伊藤真

Profile

1958年東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、司法研修所入所。司法研修修了と同時に弁護士登録。その後、真の法律家の育成を目指し、司法試験の受験指導にあたる。1995年「伊藤真の司法試験塾(現 伊藤塾)」を設立。塾長を務める。その後、法科大学院入試・公務員試験・司法書士試験・行政書士試験の受験指導を開始。「合格後を考える」という独自の指導理念は多くの受験生の賛同を得ている。 伊藤塾の講義のほか、大学での講義、代々木ゼミナールの教養講座講師、日経ビジネススクール講師、全国各地の司法書士会、税理士会、行政書士会などの研修講師も務める。 著書に『考え抜く力』(PHP研究所)、『本質をつかむ思考法』(KADOKAWA/中経出版)など。

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武道に通じる「戦わずして勝つ」憲法九条の精神


――その悩みはどのように解決したのでしょうか。


伊藤真氏: すぐには解決せず、大学に入ってもしばらく続きました。高校生の頃に「とにかく日本のために何かしたい」と思い、外交官を目指して進学した東大も、入学してみると、外交官の仕事がどうも自分が想像していたのと違うと分かり、急に熱が冷め、また悩んでしまいます。道を失った私は、六本木あたりで遊びほうけていたり(笑)、オーケストラ部で、トランペットを吹いていたり、車いじりも好きだったので、エンジンの改造などしたりと、ふらふらして過ごしていました。そのような気持ちがふっとんだのが、憲法との出会いでした。

憲法9条を知った時は、思わず「その手があったのか!」と驚きました。憲法では「戦わずして勝つ、攻められない国を作る」それが一番の安全保障だと言っているのです。武道の世界でも、剣を抜かずに、その人の気高さ、精神性の高さで、相手に手を出させないのが、本当の達人。日本人の魂や武士道精神に一致するのが、憲法9条に体現されている……こんなすごいものはないと感心しました。

また聖徳太子の「十七条憲法」にも、一条目に「和(やわ)らぎを以て貴しとなす」とあります。争いは話し合いで解決しましょうと書いてあります。日本人は争うよりも平和を望む、争いごとにはなじみにくい民族で、そういう知恵が我々にはあり、それが憲法九条に凝縮されているのだと。そういう東洋的な思想と、西洋の発想である憲法13条の「すべて国民は、個人として尊重される。…」という考え方とが見事に融合しています。最も重要な人類の発明、叡智が日本国憲法ではないかと感じました。大学では芦部信喜先生と樋口陽一先生に学びましたが、樋口先生の授業では、世界の色々な国々の憲法と比較して、日本国憲法がどのような位置にあるかを学びました。憲法を学んでいく中で、昔の研究者の論文を読みながら、心が熱くなる自分に気づくことができました。



読書で鍛える想像力や共感力


――様々な本でその想いを伝えられています。


伊藤真氏: 憲法関連の本を書くうちに広がっていきましたが、最初に出した本は『伊藤真の司法試験合格塾!』という勉強法の本でした。その後、時間術とか論理的なものの見方とか、記憶とか、そういう学びのための本も書くことになりました。読み手の方の人生に少しでもいい影響を与えられればという気持ちで書いています。

受験勉強のノウハウ本であれば、勉強で苦しんでいたけど、何かヒントをもらったとか、法律の本であれば、今まで分からなかったことが、この本を読んでよく分かったとか。勉強してみよう、頑張ろうという気持ちになるような、何か変化が生まれて、その方の幸せの総量が増えていくきっかけになれれば嬉しいですね。

――読み手としてはいかがですか。


伊藤真氏: 私自身も、本で学び、考えるきっかけを与えてもらいました。私たちは、年齢とともに、考え方も変わったりしますが、本はそこにあって変わらない。けれども、私たちの年齢とともに、その本の読み取り方は変わります。高校生で読む夏目漱石と、大人になってから読むのとでは、中身の読み取り方が全然違います。本は受け手の力量によって、得られるものが違ってくるのです。読み手の力量が試されるのが本。読み手の力量によって、得られるものが様々であるというのが、面白い本で、いい本なのかも知れませんね。

また、本を読むというのは、文字で書かれてあるものを読み取って、頭の中で映像に置き換える作業です。それが想像力や共感力を鍛える上で大きな訓練になります。学び続ける人間にとって、本質的に必要なものだと思います。書店にも良く行くのですが、知の楽園にどっぷりつかってしまうと、いつの間にか数時間経つ事もしばしばです。

著書一覧『 伊藤真

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