メタファーとメトミニー的展開を意識する
――山口さんの本では、引用を大切にされていると感じます。
山口周氏: 自分自身が読む場合も、本の中で引用されていたりするものから、もとを辿ってさらに読み進めていくことが多いのです。ですから私自身も書き手として、“どこから引っ張ってきたネタか”というのを開示しておくのがいいと思っています。先ほどお話しした『アムンセンとスコット』の場合、南極や犬ぞりというものに興味を持ち、南極の本に行くことになれば、それはメトミニー的な展開。一方で、今までやったことがないことにチャレンジするという内容は、起業家の話にも飛びうるわけです。これはメタファー的な展開になります。
――垂直的かつ横跳びに、読書や思考が広がるようなイメージで……。
山口周氏: そういう事を意識して読んでいます。そうすることで、読んだ内容の定着率が高くなります。BCGの大先輩である内田和成さんは、20個ぐらいのキーワードのラベルが頭の中にあって、読みながらこれはリーダーシップのネタだとか、これは異業種競争戦略のネタだとか、その本の中から色々なラベルのネタを取り込むっていうことをやっているそうです。つまりタグ付けです。新しいことをやるリーダーについて、ソニーの井深さんの本やアムンセンの本を読むと、その共通項が見えてきたりします。すると、そこでまた1つ語れるものが出てくるわけです。抽象化だと一般論になってしまいますが、具体論としてあると説得力が出てくるのです。そういうことは横断的に検索できたり、タグ付けができる電子書籍のメリットだと思います。
革命家を育てたい
山口周氏: 他にも電子書籍は登竜門的な存在としても有用だと思います、それから本を購入した人だけに、テキストデータも得られるコードが発行されると有用だと思います。
――今後、どんな事を発信していきたいと思われますか。
山口周氏: 僕の行動する判断基準は、“カッコいいか、カッコ悪いか”ということ。それから、美しさ。見た目だけではなく、「こういうものが世の中にあった方がクールじゃない?」という感じでしょうか。でも、自分の思った通りには進めないこともあると思います。「そういう時は、逃げるが勝ちっていう手もあるよ」と、若い人に言っています。むりやり頑張らず、合わないと思ったものからは逃げればいいと思います。
「これだけはやりたくない」ということを、組織の都合でやらなくてはいけなくなると、それはとても苦しいと思います。トラブルが起きた時、組織的に隠ぺいするなどということをやっていると、人間は壊れてしまう。そんなことをするぐらいならば会社を辞めた方がいいと思うのです(笑)。自分のスタイルを最後まで崩さなければ、本当の意味での“酷いこと”にはならないと僕は思うのです。自分のスタイルを捨てて、自分がいる場所の支配的な空気や価値観に合わせる、つまり“組織がなくなると、自分もなくなってしまう”ということ。自分や組織のアイデンティティが何なのか、わからなくなっている人が結構いるように思いますが、僕は「これだけはやりたくない」という自分の軸を持ち続けています。
楽しい仕事を通じて、幸せになる人を増やしたいと考えています。仕事が楽しければ、会社も良くなるから、世の中にも活気が出てくると思います。僕が世の中で一番なくしたいと思ったのは幼児虐待です。幼児虐待の根本的な原因は、貧困だと僕は思っています。「貧困をなくすために、所得税率を80%ぐらいにしてもいいんじゃないか」と。そのかわり、絶対にある一定のレベル以上の生活をさせてあげる、という風にしたいなと僕は思っています。でもそうすると、全体のパイを大きくしないといけない。まずはみんなが仕事を一生懸命やって、“楽しい”という状態までもっていきたいですね。
「頑張って、つらい仕事をやったんだから」という発想があるからか、経済的な成功を人に分配することを嫌がる方もいますよね。でも、仕事そのものが趣味や報酬で、それに付随して経済的な成功がついてきた時、「所得があがった分を、誰かに分けよう」とみんなが考えるようになれば、世の中がもっとよくなるのではないでしょうか。
――今後、やりたいこと、書いてみたい題材などはありますか。
山口周氏: 僕は、革命家を育てたいと思っています。会社を変えることでいち企業に革命を起こす革命家です。会社を使って世界を変えようと、心の中に気概を持っているような人をたくさん育てたい。そういう人たちが社会的な問題意識を持って、会社の能力や技術、ノウハウをどう使えるかを考えながら、会社の中で活躍してくれれば、世の中は面白いことになると思うんです。世の中を作っているのは企業なので、企業が変わらないと世の中は変わらないと思います。企業を変えるためには、目的をオブラートに包んで、いかに上の人に取り入って、したたかに上手く動けるか。そういう革命戦士を、たくさん作っていきたいと思います。
(聞き手:沖中幸太郎)
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