柴田励司

Profile

1962年東京都生まれ。上智大学卒業後、京王プラザホテル入社。在籍中に、在オランダ大使館出向。1995年、組織・人材コンサルティングを専門とするマーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング(現マーサージャパン)に入社。2000年、日本法人代表取締役社長に就任。2007年社長職を辞任し、キャドセンター代表取締役社長、デジタルハリウッド代表取締役社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役COOなどを歴任。 2010年7月よりIndigo Blueを本格稼働。2014年7月よりパスの代表取締役CEOを、12月よりgiftの代表取締役会長を兼務。 著書に『社長の覚悟―守るべきは社員の自尊心』(ダイヤモンド社)など。

Book Information

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人の可能性を伸ばす 真の人材育成を



組織や人材の開発、人事制度などのコンサルティングを行なう株式会社Indigo Blueの代表を務める柴田励司さん。「成長」をキーワードに、次世代リーダー育成のための「柴田塾」など、実践力をつける“場”を提供しています。「周りの人を幸せにしたい」その想いの原点を辿ってみました。

未来を描く 新たな取り組み


――Indigo Blueの他にも、様々な活動に取り組まれています。


柴田励司氏: はい。東証マザーズに上場しているパスという会社のCEOをやっています。全ての仕事は自分の中でつながっています。一貫してあるのは人が成長する、育っていく“場”を作りたいという想いです。人材育成は「70:20:10」で、70%の影響を与えるものが経験。20が上司や仲間など、誰とするか、仲間ですね。そして、10というのが研修です。人材育成=研修というイメージが強いのですが、本来一番大切なのは経験で、それをやる場所が “場”です。Indigo Blueでは、そういった“場”を疑似的に体験してもらう活動をしています。代表的なものがOrganization Theater(OT)というプログラムです。

OTでは、プロの役者が扮する登場人物と、1日から3日間のロールプレイをやってもらいます。この“場”は修羅場の疑似体験です。参加者にはその経験を通じて、不測事態が発生したときの動き方、自分の心のもちように気づいてもらいます。

今の日本のように経済的に成熟すると、仕組みが整うので、その仕組みをいかにきちんとするかという仕事になりがちで、白地に字を書いたり絵を描いたりしていくという仕事が、とても少ないのです。塗り絵のように「あらかじめ線が引いてあるところを、きれいに塗れ」という仕事だけでは、新たなものは生まれません。仕組みも大切ですが、新たな取り組みをしないと未来は描けません。パスを通じて、こうした“場”を提供していきたいと思っています。



本から学んだ「成長」


――柴田さんから「新しい」「楽しい」というキーワードが浮かんできます。


柴田励司氏: ガキ大将ではなかったものの、昔から、新しい遊びを考えては、周りの人を巻き込んで何かやっていましたね。ただ、すぐに飽きてやらなくなってしまうので、評判は悪かったかもしれません(笑)。

小さいころ、近所にジョンというとても吠える犬がいたので、みんなで懲らしめようとしたところ、いざ対峙した瞬間、一緒にいた友人はみんなクモの子を散らすように逃げてしまい、ジョンとぼくの1対1のタイマンになってしまって大敗(笑)。それで15針ぐらい縫いました。ほかにも、「大車輪ができるようになった」とまわりに嘘をついたら、大勢の人が見に来てしまい、仕方なく挑戦したものの結局失敗してけがをしたりと、そういうことがたくさんあって、おそらく小学生のあいだに、70針ほど縫っていると思います。

――ご両親大変だったんじゃないですか(笑)。


柴田励司氏: その手のことは枚挙にいとまがなかったからか、あまりガミガミ言われませんでした。でも、結構大変だったんじゃないかな(笑)。家がそれほど豊かな方ではなかったので、母が働いていたのと、一人っ子だと過保護になってしまうからと、わざと鍵っ子にされていました。そういったこともあって、やんちゃな割には本もずいぶん読んでいました。自然と本が知識など、何かを知りたいと思った時の窓口になっていました。図書館にもよく通っていたので、身近な存在でした。

その頃、バイブルになった本に出会います。当時、バレーボール全日本男子の監督だった松平康隆さんが書いた『負けてたまるか!』という本です。ちょうどぼくたちは、ミュンヘンオリンピック世代で、男子バレーボール全盛の時代で、とてもインパクトがありました。代表を14人から12人に絞らなければいけない話や、選手一人ひとりを見て指導の仕方を変えていること。それから、良かれと思ったらすぐにマネするというようなことが書かれていました。これが全部、自分のベースになりましたね。

