有栖川有栖

Profile

1959年大阪市生まれ。小学4年生で推理小説のおもしろさを知り、5年生で創作を始める。中学3年の時、長編を書き上げて江戸川乱歩賞に応募。初落選。以後、高校・大学・社会人時代を通じて、たびたび落選。大学時代は同志社大学推理小説に所属し、機関誌「カメレオン」に創作を発表。同志社大学法学部卒業。卒業後は書店に就職。1989年、鮎川哲也氏の推挽をもらい、『月光ゲーム』(創元推理文庫)でデビュー。以降、コンスタントに作品を発表し、1994年に作家専業となる。2000年に設立された本格ミステリ作家クラブの会長に就任して、05年まで務める。2003年、『マレー鉄道の謎』(講談社文庫)で日本推理作家協会賞を受賞。

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買うというより「本屋から持って帰る」感覚


――本を探すときは、有栖川さんは書店へ行かれるんですか?


有栖川有栖氏: そうですね、本屋を見たら吸い寄せられるタイプなので。本屋さんで何冊も本を買って、どこかで晩御飯を食べてお店から出てきたら、もう1回本屋へ行きたくなっていますからね(笑)。さっきの本屋より小さい本屋を見て、「もう1件行こうかな」。

――ご自宅に本があふれかえっていらっしゃいますか?


有栖川有栖氏: 当然あふれかえっています。本屋さんに行くのは、本を買っているというよりも、あれもこれもどうせ買う、だから順番に持って帰っているくらいの感覚がありますね。じゃあ、今日はこれを家に移動させるわという感じで、お金を払っている(笑)。

――書斎も含めてご自宅は、どんな感じですか?


有栖川有栖氏: 書斎は、わが家の中で一番広いですよ。それでも棚から本があふれていますけど。前はマンション住まいで本が置けなかったので、今の家に8年ほど前に引っ越したんですけど、本を買うために本を書いて、お金をためて家を建てて、本を並べる。最初から本を読まなかったら働かなくていいんじゃないかというようなマッチポンプぶりですけどね(笑)。でも、いくら書庫を頑張って大きいのを作っても、あふれますねえ。本のために本を書くっていうのは、もう運命ですね。

電子書籍で絶版がなくなることを夢見ています


――有栖川さんは、電子書籍についてどうお考えになりますか?


有栖川有栖氏: 少し触ったことがあるという程度なのですが。それでも試してみて、いいなと思うところがありました。紙の好ましい質感やページをめくる快感はありませんが、片手で持てる中に1000冊分の本が入れられてどこでも持って歩けるのはやはりメリットです。紙の本と電子の本には相反する魅力がある。「この部分で競争してこっちが勝っている」とかっていうのと違う。そもそも、魅力、メリットが違いますから。本当は、自分が持っている全ての紙の本を電子書籍でも持っていたいですよね。希望としては紙の本を買ったら電子書籍もおまけでつけてほしい(笑)。「両方とも買え」といわれたら不経済すぎて無理。

――紙と電子とは、そもそもの土俵がちょっと違うんですね。


有栖川有栖氏: どっちにもいいところもあります。一覧性とか操作性とかでは紙のほうが絶対いいですよ。ぺらぺらぺらーっと見ながら、「好きな場面があったんだ、どこだったかなあ」っていうときに、スクロールしながら該当箇所を捜すなんて、考えただけでも気が重い。ぺらぺらぺらーっと見たら、2周目ぐらいで、「そうそう、この辺がジーンときたんだ」とか思い出せる。その一方、600ページくらいあるような本を残り30ページくらいまで読み進んで、出かけるから持って出たいときに、30ページのために600ページまるごとを持ち歩くのなんてばかみたいだと思うんですよ(笑)。こんなときに電子書籍があったら、そっちを選びたくなりますよね。

――なるほど、共存していくものなのかもしれないですね。


有栖川有栖氏: 作家として、読者としても、電子がいいなと思うのは、絶版本がなくなる可能性があるということ。これは、作家としても読者としても夢だった。専業読者だったころは、もう欲しくてほしくてたまらない本が品切れだというので、学生時代から古本屋さんを1件1件探して、地図なき宝探しのようなことをやっていて、「これもロマンだな」と思ったりしていました(笑)。見つけたときは思わず目をこするくらいでほんとに、「ついに来た!」っていって面白かったんですけども、でもつらいんですね。とうとう見つからない本とか。どうしたら読めるんだろうとか、もどかしい。それがなくなる。戦前のマイナーな探偵小説作家の短編で、つまらんってみんながいっているけど、妙に気になるタイトルが読めるとかね。非常にカルトな作家の作品で癖が強くって、とても復刊の見込みもないけど自分の好みに合っているような気がするっていう本が、読みたくなったら、数秒で自分の持っている手元に電子情報で飛んでくるなんてそれこそ夢でしょう。最近書籍の出版件数が多すぎるっていうのもあるのかもしれませんが、書き手としても、書いたものがたちまち店頭から消えていくという悲哀を作家はみんな味わっています。よっぽどの現役バリバリの流行作家でなければ、自分の本がいつまでも本棚にあるなんてことはない。それはね、もう、なんていうか、やっぱり残念なんです。

