竹内一正

Profile

1957年岡山県生まれ。徳島大学大学院工学研究科修了、米国ノースウェスタン大学客員研究員。松下電器産業にエンジニアとして入社。VHS、PC用磁気記録メディアの新製品開発、海外ビジネス開拓に従事。その後アップルコンピュータ社にてプロダクトマーケティングに携わる。日本ゲートウェイ、メディアリングTCの代表取締役などを歴任後、コンサルティング事務所「オフィス・ケイ」を設立。新製品開発、ビジネスプロセスの改革など「新たな価値」を生み出すことをテーマとした独自のコンサルティング活動を行っている。近著に『30代の「飛躍力」 成功者たちは逆境でどう行動したか』(PHPビジネス新書)がある。

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追いかけて、「ありがとう」と言おうかと・・・


――最初に本を出されたきっかけは何ですか?


竹内一正氏: 私は 2002年にビジネスコンサルティング事務所を立ち上げました。ある時、新聞の広告欄に、「あなたの原稿を本にします」っていう公募記事を見つけたんです。自分のこれまでのキャリアを本にできたらいいなと思って。で、原稿を書き始めた。でも実は、私はブラインドタッチでキーボードが打てないんです。打つのに時間がかかって「面倒臭い」と挫折しそうになった。その時に思い出したのが、音声入力のソフトウェア。アップルにいたころ、音声認識の開発に本気で打ち込んでいたのは、アップルとIBMだけだった。で、IBMがViaVoiceっていうのを出していたんです。それを思い出して秋葉原に行ってみたら、6千円くらいで売っている。使ってみると、意外に使えるんですよ。で、音声入力を使って書いたのが、最初に出した『松下で呆れ、アップルで仰天したこと』(2003年発行・日本実業出版社)なんです(笑)。

――音声入力で本を書いた方は初めてではないですか?


竹内一正氏: 希少価値かもしれないですね。もちろん、音声入力で全部仕上げるわけではないですよ。全体を書くには、私の下手くそなキー入力より音声入力の方が早い。あとの文章の入れ替え作業なんかは、パソコンで簡単にできるじゃないですか。で、原稿を新聞広告が出ていた会社に持って行ったんですが、私は当時、「自費出版」っていうビジネスがあることすら知らなかった。よくよく聞くとタダで本が出るわけじゃなく、お金がかかる。それも、車が買えるくらいの金額。そんなにかかるならやめとこうと思っていたんですが、だんだんもったいない気がしてきて。原稿はできているんだし、一般の商業出版社に売り込んだらどうかなと。松下電器にいたおかげで、厚かましく相手に売り込むことをためらいなくできるような性格とスキルを身につけていたので。後で知ったんですが、出版業界ではやっちゃいけない方法でしたが、出来上がった原稿を出版社にドンと送り付けちゃった。何社か送って電話をかけて、「あの、送ったんですけどいかがでしょうか」って訊くと「うちは持ち込みは断っています」、「こんなことをされたら迷惑だ」でガチャッと切られた。「そうなんだ」と、挫折しそうになりましたが、ある人が、「日本には出版社が何千社あって、その中で一社でもOKって言えば本は出る」と言っていたのを聞いて、ならもう少し頑張ってみようかと。結局ね、厚かましくも三十数社に送ったんですよ。それで、返事が来たのが日本実業出版社だった。電話がかかってきて、「読ませてもらったらすごく面白いので。編集会議で決裁を取りますので一週間待ってもらえますか?」って。その時は本当にびっくりしましたね。

―― 大きなターニングポイントでしたね。


竹内一正氏: あの時、自費出版だけであきらめていたら本になることもなかった。やっぱりね、人生を切り拓くには失敗を恥と思わないことです。原稿のタイトルは『松下で学びアップルで体験したこと』って書いて出したんですよ。でも、編集者が「平凡すぎる」って。で、結局『松下で呆れアップルで仰天したこと』に決まりました。最初に聞いた時は、“あきれ”って痴呆の呆でしょう。少し抵抗がありましたが、プロが付けた名前なので、「分かりました、どうぞ」って。ところが出版社の中でももめたみたいで。日本実業出版社は松下電器関連の本も出していましたので、「松下で呆れ」ってのはまずいだろうと上からクレームがついた。でも、最後は編集者が言ったこのタイトルで押し通していただいた。題名がとっても大事だっていうことは、その後わかったんです。出版してすぐ、週刊文春だったかな、著者インタビューをしたいって来たんですよ。折角なんで、記者の方に「世の中に山ほど本が出ているのに、何でこの本を選んだんですか」と聞いてみたら、「題名です」って。この題名に惹かれたんですと。それで本を読んだらすごく面白くて、すぐに取材を申し込んだって。「題名って大事なんだな」と実感しました。

