ネガティブな狩人が投げかける“フリ”
――『成功の神はネガティブな狩人に降臨する-バラエティ的企画術』には、そうした角田流理論、エピソードが詰まっています。
角田陽一郎氏: 理論なのか、哲学なのか、思い込みなのか……(笑)、『究極の人間関係分析学カテゴライズド』、『オトナの!格言』に続く三作目となる今回は、社内で企画がすんなり通ったことのない自分が――“ネガティブな狩人”がどのようにしてやりたいことを実現していったのか、方法論とエピソードを棚卸しする形で書きました。この本でも、今日お話ししたような、なぞらない生き方を伝えています。イギリスのモンティパイソンよろしく、突飛でシニカルな“フリ”を提供したい、読んでどう行動するか、オチは読者の皆さんが自由に想像してほしいと思っています。
今回、本を書くという行為や過程がテレビの制作に比べ、きわめて自分の本質が出やすいものだと改めて感じました。番組づくりは複数の人間が、演者の行為を撮り、編集して、発信することで成り立ちます。ある程度、客観視のシステムが自動的に出来ています。一方で本を書く時は、たとえそれが他人の行為を書いていたとしても、全部自分ひとりのフィルターを通して出来上がってしまいます。客観的に捉えることの難しさを改めて感じましたし、だからこそ違う視点から見て頂ける編集者の存在無しには、こうして本という形では成立しなかったと思っています。早速、方々から反響を頂き、本によって伝えられることの可能性を感じています。
バラエティ的未来に向かって
角田陽一郎氏: 今まで「どんな番組を作ったら多くの人が見てくれるだろう」と、マスに向けて、数の論理で、自分が伝えたいことを選別してきました。ところが最近、それによって「切り捨てられ、伝わらないことがある」という思いが頭から離れなくなってしまいました。
そこで「これからは0.1%に向けて、発信していこう」と思うに至りました。視聴率として狙っていた15、20%からすると、埋もれてしまいそうな些少な数かもしれませんが、それでも日本の人口で考えれば13万人もいます。
0.1%=13万人に共鳴してもらう事によって、それがやがて何倍にも広がっていく。
最初の共鳴者から、様々な有様で広がっていく。この本は、そんな最初の0.1%の人々に向けて書きました。
大衆がまとまることで力を持った20世紀の資本主義から、個々人の知性がそれぞれ輝きを放つ21世紀は、それぞれ個人=原子で活動する原子主義へ移行してきてるんじゃないかと思うんです。キャピタリズムからアトミズムへ変化していくなかで、ベタっとした、おおざっぱなレッテルではなく、細分化された個人の知性の集合体で動いていく世界、大量消費ではなく個々に響く作品が求められる時代、「少量共鳴社会」へとパラダイムチェンジしていく。それが「バラエティ的未来」だと思っています。
――その中で角田さんの探求も続きます。
角田陽一郎氏: 19世紀の当時の評論家が言い放った皮肉から名付けられ、その後アートの潮流になった“印象派”も、カール・マルクスの『資本論』によって誕生した“社会主義”も、新たな言葉として定義づけられたことで、最初の共鳴者から、少しずつ世の中に認知され次の世界を拓いていきました。どれくらいのインパクトになるか未知数ですが、そうした新たな社会の「渦」となる一滴を、これからもバラエティの視点から、注ぎ続けていきたいと思います。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 角田陽一郎 』