菅原美千子

Profile

1969年、青森県生まれ。東北大学文学部卒業。大学卒業後、仙台放送に入社。アナウンサー兼報道部記者として、報道番組のメインキャスター、ドキュメンタリー番組制作に関わる。FNN(フジテレビ系列)アナウンス大賞でグランプリを受賞。その後フリーとなり、TBSと契約し、報道番組のメインキャスターとして数々の歴史的な場面をニュース世界に発信する。2004年にコーチングファームに入社。ビジネスコーチ、企業研修トレーナーとして活躍。2008年に独立し、同時にアナウンサー、キャスターとしての活動も再開。 著書に「共感で人を動かす話し方」(日本実業出版社)、『すぐ身につくネガポ会話術』(幻冬舎ルネッサンス)など。

Book Information

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ストーリーが人を動かし社会を変える



スピーチコンサルタントの菅原美千子さん。アナウンサー、記者時代に培った真のコミュニケーション手法を、ロジックだけでなく感情の部分に注目して講演や企業研修、そして「本」で伝えられています。「人は物語に感動し、動く」――幼少期に感じた思いを、様々な経験と重ね伝えてきた、菅原さんの“物語”とは。

24時間365日、アンテナを張る


――スピーチコンサルタントのお仕事について伺います。


菅原美千子氏: 多くの企業でコミュニケーションを軸とした研修をおこなっています。皆さんも私も、仕事を進める上で、コミュニケーション、相互理解は欠かせません。けれどもそのコミュニケーションで悩む企業や個人は少なくありません。コミュニケーションは言葉の内容はもちろん、態度、ふるまい、表情、声のトーン、抑揚、など、非言語のメッセージの影響力を使うことが大切で、その思いを軸に『クライアントのプレゼンス(あり方)をいかにデザインするか』に注力したテーマに取り組んでいます。

講演でも企業研修でも、反省や改善の繰り返し、変わり続ける情勢に合わせて常にバージョンアップし、ひとつでも最新のものを提供できることを心がけています。そして、具体的な事例を用いて、参加者の皆さんにいかに楽しく聞いて頂くかを念頭においてお伝えしています。24時間365日、ニュースやドキュメンタリー、ドラマなど様々な素材をチェックして、「この話は事例として使える!」というように、常にアンテナを立てています。

また、この数年企業トップとの対談の機会をいただいています。社員の皆様を前に、会社の未来や社会への貢献についてお話してもらい、生放送のイベントのような感じで、それを社内イントラネットや広報誌などに載せています。異業種の方との対談は、とても新鮮で、業界を知らないからこそ出てくる私の素朴な質問は、社員の皆様にも、おかげさまで好評を頂いております。また、私は意外と(?)カッとしやすいというか、「違う」と思ったらそれを言わずにはいられない性格なのですが、こうした素晴らしい方と出会えるおかげで、その方々に共通する謙虚な姿勢を学ばせてもらっています。



空想アドリブ大好き少女


――アナウンサー、報道記者のキャリアが活かされています。


菅原美千子氏: 人を動かすのは物語、ストーリーです。人は、そこに感情を揺さぶられ動きます。アナウンサー時代、記者時代に気づき培ったノウハウを皆様にお伝えしています。私が最初に“物語”に動かされたのは、小さい頃に読んでいた絵本でした。特に好んで朗読していたのは、カロリーヌという主人公が、犬や猫、くまやひょうなどの仲間とともに世界中を旅するという、『カロリーヌのせかいのたび』や『カロリーヌとゆかいな8ひき』シリーズでした。

朗読を通して伝える喜びを感じた私は、保育園で下の子たちに、その場で作ったフィクションのお話を披露していました。空想から広がるアドリブの楽しさを覚えたのもその頃からだったと思います。これは楽しさというより、必要に迫られてですが、小学校低学年の時に、作文の宿題をし忘れ、真っ白な紙を見ながら、さも出来上がった文章を読んでいるかのように発表したこともあります(笑)。

高学年に進むと、校内放送で月に一度、各クラスの代表が発表をする時間があったのですが、ある日突然担任の先生に放送室へ連れて行かれ、「菅原、何か喋れ」と言われたことがありまして……。どうやら先生が、予定を伝えることをうっかり忘れていたようですが、なんとかアドリブでやり遂げました。

