints&Tips』(三輪書店)、『傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学』(光文社新書)など。 また、江部康二氏の提唱する糖尿病の糖質制限治療についても自分の身体を使って実験・実証しており、関連著書に『炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学』(光文社新書)がある。

Book Information

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全体を俯瞰できる視点が大切


――趣味で作った音楽サイトがきっかけだったんですね。


夏井睦氏: ピアノを弾くこと自体が好きでした。小学生でショパンの幻想即興曲を弾いていましたから(笑)。高校2年まで先生についてピアノを学びました。先生には医学部を受験するので高校2年でレッスンは終了になります、と伝えました。その時先生は、「君はこのまま一生趣味としてピアノを弾くと思うけど、アマチュアだからこの曲は弾けないとか、アマチュアだから易しくアレンジして弾けばいいとか、ゆっくりしたテンポで弾ければいいとか、そういうピアノ愛好家にはなってほしくない」と言われました。曲の前ではアマチュアもプロもなく、弾けるか弾けないかだけだと。そして、高校2年の1年間で徹底的に鍛えられました。ある意味、物事に取り組む基本的姿勢を教えてくれたのはこのピアノの先生です。

――音楽だけでなく、サイトでは書評も書かれていますが。


夏井睦氏: 読んで「これは」と思った本は、内容を要約してテキストファイルで保存しています。ちょっと厚めの本だと20,000~30,000字のテキストファイルになりますし、これまで一番多かったのは80,000字の要約を書いたこともありました。その文章の誤字脱字を通勤の地下鉄の中でチェックします。その後、この本のレビューを書いてホームページに掲載するわけですが、それまでに最低でも4回ほど読み返すことになりますので、素粒子理論の本も古代文明の本も、内容はほとんど頭に入ります。そしてレビューを書き終えた本は捨てます。
テキストファイル化した本の情報は1つのフォルダにまとめて、データ検索できるようになっています。例えば「石器時代」で検索すれば、石器時代の食事から住居に関する文献が全部、横断的に出てくるようになっています。「小麦・栽培」と入力すれば、植物学から考古学の本まで出てきます。

僕は本が好きなので、たくさん読みます。でも読んだ本を全部とって置いたら寝る場所がなくなりますので、読んだ本は捨てることにしています。欲しいのはテキストファイルというデータであって、本というモノが欲しいわけじゃない。だから、情報をテキストファイル化した時点で「本というモノ」は不要になります。ピアノの楽譜も同じで、全部PDFファイルにしています。これなら、古今東西のあらゆるピアノ曲がパソコンのハードディスクに入ります。持っていない楽譜があれば持っている人から送ってもらえばいいし、同好の士で共通アーカイブを作れば個人でデータを所有する必要もなくなります。こんなことを1998年ころから考えていました。

――そういったデータベースが、無関係のものをリンクする先生の視点の素地になっているんですね。


夏井睦氏: 私は、お互いに無関係と思われる様々な知識や情報の背後に共通する要素があるのではないか、統合的に扱えないか、と考える癖があります。ところが、例えばヤケド治療の専門の先生はヤケドに特化し、床ずれ専門の先生は床ずれに特化してしまい、ヤケドの治療と床ずれ治療を別個のものとなっているのが現状ですが、私は「治るメカニズムが同じなら区別するのはおかしい」と単純に考えるわけです。両者は受傷原因は異なっていますが、創面だけ見れば区別がつきません。深いすりむきキズとも区別がつきません。区別がつかないのであれば別々の治療をするのはおかしいと気が付きます。原因によってではなく、傷の状態によって治療法を考えればいいのであって、薬品を浴びたヤケドと炎のヤケドとすりむきキズを分けて考える方がおかしいのです。
このように、個別性に囚われるのではなく、全体を俯瞰した時に、共通点がないだろうかと考えることが大切だと思います。



――ずいぶんと前から電子データを活用される発想を持たれていたのですね。


夏井睦氏: 楽譜のデジタル化を始めた98年頃からサーバーに楽譜データを置き、みんなでアクセスできるようにすれば、世界中のピアニストと愛好家がいつも利用できる図書館が作れることに気がついていました。なぜ、そう考えたかというと、ピアノ曲の楽譜で出版されているものは有名作曲家のものばかりで、残りの多数の作曲家の作品は絶版状態だからです。ピアノの歴史を学ぶと実に多くの作曲家が登場しますが、彼らの楽譜は楽器店の店頭に存在しないのです。
例えば、ショパンと同時代のピアノ曲の作曲家は何十人もいます。でも、楽譜として手に入るのはショパンとリストとシューマンだけです。ショパンに影響を与えた作曲家の名前は残っていても、彼らの書いた曲は残っていません。もちろん、ヨーロッパの音大図書館に行けば見つけられるのでしょうが、さすがにアマチュア愛好家はそこまでできません。ところが、世界中のピアニストやコレクターにはそういう楽譜を持っている人が必ずいるのです。つまり、個人が所有する楽譜データをデジタル化してどこかのサーバーに置くシステムを作れば、巨大な楽譜データベースが誕生するはずです。
そんな次第で、失われた楽譜の発掘しては公開するという作業をするようになりました。

著書一覧『 夏井睦

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