現場で学んだ「組織」と「人」
――紆余曲折を経て、いよいよ社会人キャリアがスタートです。
柴田励司氏: 皿洗いに始まり、その後はバーの後ろで氷を砕き、おしぼりを巻く仕事もしました。今でも誰よりもきれいに巻ける自信があります(笑)。ベルマンもしましたが、ぼくは方向音痴だったので、エレベーターを降りた後の道の説明が上手くできず、あっという間にクビに(笑)。その後は、宴会のウエイターと、色々な業務を経験しました。
ホテルに入って1年10カ月目ぐらいでしょうか。ぼくを採ってくれた常務が「外務省で人を募集している。推薦状を書くから、良かったら受けなさい」とチャンスを与えてくれました。それで、合格してオランダの日本大使館に派遣されることになりました。2年と数か月ほど居ました。その時に色々不条理なことに触れたのが、すごくいい経験となりました。
大使館には、様々な役職の人間がいます。みんな素晴らしい人なのですが、縦割りが邪魔をして全体として、なかなかまとまりづらいのです。この経験から組織とか人の問題を勉強しはじめ、それが今の仕事に繋がっていきました。
本作りは編集者との想いのぶつけあい
――人材育成の世界で得た多くのノウハウを、本で伝えられています。
柴田励司氏: もう、全部で10冊ほどは出させてもらっています。毎週日曜日にメールマガジン「柴田励司の人事の目」というのを発行していることもあって、そこから「年に1回ほど本にしようか」というような話があります。3月に出した『社長の覚悟』は、大変でした。この企画はダイヤモンド社から依頼を頂いたのですが、編集のKさんが鬼編集者で……(笑)、ダメ出しが何回も重なりました。Kさんは、とても真っ直ぐな方で、しっかり読んで編集してくれました。書きたい想いを本という媒体にのせ、届けるためには、本作りのプロである編集者の言うことを聞いた方がいいと思いましたね。鍛えられました。
本は、目に見えないものを見える形に直していった結果、できあがるものだと思っています。ただ文章を書いただけでは想いは伝わりません。行間に、想いを込めて書いていくというのが本作りの作業だと思っています。読み手は、その想いを拾ってくれ、行動につながる。踊りだすような感覚がある本というのはとっても良い本。その書き手のリズムなどが伝わるのはいいですね。
――『社長の覚悟』には、そうした色々なメッセージが込められていると感じます。
柴田励司氏: 「ここは、こういう人に読んでほしいな」などと思いながら、手紙のように書きました。ぼくの志は、昔から「周囲の人を幸せにしたい」ということです。人が幸せだと感じるということは、充実しているということだと思います。それは学びの場でも仕事でも遊びでも同じです。そういう場を作りたい、その思いが、今につながっているのだと思います。きついことも当然ありますが、総合的に仕事は楽しいものですよ。
偏差値だけに縛られない 真の人材の育成を
――楽しみながら、新たな取り組みに挑戦されます。
柴田励司氏: 今は色々なことを考えていますが、その中で具体的になってきている計画が、20歳前後の若者を対象にした塾を作ることです。PHAZE という企画です。地頭がよく、人間力もあるが、偏差値の高い大学に行っていない逸材候補を全国で発掘して、鍛えるプログラムです。
大企業や有名企業の招待状がくるのは、偏差値60以上のわずか7%の子たちだけです。人を巻き込んで何かをやっていけるのが、その7%の人間だけなのかというと、それは少し違うと思っています。むしろ仕事をしていく上で強烈な当事者意識や、やり抜く執念など、もっと必要なものは、7%の子たちが持っているものとはちょっと違います。
勉強以外で活躍していた人たちが、社会に出てしっかり大きな仕事をしようとしても、学歴重視の社会ではなかなか道がありません。その垣根を超えるチケットを渡すために、全国でオーディションをやろうと思っています。大きな仕事をしたいという人がいたら手を挙げてくれと。そこから15人ほどに絞り、色々な場を経験してもらい、社会に熨斗(のし)をつけて、出そうと思うのです。新しい取り組みですが、必ず成功させて新たな社会の在り方を提示していきたいと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 柴田励司 』