――そうですね、点数が多ければサイクルも早くなってしまいますね。


有栖川有栖氏: 世の中全ての本を本屋さんに置けるわけないし、この世にとどめておけるはずもない。それは分かっている。だって「あなた自身も、1冊出したらもうすぐ次の本を書いているじゃないか」ってことになりますから(笑)。でも、ごくごく少数だけど自分の小説を面白いといってくれる、自分の小説の中でも風変わりなものを書いてしまって評判が悪かったけど、好きな人はあれがいいっていってくれる本があって、出版社もビジネスでやっているんで、重版したりあるいは復刊したりとか、とてもできないだろうってときに、電子書籍だったらどうなのかなあと考えます。いったんデータにしたものは、読みたいという人が年に2人しかいないような本でも、その2人には読んでもらえるとなったら、積年の夢がかないます。

――そういう意味では、電子書籍はすごく可能性をもたらすものですね。


有栖川有栖氏: 実は、自分の中で電子書籍の意味って何が一番大きいっていったら、自分の本が半永久的に品切れにならないんじゃないか、という期待です。10年に1人読みたいという人が現れてもその人には届くんじゃないかと思うと、ほかのメリットよりも魅力的です。

本が好きだから本が買えないパラドックス


――読者が、住宅の本を置くスペースなどの関係で、書籍を裁断し、スキャンすることで電子化されることに関して、どのように思われますか?


有栖川有栖氏: 今は出版不況だといわれていますけども、本を買わない理由は2つある。1つはお金の問題。読書家というのは、お小遣いで買いきれないぐらいの本が欲しい人たちだから(笑)。ようするに、欲望が大きすぎてお金が足りないわけです。「お金がない」というときに、本をあんまり読まないから、本を見ると「思っていたより高いわね」っていう人と、1冊1冊は高くないんだけれど、「俺はあまりにもたくさん読むからお金が追いつかないんだ」っていう人と2種類ある。私は昔から、自分のお小遣いでは買いきれないぐらいの本が欲しくなるタイプの人間だったので、お金が足りないという人の気持ちは分かるんです。本を買わない理由の2つ目は置き場所の問題。本が好きな人ほどお金が足りないし置く場所がない。私の友人で図書館をフル活用している人がいます。彼は一流企業の重役で、きみが本を買わなかったら誰が買うんだと思う。彼は学生時代からの友人で、すっごく本を読むんですよ。そんな彼でも図書館かと(笑)。彼は本が大好きなんですが、それでも買わないのは置き場所が最大の問題なのだろうと推察しています。

――結局それによって、出版社や著者へ還元されていないんですね。


有栖川有栖氏: 先ほど書き手としては、電子書籍ならば絶版がなくなるのがありがたいといいました。では、読み手としてはどうか。読書スタイルが多様化することに勝るとも劣らぬメリットは、置く場所、スペースの問題から解放されることかと思います。

――BookScanも創業時、住宅事情から「家にある本をどうにかしたい」から始まりましたが、出版業界や著者の方も含めてみなさんが活性化する、簡単にいうと利益をちゃんと享受できる仕組みをなんとかして作ろうとしています。


有栖川有栖氏: 出版界にお金を還元してくれるのは新刊を買ってくださる方だけです。といって、図書館や古書店も悪者じゃないんですけどね。自分だって図書館利用してきたし、今も利用することあるし、古本屋の何が悪いといわれたら、何も悪くないどころかありがたい存在です(笑)。自分の買ったものをどうしようが法律的になんの問題もないし、「読んだ本がたまったら捨てればいいのか?」っていわれたら、捨てられるより古本屋さんに売られるほうが、新しい読者との出会いがあって本も著者もいいだろうな、という気持ちにもなる。また、スペースがなくてもうこの本を家に置けないけど、手放す前に電子化したいっていうんだったら、「ああ、そんな風に思ってくれるんだ」とは思いますよね。作家で本をバラすのに抵抗があるという人がいます。まあ私も抵抗ありますが、本という形を犠牲にしても中身を残したい気持ちも理解します。でも、バラした本をスキャン用に転売することは法律で禁止されるべきだと考えます。それは出版に関わる全ての人間への不当な攻撃で、かつ本への侮辱だからです。人間が働いた成果なんですから、対価はとにかく安ければいい、無料ならベストというものではありません。

著書一覧『 有栖川有栖

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