すぐにでも日本政府はコンテンツを育てないと日本の文化はダメになる
『子連れ狼』、『高校生無頼控』、『修羅雪姫』、『クライング フリーマン』など、さまざまな名作を世に生み出してきた、日本を代表する漫画原作者・小池一夫さん。小説家、脚本家、作詞家などとしても活躍する、まさにキャラクター創造の神様のような存在です。「クール・ジャパン」が叫ばれ、日本のコンテンツが海外で勢いを持つなかで、世界各国で講演や講義をおこなっている小池さんに、電子書籍のあり方からキャラクター論、そして、現在の日本のコンテンツの問題点についてお伺いしました。
弟子は、世界各国に総勢300人以上
――小池さんといえば、『子連れ狼』など、さまざまな名作漫画の原作者として知られています。現在も漫画の原作をお書きになられて、お弟子さんもいらっしゃると伺っております。
小池一夫氏: いままで教えた弟子の数は、全部で300人超えていますね。今も新人を育てておりますので。年間5、6人はデビューしていきますね。僕は今77歳ですけど、40年近く小池一夫劇画村塾やキャラクター塾、それからいろんな大学、あと中国の人達など、本当にいろんな方達を教えてきました。いまでは、自分の創作活動のための時間よりも「誰かに教える」ことに費やす時間が上回るようになってきましたね。
――漫画原作者としてのデビューのしやすさというのは、昔と比べてどうですか。
小池一夫氏: 今は編集部へ持ち込みをしても、デビューは無理かもしれませんね。僕の本『キャラクター新論』が出ていますから、だいたいそれを読んだ人達が僕の所へ集まってくるんです。僕の持っている教室で、入れ代わり立ち代わり持ち込まれた原稿を見て、お世話をしてですね。「これはいい」、「あそこを削る」という具合にやっていますね。まあ、キャラクターさえ良ければお話はいくらでも変えられることができますから。でも、本当にキャラクターさえ作れば、お話は1人で転がっていくのに、皆さんよく、先に主人公を作っちゃうんですよね。主人公を作ってしまうと、実は話が動かないんですよ。たとえば、悪い奴を最強に最初に作ってしまえば、誰かがその悪を退治に行くから話が動き出すでしょ。昔から必ず、ゴジラであったりゾンビであったり、いろんな化け物が最初に出てくるじゃないですか。そこに、主人公が向かっていくわけです。アメリカのドラマでも日本のドラマでも、犯罪とか悪いキャラクターが最初なんですよね。
本当に簡単なことなんですよね。主人公にあんまり多くを喋らせない。悪い奴にも喋らせない。主役と悪役が喋っていたら、面白くも痒くもない。だって、「これからお前を殺すぞ」って言って面白いですか? 傍で見ている第三者が「ああ、殺される。あいつはこんな術を持っているからヤバいぞ」と言って、初めて面白いんじゃないですか。で、その引き回し役が必要なの。
キャラクターの神様が語る「キャラクターの作り方」
――キャラクターを作るのにも、やはり法則があるんですね。
小池一夫氏: 当然です。アメリカの映画を見たりテレビドラマを見たりすると、刑事物なんて、全部犯行現場じゃないですか(笑)。殺人が起きて黄色いテープが張ってあって、血まみれの死体が転がっていて、そこにニコニコマークがある。でも、犯人はいない。これは連続殺人犯のいつものパターンだと。そこへ駆けつけてきて、車がキーっと止まる。そして、出てくるのは誰です? 主人公ですよね。「おっと待て」とか「バカヤロー」とか言って、バッチ見せて。そうすると部長のうるさいのがいたり、所轄の違う意地悪がいたりと、第三者が必ずいるんですよ。多くの名作、『24』だって『プリズン・ブレイク』『クリミナル・マインド』だって、みんなそうなっているのに、何で日本の原作者が作るとそうならんのかなあと。主役には弱点、悪役には欠点をつけろと言っているんですね。主役に弱点がなくて、強すぎちゃったら、誰とやっても勝ってしまうじゃないですか。そんなのドラマに先が見えていて負けが来ないんだから、困るわけで。主役より強いのがいるのもそうです。
次に、悪役には欠点をということなんですけど。悪役は、普通邪悪な心を持っているじゃないですか。これはシリアルキラーにしても連続殺人犯にしてもね、「人を殺したい」という欲望だったり、人間としては許されない心の欠点だったりがあるがゆえに、ひねくれた性格になっている人が多いんですよ。悪はたいがいそうじゃないですか。人類制覇とか地球制覇とかみんなそうだけれど、それを全部くっつけてやらないと悪役にならないでしょ? 「悪役には欠点、主役には弱点」。これは僕が『キャラクター新論』の中で書いた理論のひとつですね。僕の頭では、そういうことを細かく分析して総論と各論に分けてあるわけですけれど、ただ本を読んでもわからない連中も多いから、そういう場合は徹底的に直していますね。
――そういったことを提唱した人は先生が初めてだったと思うんですけれど、どういうことがきっかけで「これはちょっと理論立てないといけない」と思われたのですか。
小池一夫氏: 自分の相手役を探したのがきっかけです。僕は自分が原作者ですから、漫画を描ける人と組まないと漫画にならないんです。例えば、売れている漫画家はみんな仕事を持っているじゃないですか。だから組めない。新人ばっかり、しかも下手くそと組まされると表現力が弱いから、嫌になっちゃうでしょ。これは僕が育てようと、僕が作ろうと。それで絵のうまい美大生とか、もともとデッサンのしっかりした人とか、そういう人達を選んで仕事をするようになっているうちに集まってくるわけです。
それと、僕があるプロダクションを辞める時に、そこのアシスタント達が7人ぞろぞろと僕についてきちゃったの。神田たけ志、やまさき拓味、叶精作、小山ゆう、神江里見、伊賀和洋とか、7人みんな有名人になった。そして、彼らと一緒の共同生活を余儀なくされたんです(笑)。
これが最初ですよ。彼らは仕事が何にもないわけだから、僕が組んで仕事を取るしかないでしょ? そこで出たのが『御用牙』や『弐十手物語』など、いろんな作品が出ていくわけですよ。みんな大ヒットしますけれど、それで小池一門みたいな感じになっていったんですね(笑)。