外国語習得も「読書」が要
“好奇心のエサ”でひらく、新たな扉
――好奇心は外国語にも向けられました。
ピーター・フランクル氏: 僕にとって外国語の勉強も本が一番の道具でした。最初に本格的に学んだ言葉はドイツ語で、15歳の頃にせっかくだからもっと上達したいと思い、ドイツ語の本を読むことにしました。図書館で借りたのは短編小説の対訳本で、薄い本を一日一冊ずつ三十冊ほど夏休み中に読んでから、ついにドイツ語だけの本に挑戦することにしました。
周りには外国語の勉強のためにアガサ・クリスティなどの推理小説を読む人もいました。どうしても結末を知りたくなるので、難しくても最後まで読み通すからだそうです。でも僕はどちらかというと、本が書かれた時代の国や社会や政治の状況などを説明している本に惹かれて、ドイツ語でも様々な名作を読むようになりました。また、ゲーテやシラーの詩を暗記したり、ノーベル文学賞受賞者のハインリヒ・ベルなどの現代ドイツの小説もたくさん読んだりしました。
――外国語習得の第一歩は、「文字」から。
ピーター・フランクル氏: 多くの日本人は英語学習に励んでいますが、大体の人は英語でコミュニケーションができることを目標にしています。もちろん、外国語学習の華はコミュニケーションで、自分と外国との間の溝を埋めたり、新しい友達や仲間を作ったりするのに役立ちます。だからといって、安易に会話を中心に勉強するべきではないと僕は考えます。
第一、今は日本人同士でも、直接会話をするよりもメールやメッセージアプリなどの文章を通じて連絡を取ることが多くなっていますよね。相手が外国人でもそれは変わりません。つまり、現代社会では文字でコミュニケーションすることが多くなっています。第二に、文章の読み書きをする時は会話をする時よりも時間に追われることが少ないので、時間をかけて表現を考えることができるからです。
「財産は頭と心の中にある」
知的消費時代に活きる父の教え
ピーター・フランクル氏: 戦争で自分の両親を含め全てを失った親から教わったのは、「人間の本当の財産はこの身一つで、中でも大切なものは頭と心の中にある」ということです。僕は今でもこれを深く信じています。誰でも自分が大切に思っているものを集めたい、増やしたい、綺麗にしたい。例えば家や車やブランド品など人それぞれ自由ですが、僕個人としては環境破壊などを考えると、これからは物質的な消費よりも知的消費をする時代にしていかないといけないと考えます。
それと財産は頭と心の中にあることはぴったりだと納得しています。では頭と心の財産をどう増やすか。さまざまなことに関する知識を増やさなければいけません。例えば毎週新しい本を読もうと自分に課しても、忙しい中ではなかなかうまくいかないでしょう。知りたい気持ち・好奇心が強くなければ、新しいことを勉強する時間とエネルギーは残りません。また心の財産は何なのかと思うかもしれませんが、僕は今まで生きてきた経験、出会い、良い友人関係など、とにかく他の人との関わりの中にあると考えます。これを増やす一つの素晴らしいきっかけは、国の内外を問わずの旅。特に少人数で旅に出ると、旅先で出会った人と話す機会がたくさんあります。時間と心にゆとりができるので、日常で歩いている時とは気分が違います。
――ピーターさんの旅、素敵ですね。
ピーター・フランクル氏: こう偉そうに言っていますが、僕自身はかなり臆病な人で、知らない人に声を掛けることができる性格ではありませんでした。それを変えたのも、外国語の勉強でした。外国語を学んでその国を訪れると、やはり自分の力を試したい気持ちになります。自然に現地の人に声を掛けたり、情報を求めたりし、また国によってはそこの言語ができることで好意的に迎えてもらえます。
中でも最も得をした国は日本です。日本人は日本語が難しい言語だという意識を持っています。確かに僕がふれたことのある言語の中で、中国語やタイ語など文字が難しい言語を含めても日本語が断トツに難しい。というわけで、日本人と違う顔をした僕がある程度日本語を読み書き話せるのを見て、非常に親切にしてくれました。