“場”づくりを通して学んだこと



柴田励司氏: 学級参観の時に語った将来の夢は「文部大臣」、学校が大好きだったんです。今でも、学校をなんとかしなきゃいかんという思いから、全国の校長先生などに想いを伝えるべく、年に10から15本ぐらい、講演しています。

中学生のころは、生徒会の会長として校則を変えたり、市内の中学校の生徒会同士をつないで交流しようと活動していました。高校は埼玉の川越高校へ進み、そこで男声合唱団に入りました。ぼくが入部した時期は低迷からの復活期でした。3年生が卒業して人数が減ってしまった時は、色々な策を練りました。一番効いたのは、川越女子高校との混声合唱でした。新入生への説明で「今日、実は川越女子高校との合同練習があるから、5分しか話せない。興味がある人は音楽室に来てください」とだけ言って、さらには川越女子高校の方に、わざと新入生に見えるように練り歩いてもらったら、40人の新入部員が入りました(笑)。その中の一人は、今、アメリカで著名なオケの指揮者をやっていますから、何がどうなるかわかりませんね。

新入生のおかげで人数は増えましたが、音は安定しなかったので、その年のコンクールでは良い成績をおさめられませんでしたが、2年目からは黄金時代に。そこからずっと、川越高校は全国大会優勝です。

――色んな“場”作りをしてこられたのですね。


柴田励司氏: ただ、勉強はやり直しでした。駿台予備校に通って半年で3年分の勉強をしました。それで、上智大学に進みます。しかしそれも当時かっこいい先輩がいて、彼のルートを真似していたのです。

大学では楽しい学生生活をエンジョイしようとパーマをかけ、テニスウェアを買ってと準備していましたが、入学式の後のオリエンテーションで、川越高校音楽部のOBに羽交い絞めにあって連れていかれて、半ば強制的に上智大学グリークラブに入れられてしまいました(笑)。

演劇にも目覚めてしまって、柴田恭兵さんが現役だったころの東京キッドブラザーズに、すっかり感化されてしまいました。自分で貯めたお金でドラマスクールに行き、アングラ劇団のオーディションを受けて入りました。初舞台では任侠の役で、しかもベッドシーンがあるという……(笑)。

劇団も立ち上げました。上智には立派な小劇場があり、劇団もいっぱいあったのですが、サークルの延長線上を脱するために、あえて金のかかる新宿や銀座、六本木などの小屋を借りてやっていました。役者も、色々な大学へ勧誘に行きました。2ヶ月に1回ほど公演をやっていくとだんだん実力もつき、演劇フェスティバルで決勝まで行くほどになりました。結局、演劇集団キャラメルボックスに負けて、優勝は逃しましたが、「やれる!」と思っていました。

――演劇を続ける気で。


柴田励司氏: ラジオドラマのバイトでもらっていた40万円を、劇団の運営費に入れて本気でしたよ。就職するつもりはありませんでした。でも、ウチの親は色々なものを大目に見てくれるものの、みんな公務員の家系で、親戚一同、区役所で働いていたり、学校の先生をしている方ばかり。祖父が浪費家で、親たちはその反動からか皆、堅い職業に就いたようです。だから、「演劇で飯を食いたい」と言える空気がありませんでした。

まさか!の内定取り消しを乗り越えて



柴田励司氏: そんな将来への迷いの日々を過ごしていたある日、京王プラザホテルから一通のダイレクトメールが届きました。親の世代の京王プラザホテルに対する信頼度は高く、家族に「(就職先を)ここにする」と話したら、喜んで賛成してくれました。面接では、面接官が話している単語がわかりませんでした。なにしろ、高級ホテルなんか泊まったこともないし、トイレ以外は使ったこともありませんでしたから (笑)。

そんな状況の中「ホテルをどうしたいですか?」という質問が、ぼくに降ってきました。自分の領域を入れて「ホテルは都会の劇場です」と、そのとき思ったことを自分なりに伝えると、常務が興味を持ってくれて、そのまま就職が内定しました。ただ、内定は貰ったものの自分の心は100%ではなく、芝居の公演と重なっていたこともあって、内定者研修も半分ほど休んでいました。

そんな時、大学演劇フェスティバルで入賞した芝居を見た、ある映像関係の会社からオファーが来ました。「若手のクリエイターを雇おうと思っている。柴田さん、来ませんか?」と。ところが、忘れもしない3月31日にこの映像関連会社の創業者である会長さんが、長い間アメリカに行っていて、ぼくたちの採用のことを知らず「聞いていない。こんな奴らの採用は認めん」ということで内定は取り消しになりました。

