波頭亮

Profile

1957年、愛媛県生まれ。 東京大学経済学部(マクロ経済理論及び経営戦略論専攻)を卒業後、マッキンゼー&カンパニー入社。 1988年独立、経営コンサルティング会社(株)XEEDを設立。 幅広い分野における戦略系コンサルティングの第一人者として活躍を続ける一方、経営戦略論や論理的思考に関するテキストの著者としても注目されている。 著書に『経営戦略論入門: 経営学の誕生から新・日本型経営まで』(PHPビジネス新書)、『成熟日本への進路―「成長論」から「分配論」へ』(ちくま新書)、『思考・論理・分析』(産能大出版部)など。

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卑劣なこと、卑屈な思いはしたくない


――確固たる信念を感じるのですが。


波頭亮氏: 昔からしたくないと思っているのは、「卑劣なことをしたくない」、「卑屈な思いをしたくない」この2つ。卑劣なことをしたり、卑屈な思いをしてまで何かを得たいとも思わない。これは子どもの時からそう思っていました。多くの人が卑屈な思いをさせられたり、卑劣なことをしてしまうのは、実力以上に出世したりあるいはお金を儲けようとするからだと感じていました。

若い頃は、そういった世の中を理解できませんでしたが、30後半になって分かる部分も出てきました。権力やお金に目が眩んでいるだけではなくて、みんな卑屈な思いをしないと、多少はずるいことをしないとご飯すら食えない、家族を養うことができないという、「生身の人間の生活」という現実を僕は見えていなかったのです。それこそ『北斗の拳』のような世界だったら、普通の弱い人々がどんなに頑張っても悪いハート様やスペードにボコにされて終わってしまうのです。僕が権力やお金などを欲しくないと思っていたのも、家族や色んな諸条件のおかげで、食えることが保証されていたからだと思えるようになりました。人として生まれてきたからには、少しは威張りたかったりするので、それはもうしょうがないと思うようになりました。

――『プロフェッショナル原論』にも、波頭さんの信念が読み取れます。


波頭亮氏: 1990年代後半くらいからプロフェッショナリズムがコンサルタントの中からすごい勢いで消えていき、金儲けのための姑息な職業になってしまっているように感じるところがありました。あの本はそういう傾向に対して「ちょっとしっかりしてよ」という後輩たちに対する檄文なのです。同世代のコンサルタントである、冨山和彦さんとの対談で、彼は「今のコンサルティングファームの仕事は、文房具箱だよね」と言っています。やっぱりみんなお金を稼ぐことが、大好きなのです。

「必要なレベルで稼ぐのはいいけれど、知的に恵まれたものがあるんだから、そんなに金のために誇りを捨ててまで卑屈な仕事しなくたっていいじゃん」という思いであの本を書きました。お医者さんたちからは、「胸が熱くなりました」とか「大病院の儲け主義で自分は1回医者を離れていたんだけど、あの本を読んでもう1回医者に戻ろうと思いました」と胸が熱くなるような手紙をたくさんいただきました。

ロングセラーの本を届けたい



波頭亮氏: 僕が本を書くにあたって考えることは、たくさん売れそうかどうかではなくて、読み流すような本ではなくて、精読したいと思ってくれる本を書きたいということです。僕が小学生の頃、本屋さんに並んでいた本は、どれを読んでも面白かったし、立派だなと思う本が多かった。僕にまだ知識や経験がなかったからというのもあるかもしれませんが、本のクオリティが高かったです。今は少し違う気がします。出版社が「本を出しませんか?」と言ってきてくださって、「じゃあこういう本で」と僕が言うと、「それじゃ、売れない」という理由で却下されることも多いのです。あと、軽くて薄い本を作りたがるという傾向もあるように思います。

僕も生活しなければいけないから、ある程度コマーシャリズムと折り合いをつけるというのは、批判はできませんが、僕は幸か不幸か経営コンサルティングの仕事で生活を支えることができるので、売れるかどうかは別にして、少し堅いテーマで、できれば原論的なアプローチで、そして他の人では出せないような本を書こうといつも思っています。

1万部しか売れない本よりは、5万部10万部売れた方が編集者としては会社の中での評価は高くなるのは分かっているので、担当の編集者さんには大変申し訳ないと思っています。でもおかげさまで地味かなと思った本でも、15年ぐらいずっと増刷している本がいくつかあるんですよ。例えば『組織設計概論』に関して言えば、組織の総合的な原論のものはあの本以外にまだ出ていないから、もう13刷か14刷までいっているかなと思います。あの本は編集者がどこかで僕の講演を聴いて、「コンサルティングの経験をベースにした経営の理論書を、書いてくれ」ということで書き始めたものなのです。「そのうちちゃんと書きますから」と言いながらも、締め切りは3、4年は過ぎていましたね(笑)。彼がいなかったらあの本は世の中に出てないと思います。

著書一覧『 波頭亮

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