内田樹

Profile

1950年東京都生まれ。1975年東京大学文学部仏文科を卒業。大学時代の学友、竹信悦夫から多大な影響を受けてレヴィナスの研究を志す。東京都立大学人文科学研究科博士課程を中退し、東京都立大学人文学部助手となる。 1990年から神戸女学院大学文学部助教授、総合文化学科教授を経て、2011年退職、同大学名誉教授。 同年、第3回伊丹十三賞。合気道六段、居合道三段、杖道三段の武道家でもあり、神戸女学院大学合気道部顧問を務める。専門はフランス現代思想、ユダヤ人問題から映画論や武道論まで幅広い。現在は、武道の稽古と研究教育活動道場兼学塾である『凱風館』を拠点に物書き兼業武道家として活動する。

Book Information

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――BOOKSCANのことは元々ご存知でしたか。

内田樹氏: いや、知りませんでした。

――作家の7名の方が、いわゆる自炊業者、スキャン代行業者を訴えたということはご存知ですか。


内田樹氏: 自炊って、本を取り込んじゃうやつ?BOOKSCANってその仕事をやっているの?
自分の持っている本をスキャンするわけでしょ?

――そうです。


内田樹氏: なんでそれ、いけないんだっけ?やろうと思えば自分で出来るわけでしょ。それを代行しちゃいけないというわけですか?

――個人でも出来ることなんですが、業者でやるのはどうだという事で。私的複製の範囲からは外れるんじゃないかという。


内田樹氏: それはいいんじゃないかな。そんなものって、問題が出てから言えばいいんだよね。やってみたら問題だから、止めようって、言えばいいんじゃない。もしかしたら、問題になるかもしれないからというだけの理由で規制するのっておかしいよね。

――色々な見解があるようですね。こういった書籍をスキャンをした物も電子書籍になりますが、いかがですか。


内田樹氏: スキャンしてほしいね、本当に(笑)。これなんか全部スキャンしてほしいぐらいだよ(笑)。

――読者の方が、内田さんの書籍をスキャンしたいといった場合は、いかがですか?


内田樹氏: 好きにしてください、と。それは買われた方がどんな風にお使いになろうと自由だし。実際、電子書籍化していますからね。大手の出版社で出したのは今はほとんど全部電子書籍化されてるし。だけど、全然売れないよ、電子書籍って。紙の本を重版とかする時って、5000部とか3000部とか出るのに、ダウンロード数って、1年に1回報告がきて、印税68円とかだもの(笑)。

――となると、現段階では、まだ紙の書籍で読まれる割合が多いですか。


内田樹氏: 段階というか、これ変わらないんじゃないかな。電子書籍にシフトするということはないと思いますよ。使い方がたぶん違うと思うんだけどね。僕みたいな学者が調べ物をするときには電子化されていると本当にありがたい、検索が早いし。リファレンスブックって、集めるともの凄い量になって、家が潰れるくらいになる。それが電子化されてクラウドにあるなら、こんなありがたい事はない。
電子図書館ていうのは学者にとっては、ほんとうに夢のまた夢で。とにかく1冊の本を読むために、夏休みつぶしてフランスまで行って、図書館まで行ったら「今、休館中」とかね。それが、キーボード叩くだけで読めるんだから、これは夢のようなことですよ。

――リファレンスの数が膨大だという事ですが、今日お伺いしたこちらの部屋には、どれぐらいの書籍があるんですか?


内田樹氏: ええとね、どれぐらいあるんだろう、1万冊ちょっとぐらいかな。


――本はどこで購入されるんですか。


内田樹氏: 今はほとんど、Amazonだね。あるトピックについてまとめ買いするから。

――購入された本は、どのように読みますか。


内田樹氏: 研究用の読書と楽しんで読むとでは読み方が違うから。楽しむ本は、頭からじんわり、なるべく時間をかけて、味わうように読む。研究用の読書は、とにかく情報を取るために読むわけだから、必要なところをピンポイントでつかまえて、1冊の本を読み通すというよりも、その本の中の重要な情報から、関連する他の本にずれていくという読み方になる。だから、机の周りに関連する図書がどんどん並んでいって、それを座る場所をちょっとずつずらしながら、何十ページかずつ読む。そんな格好になるね。

――研究用の本は何冊ぐらいですか。


内田樹氏: まあ、限界がありますからね。せいぜい一度に20冊ぐらいかな。

――いろいろな作業や生活を同時並行される中で、20冊それぞれの内容が頭の中に残っているものなんですか。


内田樹氏: いや、残っているというか、研究しているときは、情報がブロックであるので。頭に装着されている。それをガチャンと外して、ご飯を食べにいって、また戻ってきて、ガチャと再装着(笑)。そういう頭の回路、研究回路というのがあって、それはふだんの思考回路とは違う回路なんです。研究回路をオフにして遊んで来ても、書斎に戻れば研究回路につながる。

――その回路はどれくらいの時に確立、もしくは自分の中で自分はこんな風にやっているんだなと認識されたんですか。


内田樹氏: きちんと切り分けられるようになったのは、30代からかな。集中して専門的な研究していた大学院生、助手の頃ですよね。博士課程と助手の頃は、朝から晩までずっと研究していて、それが仕事だから。その頃に頭の中の研究回路にオンオフ装置がつきましたね。

――その頃に、もし今のような電子書籍があったら、ご自身の中で何か変わった事というのはあると思いますか。


内田樹氏: やってることの内容は変わっていないと思うけど、ものすごく効率的に仕事はできたと思います。参照できる文献の数が桁違いなんだから。実証的にきちんとデータを取って、資料的な根拠を示すということが、ほぼ網羅的にできるわけだから、そういう点ではずっと厳密なものができたような気もしますけども。でも、それで内容的に深くなったかというと、そういうことではないと思います。研究自体の深みとか質とかと、アクセスできる学術情報の量は必ずしも相関するわけじゃないから。

僕が院生の頃は、1冊の本を取り寄せるために、フランス語でフランスの古書店に手紙を書いて、為替でお金を送って、送られてきた本を見たら違ってた、みたいな(笑)。そういう悲喜劇を含めて、研究活動でしたからね。

著書一覧『 内田樹

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