本はつなぎ役であり、窓でもある
――Kindleを使われているそうですね。
倉都康行氏: これはKindle Fireで、2代目です。Kindleが日本で発売された時にすぐ買いましたから、僕はわりと早い段階でユーザーとなりました。友達がアメリカで仕入れていて、見せてもらったら、とても読みやすかったので、僕も買うことにしたのです。その頃は英語のものだけでしたが、僕の仕事もほとんど英語なので、原書を読むのにすごく楽でした。また、紙の本と違って厚くないので、電車の中など、どこでも読めます。もちろん本は本で、物理的な存在という部分でもすごく重要だと思いますが、電子書籍にも良いところがありますよね。最初は、前のページやブックマークしたところになかなか行けず、とてもイライラしたこともありましたが、今は慣れました。
――どういった作品を読まれているのですか。
倉都康行氏: Fireになって、日本語の作品も読めるようになってからは、ベストセラーはあまり読まず、古典などを読んでいます。どちらかといえば経済とは直接関係のない、色々な分野の本を読みます。例えばホメロスの『イーリアス』や『オデュッセイア』、ゲーテの『ファウスト』、あとダンテの『神曲』などですね。
ヨーロッパに住み始めたこと、また元々ヨーロッパの音楽が好きだったことから、文化系や絵の本などを読むようになりました。ヨーロッパの方と会話する時に致命的なことは、キリスト教を知らないということ。旧約聖書や新約聖書を読んでいませんし、キリスト教の歴史やギリシャ神話を知らないので、話について行けなくなるんです。仕事の会話でも、同じ土俵に立てないというのはすごく悔しいので、音楽や絵、歴史の話など、ある程度、自分が興味のあるところは吸収しようというのが、ずっと続いています。今でも絵は描けませんが、見るのはとても好きで、最近も絵の本ばかり読んでいます。絵の本は、歴史上の背景や歴史をどう読むかなど、そういう系統の本がとても多いですね。僕が時々読んでいる、ゴンブリッチさんという人が書いた『美術の物語』という分厚い本は、文章と絵が半々で構成されています。絵は電子書籍にぴったりなので、絵の関係の本は全て、電子書籍にしてほしいと僕は思っています。
――倉都さんにとって、本とはどういった存在ですか。
倉都康行氏: 友達があまり多くない僕にとっては、本は外の世界とのつなぎ役といいますか、接点というような存在ですね。ですから、自分が書き手の時は、知らない人たちにどれだけメッセージを与えられるかというツールでもあるし、あと、音楽や社会、経済など色々な社会との窓のような存在です。経済が見える窓とか、絵が見える窓とかそういう感じ。その「本」を通じて刺激をもらっているんですよ。その窓がないと、僕は生きていけないかもしれません。
他の国とは違う、自分に合ったスタイルを
――仕事や執筆を通して伝えたいこととは。
倉都康行氏: この30年ぐらいで僕がやってきたことを、次の世代の人たちにどれだけ伝えられるかというのが1つのミッションだろうなと思います。書き物を通じて、僕自身が30年ほどかけてやってきたことが1つの自分の財産。あまり人がやってこなかったようなこともやってきたので、それをきちんと伝えたいですね。
今の経済情勢というのは年寄りには良くても、若い方にはすごく不安なところもあるかもしれません。高度成長期というのは国と個人の利益が一致していたので、国がうまくいった後は個人もうまくいったのです。それが今は違います。国が良いことをやろうと思っても、一部の人には悪いこととなったりもします。もう、国についていけばいいという時代ではないし、「危ないな」と思えば、どこかでブレーキをかけるような判断力を養わなければいけないと思います。若い人には、それなりに危機感を持ってもらって、何か自分なりに手を打つ方法を考えてほしいと思います。「守れるものは自分が守るしかない、国なんか守ってくれない」という意識はどこかで持っておいてもらった方がいい。仕事としては、プロフェッショナルな方々を相手にしてやっているわけですが、もう少し目線を変えて、若い世代にもそういったことを、どこかで伝えていかなきゃいけないんだろうなと。どうやって伝えればいいのかは、まだ試行錯誤をしている段階で、まだ自信がない部分ではありますが、その指南役に自分がなれたらいいなと考えています。
――今後の展望をお聞かせください。
倉都康行氏: 本については、今年もう2冊、本を出して、頭がすっからかんですし、あんまり出しているとインプットが出なくなってしまいます。でも、1つ、考えていることはあります。国によって、経済の仕組みが違うので、よく資本主義という言葉を使いますが、アメリカと日本、中国やロシアやドイツでは、みんな違うんですよ。みんな違うのに、まだ日本人はどこか心の中で「アメリカ人のようになりたい。アメリカのような豊かな夢のある国になりたい」と願っているように思います。でもはっきりいって、なれないんですよね。自分にフィットした経済のスタイルがあるはずなのに、それを考えようとしない。国によって違いがあるところを踏まえた上で、「じゃあ僕らには、どういうスタイルの生活がいいのかな」と考える時に、ヒントになるようなものが書けたらいいなと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 倉都康行 』