日本は『活字文化』が根強いので、読者のレベルが高い
――読者はどういった目を鍛えるべきだと思いますか?
堤未果氏: 私は日本の読者というのはすごくレベルが高いと思っています。あまり本を読まないアメリカと比べているから余計なのかもしれませんが、安易な物を求めるといっても、それでもやっぱり本屋さんに行って本を買うという手間をまだ惜しみませんし、電子書籍になったとしても、活字文化というのはすごく根強いので、レベルは高いままだと思いますね。
例えば『新書大賞』で、歴代のラインナップを見ていると、去年は科学者が書いたもので、その前の年は内田樹さんの『辺境論』ですね。その前の年は『貧困大国アメリカ』で、第一回は福岡伸一先生の『生物と無生物の間」です。ここには流行本とか、その時流行った経済本なんかは上位に入っていないです。とてもまじめな本ばかりなんですね。あれは本屋さんと編集者が選んでいるんですね。それも1年間に出た新書1500冊の中から5冊選ぶんですよ。それでこういった書籍が上がっているということは、書店員さんのレベルとか、読んでいる人のレベルってそんなに低くないと思うんですよね。むしろ読者のレベルを見くびっているのは出版社の方です。テレビもそうなんですけど、今の問題は、送り手が受け手をみくびっていることだと思います。今、ラジオのレギュラーをやっているんですけど「リスナーの意識が高いなあ」と、どきっとさせられることがしょっちゅうです。テレビにうんざりしている人がラジオに流れて、今ラジオ人口が凄く増えているらしいです。
――確かにラジオは自分で選んで聴くという感じがしますね。テレビは受動的な感じですね。
堤未果氏: そうなんです。テレビは座って見ていると何も出来ないじゃないですか。でもラジオって何かしながら聴けるので、意識して聴いているときと聴いていない時と分けられるんです。テレビは見始めるとあまり他の事を考えられないじゃないですか。だから余計、ラジオは主体的な媒体だなと思いますね。私の出ている番組は、『質の高い物を』と制作側がすごく意識して作られています。前にテレビのレギュラーをやっていた事もありますが、やっぱり今試されているのは送り手の方だと思いますね。最近では受け手の方が情報量もあるし、すごく先を行っていると感じますね。その一方で送り手は昔と同じ意識のままなので、今何が起きているのかをちゃんと勉強している人が少ないように思います。テレビ局の人が企画を立てる時にその話題について書かれている最新の本を読んでいなかったり、フリーのジャーナリストにネタを聞きに来たりするんですよ。大衆はこのレベルで満足するだろうとあぐらをかいていると、ずっと先に進んでいる受け手において行かれてしまうと思います。
――送り手が選ばれたり、ふるいにかけられたりするんでしょうか?
堤未果氏: ふるいにもかけられるし、受け手がもっとすごいスピードで先に行っちゃうと思うんですよね。個人でも発信ができるわけですし、既存の送り手は本当に守られているけど、新聞もテレビも、これからもずっと同じように組織が守ってくれるかどうか保証はありません。電子書籍がこれだけ浸透してきているということは、国境が無くなってきているという事です。今、日本はテレビも新聞も独占法で守られているますけど、これからもっと自由化が進んだとき、守られている壁も壊されていきますね。その時に準備をしていなかったら、壁が崩れた時に丸腰になってしまいます。その危機感が薄いと思いますね。日本の出版社は電子書籍のGoogleの件でも、ちょっともたもたしましたよね。あっちは海千山千ですからね、(笑)。でもこの波はこれからも繰り返しいろいろな形で襲ってきます。
――出版社はこの波に乗るかどうか、ということでしょうか?
堤未果氏: もしくは何かを守るために内側から働きかけですね。そうでなければ、質を変えていくのかですね。どちらにしてもやっぱり本気で今、考えなきゃいけないところだと思います。
――以前、出版社が主導になって作家さん7人が自炊代行業者2社を提訴した裁判があったんです。堤さんがおっしゃったように危機感が強くなって、その危機感がこういった形につながっているんでしょうか?
堤未果氏: 向かうべき所がちょっと違うかもしれませんね。アレルギーですよね、ほんとに。文明時差みたいなものですね。でも知的財産権という利権拡大にこれからアメリカを始め全力で向かってくるので、やはり準備は必要ですね。
『本』は、『過去』や『未来』へ自分を連れて行ってくれる存在
――ところで、堤さんはたくさんの本を整然と並べるタイプですか?それとも資料として積み重ねるタイプですか?
堤未果氏: ああぁ、大きな山みたいに積むってものですね。うちの父親がやっていました!私は一応高さ順にきれいに並べています。私の事務所は壁面収納が全部本ななんです。でも夢はちゃんとしたイギリスの書斎みたいな書庫部屋が欲しいですね。ああいう所で書きたいですね。
――堤さんにとって、書き手として、または読み手として、本とはどのような存在ですか?
堤未果氏: 自分にとってですか?本は、もう今はいない人と触れ合えたり、過去や未来、そして時間や空間の制限を越えて、自分を遠くに連れて行ってくれるものですね。タイムマシーンのようなものですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 堤未果 』