興味と好奇心であふれる毎日
ライター、書評家、さらにはセミナーなどで講師もする奥野宣之さんは、2008年に出版した『情報は1冊のノートにまとめなさい』が、読者の心をつかみ、32万部のベストセラーになりました。その後の続編「ノートシリーズ」でも話題になり、やがて海外にも出版され、今注目の若手作家です。情報整理、ビジネス記事、体験記録やエッセイなど、その面白くてわかりやすい情報に引き寄せられ、幅広い年齢層から支持を受けています。そんな奥野さんにとって「本」とは、どんな意味を持つのか、プライベートも含めてインタビューしました。
僕にとって本とは、デジタルだらけにならないようバランスを取るためのものです
――早速ですが、今現在行われている取り組みや、お仕事について教えていただけますか?
奥野宣之氏: 仕事は、基本的にライターです。単行本のほかに無署名のライター仕事もいっぱいやっています。本を書く仕事、連載を書く仕事、それから講演やイベントも行っています。あとは、家事とか育児の手伝い(笑)。
――お子さんは何人いらっしゃいますか?
奥野宣之氏: 2歳と0歳の女の子2人です。2人とも、むちゃくちゃ手がかかるんです(笑)。仕事しているとき以外の時間は、全部オムツ替えです(笑)。僕は家でできる仕事をしているので、家にいる確率は結構高くて、週に4日ぐらいは絶対にいますね。昼間は取材や打ち合わせ、あとは本屋に行くとか資料を探したりして、家を出ていたりするけど、朝と晩は家にいるという感じです。
――著書の『人生は1冊のノートにまとめなさい』などは、このデジタル社会で便利品があふれる中、あえてアナログを紹介しシリーズ累計50万部のベストセラーとなりました。そのヒットした要因は現代の人々に何があったからだと思いますか?
奥野宣之氏: 何か足りない感覚があったんじゃないかな。世の中がバーチャルなものとか、手触りの無いもの、風合いとか、身体感覚の無いものばかりになって来たから、どこかでバランスを取りたくなったんじゃないですかね。やっぱり人は手触りのあるものと、デジタルなもの両方必要だと思います。リアルな物ばっかりに囲まれているとテレビが見たくなったり、テレビばっかり見ているとキャンプに行きたくなったりするような感じだと思うんですよ。だから僕の本は、キャンプだとか運動だとか、フィジカルな、能動的で身体性のあるものだったということだと思います。結局今って、情報は無尽蔵に手に入るでしょ。ハッキリ言ったら、人の声っていくらでも聞けるわけですよ。昔だったら、人の声を聞こうと思ったら、アポを取って手紙を書いてと、大変なものでしたけど、今はもうTwitterとかを検索したら無尽蔵に出てくる。だから、他人の声を聞く努力というものがほとんどいらなくなっちゃってる。それより「自分の声」を聞く努力がいるんだと思うんですよ。それが今、むちゃくちゃ難しい世の中になってきたと思います。その方法のひとつが、ノートを使うことだったということですよね。
生活そのものが、常にネタ探し
――奥野さんは大学生のころからノートに書き続けてこられている、ということですが、本を書くという職業になる前は、新聞社で働かれていたそうですね。
奥野宣之氏: 新聞社と言っても専門誌、業界誌だったんです。2社で働きました。ジャンルは環境と、物流関係の海運です。その2つの業界を取材してきました。環境というのは産業廃棄物などのゴミ問題や環境汚染について、海運は港とかロジスティクスの話ですね。取材先は人によって船会社であったり、航空会社であったり、全然違うんですけど、僕は港や役所でしたね。
――インタビューをする上で、どういったことを心掛けていますか?
奥野宣之氏: 1つのテーマ、あるいは聞きたいことを、ぐるぐるまわって何回も質問します。聞きたいことは3つくらいだけども、質問は20個ぐらいします。一見すると、違うことを質問しているようだけど、実は同じ質問というのを何個も重ねていって、いい言葉が出てくるまで突っつき回すんです。人柄や、その人にしか出せない言葉をどうやって出すかなんですね。何を聞いても紋切り型の言葉で乗りきろうとする人ってよくいるんですけど、そんなときでも生の言葉を聞き出すまで突っ込みます。「この話をしているときは、生き生きしているな」と思ったことを、手を突っ込んでバアッと広げるような感じですかね。だから、プロレスの協力して「いい試合」を作ろうとするところがあるように思います(笑)。
――まさに真剣勝負ですね。
奥野宣之氏: 相手が輝く瞬間をどう見つけるかということです。会ってみるまでわからないですから。有名人だと、ある程度ほかのインタビューを見ていれば、ああ、こういう人だなとわかるんですけど、メディアに出ていなくて人柄もがわからない場合はその瞬間で勝負しないといけない。普段から何かしら、興味を持ったことは常に情報として入れておくというのは、インタビューをする上ですごくいいことだと思いますね。本当に日常的なことでもいいんです、例えばスーパーに買い物に行って、野菜の値段をみても、それもまたネタになります。別に特別なことをしなくても、注意力で情報やネタは見つかりますから。それと観察力ですね。だから僕の感覚では、全生活が情報につながっていくような感じですね。
すごい書棚を作るのは、はじめから諦めている
――好きな本をどんどん読んでいくと、本が増えていく一方かと思います。本棚などで何か工夫はされているのでしょうか?
奥野宣之氏: 使いやすい本棚を通販で買いました。結構便利に使っています。サイズが違う本とかも、自分でも並べたりする作業が好きなんです。読める年表もあるし、古い辞典を買うのも好きなんですよ。仕事で読んだ本や、趣味や娯楽のために読む本、もらった本とか、いろいろあります。
――奥野さんの本棚を拝見すると、旅行の本が多いようですが、気づいたら増えていたといった感じですか?
奥野宣之氏: はい。テーマって、たぶん、昔から自分の中にもともとあるものなんですよね。全然興味の無いことを「書いてくれ」と依頼されたとして、言われてから資料を集めたら、おそらく薄っぺらいものしかできない。だから、これから書こうと思っている旅のことや、『1冊のノート』シリーズとかも、もともと僕の中にあったテーマです。最近、新書の『処方せん的読書術』を書いたときのことですけど5年以上前に新聞から切り抜いた記事とかを引用していますからね。別に本のネタにしようと思っていたわけじゃなくて、その時に「何か面白いな」と思って切っていただけです。メンタル的なことや、落ち込んだ時の読書といったことを書こうなんてことは全然思っていなかったけど、それは無意識のうちにテーマとしてもともとあったから、勝手に資料が集まっていたんです。僕は、好きなものじゃないと書けないですからね。ほかにも、まだ自分でも「これが好きだ」とわかっていないことがいっぱいあって、これからもたぶんそれを見つけながら書くんじゃないですかね。
――奥野さんは速いペースで本が増えていくと想像しますが、その場合は捨てたりもされるのでしょうか?
奥野宣之氏: はい、捨てますね。常に、こう、流れていく感じですよね。本当は手放したくないんですけど、すべてを残しておくということはあきらめました。有名な作家の家って、ワーッと本があるじゃないですか。そんな風に本棚を構築できたらいいですけど。僕は6畳の和室にちゃぶ台1つ置いているようなシンプルな生活にあこがれているんですよ。
著書一覧『 奥野宣之 』