社会の雰囲気が、未来を決定する
――このほど『日本人のYesはなぜNoか』が電子書籍で復刊され、好評です。
岡本浩一氏: 電子書籍はユーザーとしても既に利用していましたが、自分の絶版の本が復刊され、さらに多くの方から反響を頂いている事に可能性を感じています。ぼくは、紙の本も電子書籍も利用していて、紙で買って、大事なものはKindle paperwhiteにも入れて使い分けています。お茶を、地方に教えに行くために、自分で書いた点前を電子化しています。それから取り寄せると時間がかかる洋書も入れています。また古今和歌集なども。自分の心の問題で、旅行先でふと読みたくなるのです。ですが、実際に旅行に出てみないと、何を読みたくなるか分からないので、小さいのに何十冊も入れられ、その場で買う事も出来る電子書籍は本当に便利です。整理が苦手で、年中本を探しているぼくには、重宝しています。電子だと検索ができますから。
――先生の原動力は、どこから涌いてくるんでしょうか。
岡本浩一氏: 自分にとって、面白さが一段落するまではやります。例えば、ギターでどうしても出せない音があれば、その音を出すためにやり込みます。そうして求めていた音が出れば、それでもういいという感じ。私の家には調理器具がたくさんあるのですが、ほとんど使いません。娘たちからは「1回しか使っていないけど、いいの?」と聞かれます。その時は「普通の人はおいしい料理を作るために道具を買うのかもしれないけれど、パパは道具を試すためにおいしい料理を作っているんだよ。ここの道具の機能はもう分かったから別にいいんだよ。」と言い訳(!?)をしていますね(笑)。
――今はどちらに興味が向かわれているのでしょう。
岡本浩一氏: 社会の合意と、それに社会心理学がどのように貢献できるかですね。今、文科系の学問が全体的に軽んじられています。予算上もそうですが、例えば社会心理学について、ハンダ付けより簡単な学問だと思っている人がいます(笑)。日本の社会心理学のレベルが今一つ低いのは、社会がそんなものでいいと思っているからです。例えば血液型で性格を知るなど、あり得ないですよね。あんなものがあり得るという雰囲気が日本の社会にあるから、きちんとした社会心理学をしようと思わなくなってしまうわけです。
科学を応用するという意思決定をきちんとしないと、大きな危険が及びます。ベストを尽くしても、例えば想定しない地震が起こったりします。そうするとそれはみんなの社会で選んでいた結果だから仕方がないと、どこかで合意しないと前へ進めません。そこで社会心理学は大きな役割を果たすのです。例えば水素自動車が走った場合、それにはリスクも伴います。そのリスクを考えた時に、社会的には大丈夫だということを、社会全体が合意しないといけないですよね。リスクを理解するために、相互にコミュニケーションを持つ事が大事なのです。そのコミュニケーション、社会的合意に至るプロセスを、また本で伝えていこうと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
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