枝廣淳子

Profile

1962年生まれ、京都府出身。東京大学大学院教育心理学専攻修士課程修了。2年間の米国生活をきっかけに29才から英語の勉強をはじめ、同時通訳者・翻訳者・環境ジャーナリストとなる。環境問題に関する国内外の動き、新しい経済や社会のあり方、幸福度、レジリエンス(しなやかな強さ)を高めるための考え方や事例等、伝えることで変化を創り、つながりと対話で、しなやかに強く幸せな未来の共創をめざす。著訳書に『不都合な真実』(ランダムハウス講談社)、『レジリエンスとは何か―何があっても折れないこころ、暮らし、地域、社会をつくる』(東洋経済新報社)、『世界はシステムで動く』(英治出版)など。

Book Information

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無関心に届ける「トロイの木馬作戦」



枝廣淳子氏: 次に出した本は『朝2時起きで、なんでもできる!』というタイトルで編集者から提案頂いたものでした。題名通り環境とは関係のないもので、当初の希望とは違いましたが、結果的に “環境”関連の書棚、コーナーに置かれなかったことで、逆に関心の薄い人々に届けることが出来ました。自分が一番届けたいと思う人は、そこにまだ関心のない人です。特に環境という分野は、そういう人にこそ届ける必要があります。

このとき、私は編集者に学びました。編集者には、すでにある概念とこちらのコンテンツを上手に料理して出してくれるタイプと、自分では気づいていない、世の中に何か提供できるものを見つけて引っ張り出してくれる二つのタイプがいますが、まさに前者のタイプの方でした。『レジリエンスとは何か』のようにこちらから提案する場合もあれば、「これまであまりなかったジャンルだけど、社会にとって大事だから出しましょう」と、共同作業をしてくれるような編集者の方もいらっしゃいます。そういう方と仕事をするのは楽しいです。

――『レジリエンスとは何か』は、新たなジャンルに分類されます。


枝廣淳子氏: レジリエンスという言葉に最初に出会ったのは、10年以上前だったと思います。「これは日本にも、私にも必要だ」と感じて、研究していました。ある程度資料もまとまり、社会の機運も熟してきたところで、少しずつ書き進めていきました。最初はコンセプトだけで、編集者に話をしようかなと思いましたが、新しいジャンルだし難しいだろうなと思ったので、初めて、全部原稿を書いてから出版社を探すことにしました。こうして本になるまで2年かかりました。

「レジリエンス」とは、強い風にも重い雪にも、ぽきっと折れることなく、しなってまた元の姿に戻る竹のように、「何かあっても立ち直れる力」のことで、私はよく「しなやかな強さ」と訳します。レジリエンスの入門書である本書では、もともと生態系と心理学の分野で発展してきたレジリエンスの考え方や、そこから教育、防災や地域づくり、温暖化対策など、さまざまな分野で広がる取り組みをみていき、人生と暮らしのレジリエンスを高めるための考え方を紹介しています。

先の見えない激動の時代をたくましく、しなやかに強く生き抜いていくためには、ひとり一人も家庭も、組織も、地域も社会も、レジリエンスの強化を考え、実行していくことがとても大事です。今回の『レジリエンスとは何か』もそうですが、非常に大事だけれど難しいものを、わかりやすく手渡せていけたらと思います。

社会のつなぎ役として


――活動や想いを手渡し、つなげられていきます。


枝廣淳子氏: 私は自分のことを、つなぎ役だと思っています。今、社会を変えられる人を育てることに関して、今いくつか企業との共同プロジェクトを計画していますが、その過程を本にすることで、次代へとつながっていってほしいと思っています。

15年前に、今の自分は想像できませんでした。だから15年後の私というものはわかりませんが、基本的に、未来世代も含めた今の時代において大事なものを掴んで、それをわかりやすく伝えて、皆さんを巻き込んで(笑)……違いや変化を生み出していくのは変わらないと思います。新しい分野だから色々なことが試せるし、やって失うものは何もありません。

私は人生のピークを90代に持っていく予定なので、そこを目指して、まだまだ勉強しないといけません。10年前、取材を受けた時に「まだ、やりたいことの3%くらいしかやっていません」という話をしましたが、やりたいことはどんどん増えていくので、10年経った今でも、3%のままです。死ぬ時も「3%」と言うかもしれませんが、それもすごく幸せな人生だなと思います。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 枝廣淳子

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