教育の経営者、実践者、研究者として
――東大在学中に株式会社プラスティーを立ち上げられます。
清水章弘氏: 入学してからしばらくは、体育会でホッケー三昧の毎日を送っていたのですが、2年生の夏に、選手生命を絶たれる大怪我をしてしまいました。治療のためのリハビリ中に、何のために大学に入ったのか、自らを問い直すことになりました。それからは1日1冊、本を読むことに決めました。一番心に響いたのは、やはり教育学の本でした。「教育を志してここに来たのだから、そろそろ何かやろう」と考え、会社という“現場”を作ったわけです。その後リハビリも終えて、選手としてホッケーを週5日やりながら、会社経営と研究を続けました。会社を倒産させそうになったり、私のせいで社員が離れてしまったりと、最初の3年間は失敗の連続でした。歯を喰いしばって「無休かつ無給」で無心で働きました。
――めげずに続けられた原動力とは。
清水章弘氏: 世界中から研究者が集まってくるような、日本が世界に誇れる教育現場を作りたいからです。もともと江戸時代までは、日本の教育は世界一だったと言われています。識字率や就学率などがその根拠です。その再来を目指すわけではありませんが、私たちの底力を世界に発信してみたいと思っています。
会えない子どもたちへの手紙
――「本」で想いを伝えるようになったのは。
清水章弘氏: プラスティーの前に運営していた「文武両道ドットコム」というサイトがきっかけでした。部活と勉強を両立するノウハウを教える、「東大の体育会の大学生を、家庭教師で派遣します」という家庭教師派遣サービスを行っていました。ある日、“文武両道”という言葉で検索した方から、野球好きのおじさんが集まる飲み会に誘われました。私は家庭教師の仕事で参加できなかったのですが、野球だけに「代打」で送った友だちに、私への執筆依頼のお話を頂きました。それで書いたのが、最初の『習慣を変えると頭が良くなる』です。類書を100冊以上読み、タイトルから小見出しまで、全て自分で決めさせてもらいました。それがたまたまヒットし、様々な出版社の方にご依頼頂き、今は年に2冊のペースで執筆しています。書くときは、全国を回っていても会いきれない子どもたちを意識して、子ども達に届ける手紙のように書いています。
――まだ、活動は始まったばかり。
清水章弘氏: 今は経験の下積み時代であると捉え、効率は二の次で、ひたすら経験を積んでいます。もっともっと泥の上をはっていきたいなと思っています。テレビ出演はこの数年間お断わりしています。有名になってチヤホヤしてもらうと自分が怠けてしまいそうな気がして怖いのです。トイレ掃除の活動で有名な、イエローハット創業者の鍵山秀三郎さんがおっしゃっている“凡事徹底”を心がけています。小さなことを大切に、ということですが、当たり前のことを真面目に。いま目の前にあるお仕事ときちんと向き合って、いつか来るかもしれない大勝負に向けて一日一日を丁寧に積み重ねていきたいと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
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