もう学校も卒業してしまっていたので、困り果てました。それで、断ったばかりの京王プラザホテルに電話して、「すみません!騙されました!」と話したところ、どうにか採用は有効にして頂けました。



現場で学んだ「組織」と「人」


――紆余曲折を経て、いよいよ社会人キャリアがスタートです。


柴田励司氏: 皿洗いに始まり、その後はバーの後ろで氷を砕き、おしぼりを巻く仕事もしました。今でも誰よりもきれいに巻ける自信があります(笑)。ベルマンもしましたが、ぼくは方向音痴だったので、エレベーターを降りた後の道の説明が上手くできず、あっという間にクビに(笑)。その後は、宴会のウエイターと、色々な業務を経験しました。

ホテルに入って1年10カ月目ぐらいでしょうか。ぼくを採ってくれた常務が「外務省で人を募集している。推薦状を書くから、良かったら受けなさい」とチャンスを与えてくれました。それで、合格してオランダの日本大使館に派遣されることになりました。2年と数か月ほど居ました。その時に色々不条理なことに触れたのが、すごくいい経験となりました。

大使館には、様々な役職の人間がいます。みんな素晴らしい人なのですが、縦割りが邪魔をして全体として、なかなかまとまりづらいのです。この経験から組織とか人の問題を勉強しはじめ、それが今の仕事に繋がっていきました。


本作りは編集者との想いのぶつけあい


――人材育成の世界で得た多くのノウハウを、本で伝えられています。


柴田励司氏: もう、全部で10冊ほどは出させてもらっています。毎週日曜日にメールマガジン「柴田励司の人事の目」というのを発行していることもあって、そこから「年に1回ほど本にしようか」というような話があります。3月に出した『社長の覚悟』は、大変でした。この企画はダイヤモンド社から依頼を頂いたのですが、編集のKさんが鬼編集者で……(笑)、ダメ出しが何回も重なりました。Kさんは、とても真っ直ぐな方で、しっかり読んで編集してくれました。書きたい想いを本という媒体にのせ、届けるためには、本作りのプロである編集者の言うことを聞いた方がいいと思いましたね。鍛えられました。



本は、目に見えないものを見える形に直していった結果、できあがるものだと思っています。ただ文章を書いただけでは想いは伝わりません。行間に、想いを込めて書いていくというのが本作りの作業だと思っています。読み手は、その想いを拾ってくれ、行動につながる。踊りだすような感覚がある本というのはとっても良い本。その書き手のリズムなどが伝わるのはいいですね。

――『社長の覚悟』には、そうした色々なメッセージが込められていると感じます。


柴田励司氏: 「ここは、こういう人に読んでほしいな」などと思いながら、手紙のように書きました。ぼくの志は、昔から「周囲の人を幸せにしたい」ということです。人が幸せだと感じるということは、充実しているということだと思います。それは学びの場でも仕事でも遊びでも同じです。そういう場を作りたい、その思いが、今につながっているのだと思います。きついことも当然ありますが、総合的に仕事は楽しいものですよ。

偏差値だけに縛られない 真の人材の育成を


――楽しみながら、新たな取り組みに挑戦されます。


柴田励司氏: 今は色々なことを考えていますが、その中で具体的になってきている計画が、20歳前後の若者を対象にした塾を作ることです。PHAZE という企画です。地頭がよく、人間力もあるが、偏差値の高い大学に行っていない逸材候補を全国で発掘して、鍛えるプログラムです。

大企業や有名企業の招待状がくるのは、偏差値60以上のわずか7%の子たちだけです。人を巻き込んで何かをやっていけるのが、その7%の人間だけなのかというと、それは少し違うと思っています。むしろ仕事をしていく上で強烈な当事者意識や、やり抜く執念など、もっと必要なものは、7%の子たちが持っているものとはちょっと違います。

勉強以外で活躍していた人たちが、社会に出てしっかり大きな仕事をしようとしても、学歴重視の社会ではなかなか道がありません。その垣根を超えるチケットを渡すために、全国でオーディションをやろうと思っています。大きな仕事をしたいという人がいたら手を挙げてくれと。そこから15人ほどに絞り、色々な場を経験してもらい、社会に熨斗(のし)をつけて、出そうと思うのです。新しい取り組みですが、必ず成功させて新たな社会の在り方を提示していきたいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 柴田励司

この著者のタグ: 『クリエイター』 『コンサルタント』 『海外』 『コンサルティング』 『組織』 『可能性』 『紙』 『ノウハウ』 『若者』 『お金』 『仕組み』 『世代』 『キャリア』 『現場』 『リーダー』 『書き方』 『きっかけ』

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