学業はそれなりに頑張ったつもりでしたが、理系は全くだめ、現代文も苦手で、著者の意図を聞かれても「そんなの著者に聞かなきゃ分からないだろう」と思うような学生でした(笑)。私が東北大学へ進んだのも、特に明確な目標があったわけではなく、ただただ親の期待に応えようと思っただけのことでした。基本的に私の人生は行き当たりばったり。ひらめきや、直観で動いてきました。ただ、「ここに行くぞ」と決めれば、とことんやります。

文学部の英語学科は、他学部に比べて就職には強い方ではなく、企業から話が来る男子学生とは違って、女子学生には募集すらありませんでした。そんな時に、筑紫哲也さんが「報道の世界では、(性別に関係なく)名刺一枚で地位や立場が全く違う人と出会うことができる。歴史が大転換するような瞬間に立ち会うこともできる。報道の仕事はすごい仕事だ。」という趣旨のお話を、番組でされていたのを聞いて「これだ!マスコミに行こう!」と将来像をなんとなく描きました。また、『きょうの出来事』の櫻井よしこさんの知的で上品な佇まい、物事をズバッと言う姿勢がかっこよくて、漠然とそういった仕事に純粋な憧れを抱くようになりました。

通常ですと、アナウンサーを目指す学生は、アナウンス学院に通ったり、マスコミ研究会に入るなど準備をするのですが、私は何もせず仙台でのんびりと学生生活を過ごしていました。ある日、学生課でフジテレビの社員募集の紙を見つけ「あ!これは逃しちゃいけない」と思い、「アナウンサー志望で履歴書を送りたいのですが、どうしたらいいですか?」と、フジテレビに電話をして、履歴書を送りました。

――直球勝負ですね(笑)。


菅原美千子氏: ここでも「一度決めたら、そこに突き進む」性格が出てしまいました(笑)。アナウンサーの募集に対して、応募者数は3000人ほどでしたが、そこからまず300人ほどが選ばれ、個人面接が行われました。選考には30人まで残りましたが、残念ながら最終までたどり着けませんでした。それでもフジテレビ系列には縁があったようで、仙台放送に合格することができました。

泣いてばかりの新入社員時代



菅原美千子氏: 仙台放送時代は、若くて怖いもの知らず、本当に無鉄砲というか……、マナーも知らなければ、取材についてのイロハのイも知らない。勢いだけはある、とても失礼な奴だったと思います。ただ、一生懸命やっているということだけは感じて頂けました。「報道をやりたい」ということをアピールするために、報道の先輩記者の方に「取材に連れて行ってください!」と言って、付いて行ったりしていました。

忘れられないのは、入社して間もない頃のお花見中継ですね。そこに来ていた花見客に質問しなければいけないのに、用意していた質問の答えを自分で言ってしまって……(笑)。人の話を聞くということや番組の目的を何も分からず、出たとこ勝負でやっていたので、失敗ばかり。「インタビューの意味が分かっているのか」と怒られ、オイオイと泣くこともありました。「失敗しないと人は成長しない。」と言ってくれる方もいらっしゃいましたが、そういう意味では、良い機会をたくさんいただけたことにとても感謝しています。



――「一発OKの菅原さん」と呼ばれるまでには、様々な失敗があったんですね。


菅原美千子氏: 失敗だらけですよ(笑)。そんな時に支えてくれたのは、まわりの助けと、やっぱり何かを伝えるという仕事が「好き」という気持ちでした。嫌いな仕事なら頑張れません。それから結婚のため、拠点が東京に移りましたが、好きな仕事を続けていきたいと思い、仙台放送を退職した後はフリーに転身しました。

「本」の持つ力 


――そうした経験が、「本」にまとめられています。


菅原美千子氏: 最初の本である『ロジックだけでは思いは伝わらない! 「共感」で人を動かす話し方』(日本実業出版社)は、出版社に企画書をお送りするところから始まりました。それから『すぐ身につくネガポ会話術』(幻冬舎ルネッサンス)と、おかげさまで、色々な切り口で「コミュニケーション」に対するメッセージを伝えています。執筆する際には「誰が読んでも分かるかどうか」に注意を払っています。これは記者時代の経験が活きています。

