視点を多元化すればすべてのものが面白い
角田陽一郎氏: 以前AD(アシスタント・ディレクター)時代に、ある催眠術師が登場する番組で、リハーサル時に自らが実験台になったことがありました。リハーサルではスタッフが事前確認するものなのです。いすの両端に頭と足をのっけて、寝っ転がってブリッジ状態になったところで、200kgはあるかという巨漢がぼくの体に乗ろうとします。催眠術師は「大丈夫。催眠術をかけたから」と言います。
――そんな……。
角田陽一郎氏: バカな……ですよね(笑)。ところが巨漢が僕の上に乗っても全く、痛くない。「これは本物の催眠術師だ!」と感心したものの、翌日の朝、みぞおちのあたりに激痛が。やっぱり物理的に無理があったんですね。でも、催眠術師の大丈夫という言葉を信じた間だけは、平気だったのです。「ぼくを催眠術にかけてくれ!」という、番組をちゃんと成立させたいADのスーパーマゾヒズムのなせる技で、思い込みの力のすごさを“実感”しました。
思い込んだ方が、楽しい。信じた方が面白い。嫌いなことも経験すれば、なぜ嫌なのかがわかって楽しい。食わず嫌いから解き放たれた世界は、単一なユニバース(Universe)ではなく、さまざまなことを多視点から楽しめる多様性のダイバース(Diverse)です。視点を変えることで様々なものの見方が出来る、バラエティのある多様な生き方ができると思っています。
例えばADからどうやればディレクターに昇格できるのか?それは主体的に仕事をしているか?って要素が大きいです。他人ごとで企画会議に出席しているとつまらないからついつい寝てしまいます。寝ている人は、車の運転で言うと助手席に座っているんです。助手席は眠くなりますよね。でも運転席は眠くても絶対寝ないですよね。助手席の心持ちでは、面白い番組づくりも出来ないんです。こいつは自分ごとで企画会議に参加しているな!と感じられたら、そのADをディレクターに昇格させてもいいかなって僕は思います。
――自分ごとの人生にしようぜ、と。
角田陽一郎氏: 僕も死ぬまで自分の人生の運転席に居続けたいと思っています。人生の運転席にいるということは自分で問題を作ること。他人から与えられた問題をなぞるのではなく、自分自身で作りたい。そして、思うように進まないこと自体も楽しむ。社会に出るまで、学校にいる間は、とにかく規則に従い問題を解くことを訓練させられます。ところが、卒業して社会に出ると、急に問題を作れと言われます。なぞっていてばかりでは、問題を作ることは出来ないのです。