本を自分の血肉にしてほしい
――千田さんは、どんな子どもだったのでしょう?
千田琢哉氏: 両親や親せきが集まった時に話を聞くと、大人をドン引きさせるのが得意だったみたい。親せきでワーワーやっている時に、ポンと何か恐ろしい一言が出て来るというような子どもだったみたいです。自分では憶えていないんですけど(笑)小学校の時にデパートに行くと、最初に走っていく場所がおもちゃ屋さんではなく宝石屋さんだった。なんで宝石屋さんかというと、数字を見るのが好きだった。300万円とか500万円ってダイヤモンドが並んでいるじゃないですか。もう一つはダイヤモンドが100個ぐらいついているのが300万円なのに、1個しかついていないのが500万円、それに納得できなくて、店員さんにしつこく聞いていた。そういう、少しズレている子どもでした。「本当のことを知りたい、本当のことを言いたい」というのが、そのころからあったんじゃないかな。学級会とかでもよくドン引きされていましたね。学校の先生も顔が引きつってブルブルブルって震えちゃうぐらいのことが何回もありました。なぜそれが許されたかというと、そこに邪気がなかったんでしょうね。本当にその問題を解決しようと思っているからポン!とストレートに口から言葉が出るんですよ。そうすると学校の先生ってすごくまじめで建前を重んじる人が多いから、困っちゃうんですよね。「そんな、いきなりストレートに本当のことを・・・」って。
――真理、本質を言う。
千田琢哉氏: だから、自分はあまり口を開いちゃダメだっていうコンプレックスが、いつもどこかにあったような気がします。保険会社の時もそうだったんです。会議で「これってこうじゃないですか」と言った瞬間にシーンとなっちゃって。場の空気を全く読めない。で、それが初めて絶賛されたのがコンサルティング会社に入社した時。「あらら・・・またやっちゃったかな。空気読めてないな」と思っていたら、「おい、お前、すごいじゃないか。ちょっと飯食いに行こう」と、ひと癖もふた癖もある天才コンサルタントに言われて(笑)
――千田さんのストレートな言葉が読者に響くのでしょうね。ブックスキャンは個人の蔵書を電子化する事業です。スキャンするには本を裁断しなければならないのですが、それでも電子化して手元に持っておきたいと。そういった読者に何かメッセージはありますか?
千田琢哉氏: 読者はお金を払って本を買います。その本は、破ろうが煮ようが燃やそうが、もう何をしても勝手。一番大切なのは、自分の血液の中に流し込むことですよね。千田琢哉の本を買ってくれて本棚に全部飾ってくれるのもうれしいけれど、全部捨てました、血液の中に流れていますというのもうれしい。一番うれしいのは「いままでできなかったことが、この一言のおかげで背中を押されてできました」というメールなんかをもらった時ですね。自分も、1か月に1回は本棚からあふれた本を全部処分する。前は本棚にパンパンに本を詰めていたんですが、そうすると他人の書いた本に圧迫されて自分の本がこれから増えていかないような気がした(笑)余計なものを置かないと、そこにラッキーが舞い込んでくる。そう考えると、ブックスキャンのビジネスって、電子書籍の突破口になるんじゃないかな。
――最後に、95歳までに1000冊以上出すということですが、今後書きたいテーマ、展望はありますか?
千田琢哉氏: あの…ないんですよ、それが(笑)いま、本にしているのは、編集者の悩みごとに応えたものです。出版社がいま行列を作って待ってくれていて。会ってくださいとか、メールでやり取りをする時に、売れそうな企画を持ってくる。でも、それって私が過去に書いた内容と似ているんですよね。「その本はまねっこになって売れないから、自分がいま悩んでいることはないの」という話をすると、「実はいま、リーダーになって、どうやって動けばいいか悩んでいる」と「じゃあリーダーシップの本を書こうよ」となったり。すると無限に本が書ける。問題を与えられて、それに対する変化球を投げるのが好きなんです。普通の人なら、模範解答はこうでしょうってなるのを、ひっくり返すのが昔から好きで。要は、優等生の考えた模範解答よりも千田の考えた誤答の方がはるかに面白いって、100人いたら100人がキャー!ってこっちに集まってくるような本を書きたいんです。「ちょっとそこの優等生、静かにしてくれない?千田さんの誤答が聞こえないじゃないの!」というように。だから編集者の数の分だけこれから本を出せる。自分の悩みごとを解決するために、地球上でただ1冊、自分のために書いてくれた本だから、本人は一生懸命売ろうとするじゃないですか。「これって全部うまくいくな」って、それは後から気づいたんですが(笑)編集者も「サインしてください」とか、「仏壇に置いて頑張ります」って言ってくれるから。売らんかなという本じゃなくて、いま目の前の人が喜ぶ本を書く。1冊書くとまた次の1冊がそこから派生していく。それは多分、良いことなんじゃないかな。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 千田琢哉 』