予想しない「知」に出会うことができる書店の魅力
――のめり込んでしまうんですね(笑)。
伊藤真氏: 知の楽園に魅了され、ついつい時間を忘れてしまうんです(笑)。ですので最近は、あらかじめ時間を決めて行くようにしています。この辺り、渋谷にも大きな書店はいくつもありますし、代官山のほうに足を伸ばせばTSUTAYAがあります。TSUTAYAはレイアウトを工夫していたりしています。そこで読んだりすると、時間を忘れそうで、ちょっと危ないですね(笑)。
電子書籍も使っていますが、目的意識を持って読んだり探したりするのには、すごくいいと思います。キーワード検索ができるし、Amazonでは関連するような、似たような本がサッと出てくるし。資料探しという面ではすごくいいかなと思います。それに、Kindleで手軽に何冊も持ち歩いて読むことができます。長期の旅行で、何冊も持ち歩けない時には便利ですよね。
一方で、紙媒体のほうは、においや手あかの汚し具合など、自分の歴史が刻まれています。それが記録に残せるので、読み返した時に「あの時あんなことを考えていたんだ」と、自分の過去を振り返ることができます。紙媒体の本と電子書籍は共存していくと思いますよ。
書店では、普段自分が関心のあるところをちらっとは見ますが、普段寄り付かないようなところの棚に行くこともできますよね。自分の専門分野ではない、数学や建築の本、料理の本とか趣味の世界の本とか、そういうところに行って、こんな本がでている、と常にワクワクしています。
最近興味深かった本は、ちょっと前に出たメグ・ジェイさんの『人生は20代で決まる』ですね。20代の学生に、今の時代がどれだけ大切な時代なのか、色々なものを先延ばしにして、モラトリアムの時間をアルバイトだけに費やしてしまってはもったいないという話をしています。
今読み始めているのは、ギリシャの憲法の本です。ソクラテスやプラトンといった時代の憲法はどうなっていたのだろう、それが世界の憲法にどのように広がっていったのだろうとか、今から2000年前に「長髪を見て嫌ってはならない」と言っていて、面白いですよ。それ自体が人を損なうわけではないし、公共の福利を損なうわけでもない。行動で利益か不利益が決まっているのだから、と言っています。遥か昔から個人の尊厳について触れており、それが今の日本国憲法にもつながっている……憲法はやはり人類の叡智だと思いました。
憲法の伝道師として
――人類の叡智、その憲法価値実現のために、様々な活動をされています。
伊藤真氏: 法曹養成については、法律家、弁護士の仕事は非常にやりがいのある仕事であるということを、特に若い学生さんや社会人の方々に、もっと伝えていかなければと思っています。また、憲法の価値を実現することが、法律家の仕事であり、行政官の役割と考えているので、憲法の伝道師として、日本国憲法の価値を実現できる法律家を養成したいと思っています。
人間というのは、皆誰もがかけがえのない価値を持っていると同時に、皆人は違います。それが素晴らしいのだということを多くの人に知っていただいて、今の自分に価値がある、人と違っても、これでいいのだと。自分を肯定して心に余裕を持っていただきたいですね。すると自分と違う他者や、違う民族、宗教や個人の存在を認めるだけの余裕が生まれてきます。それが、様々な紛争を少しでも解決していくきっかけになっていくと思います。憲法13条の個人の尊重、日本国憲法の核心部分のところをより多くの人に、共感してもらいたい、伝えていきたいなと思っています。
――その日本国憲法を守るためには。
伊藤真氏: やはり行動することだと思います。国を作り上げていくことも、自由権を保障することも、政府に二度と戦争をさせないというようなことも、国民一人ひとりが主体的に行動する事が肝要で、これが国民主権という言葉の本質なのです。国民は、直接的な政治との関わりだけでなく、会社や学校、そして家庭の中でもそれぞれの役割を持っているんです。ひとり一票も、まさに憲法の価値の実現そのものですし、これからも塾や社会人材学舎、講演、そして執筆等をするなかで、もっと多くの皆さんに、憲法の価値や考え方を知ってもらいたいと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 伊藤真 』