『電子書籍』へ恐怖感を持っている大手出版社の編集者が増えている
――今お仕事はどこを拠点にされていますか?
堤未果氏: 今はラジオのレギュラーと月に講演を4、5本、それに執筆と取材をしていますが、全国に行くので東京と関西に事務所があります。関西のオフィスはもう本だらけですね。収納が多い所を選んだんですけど、結局全部本ですね。数か月に1度、200冊ぐらいを売りますが、それでも収納スペースが追いつきません。
――そういった本を電子化しようと思われたりはしないですか?
堤未果氏: 自分でですか?
――ご自分でも、BOOKSCANなどの、蔵書電子化サービスなどを使ってでも電子化することもできます。
堤未果氏: 自分の持っている本を電子化してくれるんですか?それは便利ですね。
――ただ、便利な反面、自分の本が知らないところで電子化されて流用されるのではないかと、権利関係を心配されている作家の方もいらっしゃいますね。
堤未果氏: そうですよね。例えば誰かがお願いしてクラウドに上げた場合、それは誰でも利用できるんですか?それともその人だけ利用できるんですか?
――BOOKSCANでは、実際にスキャンを申し込まれた方のみですね。その方以外は見られないようになっています。なので、スキャンしていただくことで数十冊の本を端末1つで持ち運べるようになりますね。
堤未果氏: そうなんですね。それ良いですね。私は、本を書くときに色々調べたりしながらものすごく沢山資料を読むんですが、資料本って重いんですよ。だからそのサービス良いですね。iPad1台を持ち歩けば良いんですよね。
――堤さんは、1冊の本を書き上げるのに、だいたいどれくらいの参考資料を読まれますか?
堤未果氏: そうですね、単行本だと50冊ぐらいですかね。プラス新聞記事とか論文とかをかなり読みますね。
――1冊の本を書くのにどれくらい時間がかかりますか?
堤未果氏: 1冊書くのにですか?出版社にはせかされますが、だいたい平均して1年くらいかけますね。
――出版社の方には章ごとに渡しますか、それとも一回全部書き上げた物を渡して、それから校正を繰り返しますか?
堤未果氏: 出版社、担当編集者によって違いますね。例えば『貧困大国アメリカ』の時は一章書いて渡して、読んでもらって次、というパターンでしたし、岩波ジュニア新書の時は、割と全部書くまで見ないで、全部終わってから出しましたしね。
――出版社によって違うんですね。
堤未果氏: 違いますね。担当者も活発に意見を言ってくれたり、方向性も含めて一緒に作っていくプロデューサータイプの人もいれば、何にも言わない人もいますね。それぞれのスタイルなんですが、ただ個人的にはやっぱりリアクションが豊かな編集者だと嬉しいですね。書いている時って自分一人の作業なので、やっぱり一番最初に読んだ編集者が、「面白いですね」って一言いってくれると、すごくエネルギーが上がりますね。
――そういったところが出版社の役割だと思われますか?
堤未果氏: そうですね。でも編集者というのは今、エネルギッシュなプロデューサータイプの人と、地味だけれど本当に本や本作りそのものが大好きな人と、二種類いるようです。ある先輩作家さんが、昔は長いスパンでつきあってくれて作家を育てるタイプの編集者が随分いたが、今は少なくなったと言っていました。でも最近はノルマもすごくきつくなっていて、編集者の人も2ヶ月に3冊という過酷なペースで出版しているんですよ。本当に大変だと思います。そんな中で1人の作家さんにそんなに集中して関われないでしょうね。全体的に今、時代の速度がスピードアップしている事は、クリエイティブな側面にとっては必ずしも良くは無いですね。
――出版社は、作家さんと一緒に作り上げていくという気持ちや編集力が大事だと思われますか?
堤未果氏: 大事だと思いますね。だけど編集者の人たちと話していると、最近は電子書籍の存在にとても恐怖感を持っているという方が増えています。特に老舗の大手出版社の編集者に多いですね。だけど、「紙」の出版物は絶対に消えないと思います。簡単に手に入るものが増えていくと、人は本物を求めるようになると思います。だから「紙」の出版物は必ず残っていくと思うんですね。なので今までより一層、質の部分を高めるように集中した方が、結局は残っていくのではないでしょうか。でもどうしても私たち皆、時代のスピードについていかなきゃという脅迫観念がありますよね。例えば、1つのテーマで当たった作家がいると、その作家に依頼が集中して同じような内容をいろいろな出版社で、出版する流れがありますよね。あれには私は疑問を感じます。安全な方向かもしれないけれど、あれをやってしまうと作品の中身がどうしても浅くなるし、買う側も飽きてきますし、全体的に質が落ちてくるんですね。だから集中してワーッと依頼が来るときには気をつけて、なるべく1年に1冊のペースにしています。「ぶんぶんゴマ」みたいになっているうちに、自分を見失ってしまいそうで怖いんです。もちろん私が不器用なだけで、すごいスピードで高品質の作品を出し続けられる人もいるとは思います。
著書一覧『 堤未果 』