記者は、取材して原稿にして、伝えます。その際、誰が聞いても分かるニュースでなければだめだという想いが私の中にありました。アナウンサーの時もそうでしたが、執筆もそれと同じ気持ちです。

難しいことや抽象的なことほど、事例をあげるなどして、具体的に分かりやすく伝えなければだめだと思っています。わかりやすく伝えるためには、何よりまず、自分自身が理解していないとできません。言いたいことを上手く言葉にできず、苦しい時もありますが、書きたいことは溢れているし、なにより伝えたいという想いが後押ししてくれています。

また、相棒である編集者の存在も、執筆する上で非常に重要な存在です。私が行き詰まっていたらアドバイスや提案をしてくれます。また、私の文章を俯瞰してくれ、色々な視点から質問をしてくれます。そこで自分だけでは気付かなかった問題点が浮き彫りになってきます。そういう方向へ導いてくれる編集者の存在というのはとても大切な存在ですね。

そうして出来上がった「本」は、読む人の幅を広げてくれる存在です。時間軸も場所も全て越えて、色々な世界を覗くことができ、また様々なところに連れて行ってくれる。私にとって、自分を開くためのひとつの手段ですね。

その「本」が陳列されている書店は、私にとって出会いの場です。東北大学開学100周年記念式典の司会をした時に、ノーベル賞を受賞された島津製作所の田中耕一さんが「できるだけ自分と違う分野の人たちとコミュニケーションを取り、そういう人たちに助けをもらうことが大事だ」とおっしゃっていました。その時に、「本もそうだ」とピンときました。一見全然自分と関係ない分野の本でも、色んな発見があります。

自らと対話を深め 真のコミュニケーションを



菅原美千子氏: 企業の新人研修などに関わっていると、変化の激しい世の中で、心が折れそうになっている若い人が多いことに気がつきます。社会に出て、仕事をこなしていく上で他者とのコミュニケーション力は必須です。けれども、その前提として、しっかりと自分自身と会話できていることが、重要になってきます。

「内省(ないせい)」と言いますが、ずっと継続して成長できる人、心が折れない人というのは、自分との対話力がある人です。例えば失敗した時にネガティブになるのではなく、「次にどう活かすか」と思える人は早く立ち直り、自分の力で回復していく力を身に付けることができます。

一方で上司は、自分たちの世代とは考え方が違う若者に対して「自分は何ができるのか」というスタンスにならなければいけません。正論や理屈だけでは、人は動きません。人には「気持ち」があります。部下や後輩が、どういう時にやる気が出るのか、また逆にネガティブになってしまうのか、もっと勉強する必要があります。これから組織の形態も様々に変化することが予想されます。今までのような形では、うまくいかないケースも、たくさんでてきます。

そういう時に、「感情に対する知性」が相互理解を促し円滑な組織運営の助けとなります。その助けになるような研修や執筆などを今後も続けて参りたいと思います。



――新たな発見を通して、挑戦は続きます。


菅原美千子氏: また「大人の学び」においても、新たな取り組みをしていきたいと思っています。通常の流れに沿った予定調和の研修ではなく、今まで自分がこうだと信じてきたものが何かグッと揺らぐような、心が動き「なんだこれは!」となるような研修を手がけて参ります。

心が動く研修とは、ストーリーで語ることができる研修です。物語で人を説得する、人を動かすというところが私の領域だと思います。俳優の皆さんがやっている、インプロヴィゼーション(即興演奏、手法)の分野も取り入れて、予想を上回ることが起こりやすい現場でも、柔軟に対応できる人材を育てる場を作っていきたいと思います。100年経っても変わらない、廃れない、原理原則のような、今まで誰もやってこなかったようなことにチャレンジしていきたいですね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 菅原美千子

この著者のタグ: 『英語』 『コンサルタント』 『コミュニケーション』 『組織』 『アナウンサー』 『スピーチ』 『考え方』 『アドバイス』 『紙』 『ノウハウ』 『歴史』 『ビジネス』 『テレビ』 『社会』 『研究』 『理系』 『人生』 『世代』 『クライアント』 『企画書』 『キャリア』 『現場』 『コーチング』 『きっかけ』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
著者インタビュー一覧へ戻る 著者インタビューのリクエストはこちらから
Prev Next
利用する(会員登録) すべての本・検索
ページトップに戻る