アナログもデジタルも、両方を使い分ける
――そんな杉山さんならではの視点から、クリエイティブの、広告の素晴らしさを伝える記事を連載されていましたね。
杉山恒太郎氏: 「世界を変えた広告10選」ですね。今年の2月末から日本経済新聞(日経新聞)の文化欄で10回にわたって連載しました。広告業界の人に向けてではなくて、毎朝、日経新聞を読むような企業の幹部に向けて書いたもので、かつての広告というのがどれだけ輝いていたかということと、本来、広告にはこんな力があるんだということを伝えたかったんです。広告界へのささやかな恩返しのつもりで。日経新聞の文化欄は、多くの人が見るじゃないですか。だからきちんとした文体で書こうと思って、まず鉛筆を握って原稿用紙に向かい、こういう話にしよう、こういう言葉を盛り込もうなどと、全体像を“スケッチ”してから、あとは全部iPhoneで書いて送りました。鉛筆で紙に文字を書き付けていくと、エンジンがかかって高揚もします。それをそのまま持ち込んで、iPhoneで焼きつけるイメージです。日常生活の中で気になったことや疑問なども、iPhoneを使って調べてメモするようにしているので、もう手放せませんね(笑)。僕はけっこう本を読むのですが、気になった言葉や気づいたことなんかも、やっぱりiPhoneにメモしています。
――iPhoneで書くんですね。読み手としてはいかがですか?
杉山恒太郎氏: 最近は坂口恭平君の本を読みました。君島佐和子さんの『外食2.0』も面白かった。それからもう一つ、今の興味と今後やりたいことにも関わってくるのですが、スタンフォード大学のd.schoolの本もすごく学ぶところが多かった。今は空間と時間にとても興味があって、そういった関係の本をたくさん読んでいます。いい本は何度でも繰り返して読みますね。時間が経つと自分自身も変化しますから、同じ本でも捉え方も変われば、気付くものも違ってくるんです。そうやって、読み返しながらふと気になった言葉などは、全部iPhoneにメモ。あとで見たら、笑っちゃうようなくだらない言葉なんかもありますけどね(笑)。
僕は本は一種のオブジェだと思っているところがあるので、紙の本が結構好きなのですが、でも、なんでもiPhoneの人だから、電子書籍にもすごく魅力は感じています。読みやすいし、知識を持って歩けるわけだし、やっぱりいいなと思う。
――杉山さんの興味と気づきは、今後どのような形でコラボレーションされていくのでしょうか?
杉山恒太郎氏: 今は、本当にいろんなことをやっています。丸の内に全く新しい考え方のミュージアムを作っています。高松に「四国村」という古民家のテーマパークのようなところがあるのですが、そこの全面リニューアルに携わったり。唐津ではもう3年近く、唐津焼美術館設立の準備をしていて、そこも画期的なミュージアムにしようと思っています。いい空間づくりや、いい時間づくりをしている、といえばいいですかね。もちろん、いわゆる広告制作の仕事も変わらずやっています。これらはすべて、今まで広告の仕事で培った経験を、新しい形で生かしているだけなんです。広い意味で、全部広告。広告の仕事が好きなんですよ。きっと一生、広告をつくり続けていくでしょうね。
(聞き手:沖中幸太郎)
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