「悩んでも良い、寄り道したって良い」
好奇心が触れたところに突き進もう
今野紀雄氏: ぼくはここ、横浜国立大学の理工学部では、数理科学EP(教育プログラム)を担当しています。といっても、何をやるのかあまりイメージは涌きませんよね。普通に受験する高校生には、さらにわからないと思います。
ぼくの研究室には毎年数名の学生が来ますが、それぞれ数学に対する想いは様々です。なかには、入学してみて想像と違ったと感じる学生もいるでしょう。けれど、何かひとつでも彼らに「この研究室で学ぶことができて良かった」という達成感を持って卒業してもらいたいと願っています。
学生が本当にやりたいことができるように、手助けをする。学生の疑問に応えることが、後進を育てる研究者の務めであり、教授であるぼくの役割だと思っています。学生がつまずいた時に手をさしのべ、納得のいくテーマを探していく。その時に、飲み会などのコミュニケーションで垣間見れる人間性も、その人にあったテーマを決める上で非常に役に立ちます。誰にでも、向き不向きはありますから。そしてやりたいことが見つかったならば、あとはトコトン突き進んでもらいたいですね。ぼくもたくさん悩んで、失敗もたくさんして……寄り道をしながらですが進んできました(笑)。
――今野先生は、今どこに向かって進まれているのでしょう。
今野紀雄氏: ぼくの興味は宇宙です。それは自己を通じた内なる宇宙です。この広大な宇宙の中で、ゼロに等しいはずの人類が、宇宙に関する理論をつくれることが非常に不思議でなりません。でも逆にいうと、そういう見方の宇宙しか見ることができないのかもしれません。本当にそういう宇宙だけなのかもしれないし、本当はもっと想像もできないようなすごい宇宙があるのかもしれない。
ぼくが今までやってきたことは、何か手当たり次第に宇宙全体を捉えたいと思って試行錯誤してきたことのひとつのような気がしています。それを支えているのが、枠を意識しない無限大の好奇心。今まで歩んできた道のりも、もしかすると宇宙と一体化するための歩みだったのかもしれません。これからも、とにかく見るものなんでも全てを吸収していこうと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
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