「本」の持つ力
――そうした経験が、「本」にまとめられています。
菅原美千子氏: 最初の本である『ロジックだけでは思いは伝わらない! 「共感」で人を動かす話し方』(日本実業出版社)は、出版社に企画書をお送りするところから始まりました。それから『すぐ身につくネガポ会話術』(幻冬舎ルネッサンス)と、おかげさまで、色々な切り口で「コミュニケーション」に対するメッセージを伝えています。執筆する際には「誰が読んでも分かるかどうか」に注意を払っています。これは記者時代の経験が活きています。
記者は、取材して原稿にして、伝えます。その際、誰が聞いても分かるニュースでなければだめだという想いが私の中にありました。アナウンサーの時もそうでしたが、執筆もそれと同じ気持ちです。
難しいことや抽象的なことほど、事例をあげるなどして、具体的に分かりやすく伝えなければだめだと思っています。わかりやすく伝えるためには、何よりまず、自分自身が理解していないとできません。言いたいことを上手く言葉にできず、苦しい時もありますが、書きたいことは溢れているし、なにより伝えたいという想いが後押ししてくれています。
また、相棒である編集者の存在も、執筆する上で非常に重要な存在です。私が行き詰まっていたらアドバイスや提案をしてくれます。また、私の文章を俯瞰してくれ、色々な視点から質問をしてくれます。そこで自分だけでは気付かなかった問題点が浮き彫りになってきます。そういう方向へ導いてくれる編集者の存在というのはとても大切な存在ですね。
そうして出来上がった「本」は、読む人の幅を広げてくれる存在です。時間軸も場所も全て越えて、色々な世界を覗くことができ、また様々なところに連れて行ってくれる。私にとって、自分を開くためのひとつの手段ですね。
その「本」が陳列されている書店は、私にとって出会いの場です。東北大学開学100周年記念式典の司会をした時に、ノーベル賞を受賞された島津製作所の田中耕一さんが「できるだけ自分と違う分野の人たちとコミュニケーションを取り、そういう人たちに助けをもらうことが大事だ」とおっしゃっていました。その時に、「本もそうだ」とピンときました。一見全然自分と関係ない分野の本でも、色んな発見があります。
自らと対話を深め 真のコミュニケーションを
菅原美千子氏: 企業の新人研修などに関わっていると、変化の激しい世の中で、心が折れそうになっている若い人が多いことに気がつきます。社会に出て、仕事をこなしていく上で他者とのコミュニケーション力は必須です。けれども、その前提として、しっかりと自分自身と会話できていることが、重要になってきます。
「内省(ないせい)」と言いますが、ずっと継続して成長できる人、心が折れない人というのは、自分との対話力がある人です。例えば失敗した時にネガティブになるのではなく、「次にどう活かすか」と思える人は早く立ち直り、自分の力で回復していく力を身に付けることができます。
一方で上司は、自分たちの世代とは考え方が違う若者に対して「自分は何ができるのか」というスタンスにならなければいけません。正論や理屈だけでは、人は動きません。人には「気持ち」があります。部下や後輩が、どういう時にやる気が出るのか、また逆にネガティブになってしまうのか、もっと勉強する必要があります。これから組織の形態も様々に変化することが予想されます。今までのような形では、うまくいかないケースも、たくさんでてきます。
そういう時に、「感情に対する知性」が相互理解を促し円滑な組織運営の助けとなります。その助けになるような研修や執筆などを今後も続けて参りたいと思います。
――新たな発見を通して、挑戦は続きます。
菅原美千子氏: また「大人の学び」においても、新たな取り組みをしていきたいと思っています。通常の流れに沿った予定調和の研修ではなく、今まで自分がこうだと信じてきたものが何かグッと揺らぐような、心が動き「なんだこれは!」となるような研修を手がけて参ります。
心が動く研修とは、ストーリーで語ることができる研修です。物語で人を説得する、人を動かすというところが私の領域だと思います。俳優の皆さんがやっている、インプロヴィゼーション(即興演奏、手法)の分野も取り入れて、予想を上回ることが起こりやすい現場でも、柔軟に対応できる人材を育てる場を作っていきたいと思います。100年経っても変わらない、廃れない、原理原則のような、今まで誰もやってこなかったようなことにチャレンジしていきたいですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 菅原美千子 』