著者と編集者と読者の想いが交わる「本」
――そうした経験を活かし、想いを本にして私たちに届けられています。
岩井俊憲氏: 最初の出版が『人を動かす人に29の切り札』1992年のことですね。「有能なだけでは必ず孤立する」という副題です。本を出すとは決めていたのですが、私が開いていた講座に石原加受子さんという有名なライターの方がいらっしゃって、そこでご縁をつなげていただきました。
この本を担当した当時副編集長だった、現在は三笠書房の取締役出版本部長の長澤義文さんという方から、この4月に突然メールを頂きました。他社で出している本の文庫化の依頼でしたが、こうしてご縁が復活するのは嬉しいことです。今年の7月29日に『アドラー流 人をハッピーにする話し方』となって息を吹き返しました。
今まで、色んな形で本を書かせて頂きましたが、どれも根底には幸福になるための考え方、アドラー心理学のシンプルさを学んで欲しいという想いが流れています。まだまだ原因論に固執して不幸を選んでいる人が多いと感じますが、未来志向の目的の世界で生きるほうが、実は簡単でそれはとてもシンプルだということを伝えたいですね。
変な話ですが、私は執筆の依頼を断ることがあまりありません。もちろん自分で出来ないときは、誰かを紹介します。それは、編集者の「本にしたい」という想いを、無下にしたくない、漂流させたくないという想いからです。
編集者は、表に出てこない存在ですが、本づくりに対して著者に負けずとも劣らない熱い気持ちをもっていると思っています。執筆において、編集者は共同作業者で、だからこそ彼らの意見は大切だし、どんどん著者に要求する編集者でいて欲しいと思っています。
このやろう!というぐらい赤を入れられる時もありますが、著者はプロダクトアウト、自分が思っている物を作りたいものなのです。しかし、それを編集者がしかるべきところにマーケットインしてくれる。読者がどんな風に読み取っていくのか、これを考えないといい本にならない。そうした存在が本づくりにおいては欠かせないのです。
――想いが交差する「本」、岩井さんにとってどんな存在ですか。
岩井俊憲氏: 命ですね。精神の支えです。人生の節目で迷った時に手に取ることもあるでしょうし、鼓動させる刺激にもなります。また、内省を促し、心をじっくり繙く。本を通してもうひとつの自我と向き合えます。私の使命は、人の幸せをお手伝いすること。楽な生き方を選ぶ事によって幸せになる、そのことを「命」である本で伝えたいと思っています。
未来志向で生きていく
――必要以上に思い煩う事はないと。
岩井俊憲氏: 世の中が、人の思考があまりにも複雑化しすぎている。だけど、本当はシンプルなのだと。複雑な生き方を放棄し、シンプルな自分らしい生き方を伝え続けていきたいですね。
今は、真の幸福論を書きたいと思っています。高校時代に影響を受けた亀井勝一郎という評論家の書いた『人生論・幸福論』は非常に素晴らしいものですが、私はその現代版を、現状にあった幸福論を提供したいと思っています。
――そうした想いが、岩井さんの原動力に。
岩井俊憲氏: 明確な将来を見据えているわけではないのですが、方向性だけはあると思うのです。この方向性が大事で、それが「志(こころざし)」だと思っています。心が指し示す方向に向かって、やるべき事はやる、やってはいけない事はやらない。このシンプルな未来志向の生き方をこれからも、実践していきたいですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 岩井俊憲 』