人生の主人公は自分自身
心を開いて人生を豊かに過ごそう
――そうした経験を本に記すようになったのは。
ピーター・フランクル氏: この日本で僕が初めて、数学以外の本を書こうと思ったきっかけは、ある日本人がくれた外国人タレントが書いた本でした。内容としては面白かったけれども、ほとんどは手前味噌の自画自賛的な書き方で、あまり気に入りませんでした。一方、僕も出会う日本人一人一人に人生を詳しく話すより、一冊の本にまとめたほうがよいのではないかと思い、『数学放浪記』という自叙伝を書くことにしたのです。ただ、先ほどの本を反面教師にして、自分はこれだけ偉い素晴らしいという書き方は避けて、恩師である何人かの人の人生と考え方を挙げて自分の人生を書きました。人間は謙虚であるべきだと今でも思います。
――たくさんの伝えたいメッセージが込められています。
ピーター・フランクル氏: 先程も話したように今の僕の主な仕事は講演会で、その中で人々に伝えるメッセージはいくつもありますが、最後に二つ紹介したいと思います。まずは「人生の主人公は自分自身である」ということ。自由で平和な民主主義の国日本でこそ、みんなそれぞれ幸せを追及する権利を持って、自分の人生を一番大切にしてほしい。といっても決してわがままになったり周りの人に無関心になったりするという意味ではなく、自分にとって大切なのは周りの人たちだということを意識してほしいのです。テレビに出るタレントに子どもが産まれたことよりも、近所の人に子どもが産まれたことの方が大事だと思ってほしいし、一方的に好きな俳優よりも相互的なコミュニケーションができる周囲の人たちを大切に思ってほしい。
その延長線上で最近、講演の最大のメッセージにしているのは「keep your heart open」。人は人生に期待を持つべきで、これから面白い出会いや素晴らしい出来事がたくさん待っていると確信してほしい。ただそれが訪れる機会は人を待ってくれないので、自分からつかまなければなりません。そのためには自分の心の門戸を開いた状態にするべきです。「黒人だから怖い」とか、「在日だから話したくない」といった間違った先入観を持たずに、自分と相手との間に壁を設けるのではなく、好奇心を持っていろいろな人やものごとと積極的に接することをお勧めします。そうすればきっと、自分の人生がさらに良くなることは大いに期待できますから。
(聞き手:沖中幸太郎)
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