――もちろん、内容の面白さもありましたよね。


竹内一正氏: でも本って、いくら面白くても、読んでもらうまでにハードルがあるじゃないですか。まず本屋でどこに置かれるか。タイトルやデザインが目を引くか。で、最後に行き着くのがコンテンツで、そこに行き着かない本が圧倒的でしょ。私は、現場現物主義を、松下電器でいい意味でたたき込まれたので、本を書いた後、どう売れているかを任せっ放しにする気はなかったんです。現場、つまり書店を巡って、どんなところにどう並んでいるかを見て回った。出版と同時に丸善本店に行ったらドサッと平積みしてあった。うれしい反面、場所が悪かった。私の本を挟んで両隣にIBMのルイス・ガースナーと日産のカルロス・ゴーン。「何でそんな本の間に挟んで無名の竹内の本を置くんだ」とガックリ。気を取り直して、店内をぐるっと回って戻ってくると、そこに立ち読みしている中年のサラリーマンの男性を発見。で、柱の陰からこっそり見てると、IBMを手に取って、次にカルロス・ゴーンを取って、これで終わると思ったら、最後に私のを手に取ったんです。「おー、すごいゾ!」と胸が躍った。で、どうするか観察していたら、結局、私の本を持ってね、レジに向かったんですよ。これはものすごい感動です。追いかけて「ありがとうございます」って言おうかと思いましたが、変に思われるからやめました(笑)。

見方を変えれば、人生はいくらでも面白くなる


――今後の出版社・編集者の役割はどんなところにあると思いますか?


竹内一正氏: 目利きと発掘でしょう。柳の下のドジョウのようなのを持って来て編集会議にかけるのではなく、この著者は無名だけど面白い、この本は訴えるものがあるっていう、これまでと全く毛色の違うものを発掘して、世の読者に知らしめる、それしかないですよ。柳の下のドジョウをやっていると、松下電器の大企業病と一緒で、出版社が大企業病に陥っちゃう。読者が求めているのは、編集会議に通りやすいものではなく、新しいものなんです。そういうものを出すにはリスクテイクしなくちゃ。それには勇気がいる。事業経営もそう、1にも2にも勇気。学生の就職活動もそうだし、新入社員になった時もそう、いるのは勇気なんですよ。生きていく上で、出すべきタイミングでうまく勇気を出せる人は、結果的に成功に近づいていくんだと思いますよ。今の若い子に聞くとランキングを見て本を買いますっていうでしょう。それ自体が思考停止ですよね。僕らが学生のころは、人が読んでいない本を探して読む方が自慢だった。今の若い人は本当に保守的になっている。少子高齢化なんて言ってるじゃないですか。でも、少子化は問題じゃない。人数で経済を引っ張っていく時代なんて終わってますよ。若い世代の人数が減っても、バイタリティーにあふれ、新しいことをどんどんやっていく連中が、1人でも2人でもいればいいんですよ。松下幸之助は22、23歳で松下電器を作り、ジョブズは21歳でウォズと一緒にアップルを作った。若いころこそ無鉄砲にならなければ、人生いつ無鉄砲になるんだと。50、60代になって無鉄砲になったら世間が迷惑するだけ。20代なら、無鉄砲が許されるんだから。



――このインタビューを見るであろう読者に向けてのメッセージと、今後の展望をお聞かせください。


竹内一正氏: 世の中にね、良いことと悪いことは同じだけしか起きていないんです。運のいい人は、物事を明るい方向から見る。運の悪い人は、物事を暗い方向からしか見ないわけです。ペットボトルに半分水が入っていたとして、「半分しか入っていない大変だ」と思うのか、「半分もある、ラッキー」と思うのか、その違いだけ。心の持ちようってどうにでもなる。苦手なことや失敗が、実は大きなターニングポイントになって成功に導いてくれることも多い。失敗をしっかりと見つめ直していくと成功への糸口があるんです。ジョブズが成功したのはNeXTとPixarを作った30代に暗黒の10年があったから。僕は運が悪い、私は運が悪いっていう人は、実はその横にある運の良いところが見えてないんです。私は、米国のビジネススクールに行きたいと勉強したが、その目的は達成できなかった。だけども、その横にあったアップルで働くっていうもっとすごいチャンスを手にしたんです。一生懸命やれば、たとえ夢がかなわなくても、また別の夢と出会える。自分が思いもしなかったね。悪いことに目が奪われて臆病になるのではなく、見方を変えて良い方向から見られるような習慣をつけていけば、人生はいくらでも面白く光り輝くものになっていくと思います。今後、私が何を書いていくにしても、読者に勇気と元気を与えていきたい。読者がまだまだ知らないことを見つけ出して、皆さんを勇気付けることができる。そういう本を出せればいいなと思います。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 竹内一正

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