インドか沖縄か 彼女探しの旅
中村あきら氏: 半年間の営業後は、いよいよ旅だというところで、迷ってしまいます。インドに行くか、沖縄からスタートするか……山添勝志さんの『ヒッチハイクで日本一周』を読んだこともあり、出発予定日ギリギリまで迷って、そのときチケットが入手できた沖縄へ行くことにしました。
実はこのとき失恋を引きずっていて、先ほどの営業先のお姉さんにも慰められるぐらいひどい有様だったのですが、この日本一周の旅は、彼女探しの旅でもありました。そうして沖縄で、今の妻に出会いました。
――いきなり、スタート地点で出会っちゃいましたね(笑)。
中村あきら氏: でもその後も、ちゃんと日本一周を続けています(笑)。ぼくにとって一番落ち着く存在で、ドイツ語と英語と沖縄弁がしゃべれる、知的ではっきりとした性格の彼女は、その後妻となり、ぼくが起業してからも楽しい時もピンチの時も、支えてもらいながら一緒に乗り越えています。
相手の「困った」を解決する
中村あきら氏: 旅を終えて、営業のアルバイトをしていた時の講師の方と縁があり、その方が主催していた起業塾に通うことになります。起業したいユニークな人たちが集まっていて、初めて“仲間意識”を持ちました。群れないけれど仲間。そこで感化され、就職しない生き方というものを知りました。
――「起業しよう」ではなく「就職しない」、と。
中村あきら氏: まずはそこでした。居心地が良いと感じた仲間の生き方に興味を持ったんです。大学四年の夏で、そこから起業塾のコミュニティに本格的に参加します。そこで「直感フィードバック」、互いの印象を率直に言い合う場面がありました。しゃべれるわけでも、コミュニケーションに長けていた訳でもない自分の、周りから見た唯一の強みは「長時間PCの前に座っていられそう」でした(笑)。
じゃあ、それを強みにして何か仕事をしようと思ったんです。両親には最初「就職しない」と伝えたとき心配されましたが、一度言ったら聞かないぼくの性格を両親は知っていたので、なし崩し的に認められた様に思います。当たり前ですが、卒業後は仕送り等の資金の援助はなくなるので、卒業までの半年の間に、なんとかして仕事を作らなければなりません。「何か食べられるもの×得意なもの」を考えた結果、サイト制作に行き着きました。起業塾や、講師の方のウェブサイトの作成から始めて、そこに通う生徒のサイトを作ったのが、最初の仕事となりました。
今では一週間で作られるようなものに、三〜四ヶ月もかかってしまい……日々の生活もやっとでしたが、学生ローンで食いつないでなんとか持ちこたえていました。サイト作成で得た報酬は即家賃に消えていき、というスタートでした。不安もありましたが、とにかく目の前にはお客さんがいて、このお客さんの仕事を「終わらせる」ことしか考えていませんでした。
――出来る目の前のことをこなして。
中村あきら氏: また、仕事を通して自らも学んでいきました。サイト制作の知識というのは膨大です。全てを身につけてからビジネスをスタートさせよう思うと「学習」だけにすごく時間がかかるんです。しかも次々と新しいものが出てくるので、常に学習が続くといってもいいと思います。だからぼくは、学習と実践を同時並行でやって行こうと思ったんです。
誤解を恐れずにいうと、知識を使えるレベルまで身につけるにはお客さんを持つことが一番早いのです。
ぼくにできるか未知数な案件にも積極的に手を挙げて、仕事をしながら技術や知識を習得していこうと決めました。お客さんの案件を受ける時はその時点で知識量が100%じゃなくても「やります」と答え、足りない分を仕事をしながら勉強していきました。ぼくに依頼してくれたお客さんの困りごとを、自分が勉強して解決してあげるという感じです。
こうして自分の進度や、知識量も客観的にわかり、同じ悩みを持った方へ、次はもっと余裕をもって提供することもできるようになっていきました。
――仕事と個人のレベルアップを重ねていくんですね。
中村あきら氏: ドラクエで言うと、レベルがまだ十分でないけどボスを倒しにいくことと似ています(笑)。近場の安全なステージでレベルアップをして挑んだら次のステージまでいくのに時間がかかってしまいます。
その時十分なレベルに達していなくても、ボスに行くまでの過程で強くなることができます。大事なのはボスに会う瞬間にボスを倒せるレベルであればいいのです。
つまりウェブ制作で言うと、仕事を受ける段階でできていなくても、納品の瞬間に100%できていればいいんです。それだと誰よりも早く次のステージに行けます。誰よりも多く次のゲームを遊べます。ひいては、仕事とビジネスが誰よりも早く成長できるのです。それが一番勉強と成果において早い方法なのだとやりながら学びました。
そのうち個人から企業も手がけるようになり、とりあえず食べられるようになったところで、次は本田健さんやロバート・キヨサキさんのいう「自分のビジネス」(=Own your business)を持とうと考えます。ウェブ制作は言ってみれば人のビジネスのお手伝いでした。自分のビジネスを持つということは、人のビジネスの手伝いではなく、自分のビジネスを持ちそれを大きくしていく、ということです。それが自分にとってはEC、ネットショップでした。そこからは、どのように東京以外で自由な暮らしを達成したか、起業から倒産の危機までについては本を読んでください(笑)。