電子書籍はシンプル、そしてスピーディーに。
――電子書籍にすれば売れるのなら出版社にとってもメリットがあるはずですね。
中島孝志氏: 値段が高くて増刷が怖い、在庫に残るのが嫌だという風にビビッてる出版社にとって電子書籍をやるのはいいことだし、ユーザーにとってもそんな分厚い本を持ちたくないんだったらスマートに持てるように、ブックレット、電子書籍みたいな形のスタイルで出したらいい。データさえありゃあんなものチャチャッとできますから、だから、これは売れそうだなと思った段階でさっさとやればいい。読む情報は同じだけど紙なのか電子なのか、重たいのか軽いのかという。あとは使い勝手だから。使い勝手はユーザーのほうが考えるわけで。だから出版社がこの本は紙だけにする、電子だけにする、紙と電子の両方にする、という選択をする風に転換したほうが絶対いいと思う。今取次が非常にシビアになっていて、相当な出版社でも紙は一律2割ぐらい納品を減らされている。まあ出版社のほうもいわゆる在庫がそれだけ減るからリスクも減りますが、リスクが減るということはチャンスもそれだけ減るわけでさ、そのことに気づいていない。イニシャルコストはたかが知れているんだから、それを電子書籍でカバーしたらいいじゃないかと思う。で、新聞広告を打つ時にも電子書籍の併売みたいに、「電子書籍もあります」と銘打つ。で、客がどっちを買うか選ばせたらいい。本の売り上げが減っているとか言うけど、売り上げが減るように自分たちがやっているんだから、アホかと思いますね。
――電子書籍と紙の本には、もちろん形状や媒体の違いはあるのですが、本の内容や編集の仕方などでも求められるものは異なってくるのでしょうか?
中島孝志氏: 電子書籍の編集と紙の本の編集は全然違うから、編集者に求められる資質というのが違うと思います。だって電子書籍って最初から電子書籍を想定して企画、依頼ってなかなかしてないでしょう。やっぱり紙が主体で連載してもらったり書き下ろしてもらったりして、そういう完成物がある程度できた段階で、装丁なんかも含めて紙の編集者がやったりして、それから電子書籍の編集者に引き継いだりする。その電子書籍の編集を、村上龍さんはめちゃめちゃコストをかけてやっちゃった。音楽を入れたりイラストを入れたり。チェックしたところから飛んでわからないことも全部解説できるみたいな。確かにそういうやり方もある。一冊でものすごい情報量をたたき込んでいるみたいな。歴史書なんか特にそうですね。経営書なんかでもそうかもしれない。だけどもっとストレートにシンプルに「これがわかればいい」と思っている人には、そんなものもいらない。だからもっとシンプルにしてほしい。紙以上にシンプルにしてもらいたいなあと自分自身は思いますね。重たくする必要はない。スピードのほうが重要だと思います。紙のほうにはイラストが入っていても、電子書籍はイラストなんかいらなくて、情報がバーッと書いてあるといい。新聞を読んでいるような感じでいいなと思っています。私のところは日経も朝日も東京新聞も、全部電子なんですよね。紙も届けてもらっているんだけど、紙のほうはハッキリ言って読まない。新聞広告をチェックするだけで。
「なんやねん!」というサプライズがある本屋が好き。
――現在読まれているのはほとんど紙の本ということですが、ネットだけではなく書店に足を運んで購入することはありますか?
中島孝志氏: 書店は3日に1回ぐらいは回っていますね。Amazonってやっぱりピンポイントで買うから。あとは類書みたいなものを向こうから提案されるけど、書店って配列とか、もうめちゃくちゃじゃないですか。何でこんなのが並んでるの?みたいなのがあるんだけど、それを買ったりする。やっぱり書店に行ったほうが、「なんやねん、これ」っていうサプライズが多いから。おもしろいですよね、
――それぞれの書店の特徴とか、例えば「この書店員はなかなかやるな」とかいうことはありますか?
中島孝志氏: ありますね。「ここの書店、大好き」というのもあるし、「ここ大嫌い」というのもあるし。浜松町の駅に連結するところにある書店なんか、好きですよね。だからあそこまでわざわざ電車で行ってドッサリ本を買ってくる。でも横浜だと大きい書店なんか行っても全然何もない、全然ダメ。何の食指も動かない。あと熊本にTSUTAYAがある。そこが一番、本屋としてはデカいというのもあるんだけど、おもしろい本が多いので、どんどん買ってレジの横に積み上げておく。で、最後に精算する(笑)。私の本もベスト10に入っていますよ。だから「これは私の本です」とか言ってます。あと博多駅のバスターミナルの一番上が紀伊國屋なんですよ。そこも同じで、高速バスに乗る前に、そこでやっぱり積み上げて本を買う(笑)。
学生時代通いつめた「ニヒルな書店」
――本屋通いというのは、昔からずっとされているのですか?
中島孝志氏: 学生時代は、立川に鉄生堂というのがあって、そこに車を飛ばして横浜からしょっちゅう行っていましたね。なぜそこに行くかっていうと、周波数が合うというか、すごく肌が合うんですよ。高い本も多かったけど、そこでよく買っていましたよね。ニヒリズムの本とかね。「白昼の死角」の主人公になった山崎晃嗣っているでしょ。東大始まって以来、若槻礼次郎以来の天才と言われて、終戦直後に光クラブっていう金貸し業を始めて、最後に自殺した。映画化もされたしドラマ化もされましたけれども、その主人公の遺書とか、そんな虚無的な本ばっかりいっぱい置いてあったりして。それが好きでしょっちゅう行って買っていましたね。
――書店員さんかオーナーさんのこだわりがあるんでしょうか?
中島孝志氏: あるんでしょうね。大体、普通の本屋にそんな本は置いてないですよ。あそこにはそれがかなり集中して置いてあったから、行くと2時間ぐらいずっとそのお店にいる。「私好みの本屋さん」、みたいな。今もあるかどうかわからないけれども。
――今の書店が昔と変わってしまったなと思う部分はありますか?
中島孝志氏: ちっちゃい街の書店がなくなって、地方では特に大きい郊外型大型店みたいなお店がやっぱり増えていますよね。車社会になっているからかもしれないけど、近くのところにふらっと買いに行こうというのではなくて、そこそこの品ぞろえがしてあるところに行って探そうみたいに、効率的になってきているというか。昔だったら5店舗あったのが1店舗だけで、大きいものに全部集約されてきている。
―― 一般のお客さんの嗜好や、客層にも変化があったのでしょうか?
中島孝志氏: 800万人の、団塊の世代の連中がいわゆる労働マーケットから消えちゃったわけで、そうすると、あの人たちというのは今までオフィス街に書店があったりして、そのオフィス街とか駅前とかの書店で買ってたわけですよ。それがなかなかオフィスに行かなくなっちゃっているし、駅にも行かなくなっちゃっていると思うので、その800万人のマーケットというのは、やっぱりかなり縮小したわけですよね。逆にAmazonとか、ああいう通販のほうが楽になってきているのかもしれない。本って車で行かないと荷物になる。2冊持ったらもう大変ですからね。私なんて手提げみたいなのを2つ持っているし(笑)、すぐに読みたい物だけピックアップしてあとは送ってもらうようにしています。翌日届くし郵送料もタダにしてくれたりするから。だから荷物としての本というのも、やっぱり一つ大きい。それがあってなかなか買わないですね。ご家庭の主婦なんかが読む雑誌って分厚くて、重たい。私なんか嫁さんが買ってそれを持たせられるから(笑)。これ嫁さん一人だったら絶対に買わないだろうと思う。そういう時はAmazonで買おうって言ったりするけど、やっぱり中身を確認したいからと言われます。女の人って、やっぱり雑誌も中身を確認しないと買わないから、新聞広告に載っている内容を類推して買うというのはない。そういう意味で考えると、一般の書店でああいう重たいものを買って帰るというのは、なかなかしなくなっていますね。
著書一覧『 中島孝志 』