専門分野のコースパック、「本」だけじゃない
――Amazonで買われることもあるんですか?
松本茂氏: もちろんあります。ただAmazonで買うのは、先ほどいった専門書が多いです。仕事で読む本は、500ページから下手すると800ページぐらいあるんですけども、全部読んだりしないですね。800ページにもなると必要なところしか読まない。専門書ほどじゃないにしても、1回読んだことがある作者とか、ある程度内容がわかったものしか買わないですよね。やみくもに最初から探すというよりは、ある程度作者を知っているとか、その分野でこの本は読んだほうがいいという評価が定まっているものを買います。その点が本屋さんで買う時とは違う。割合としては、個人的にぶらっと書店で買うほうが絶対多いと思いますけど。
――専門書では評価の定まったものを買うほうがいいのですか?
松本茂氏: 正直、アカデミックな分野というのは、本になるまでにすごく時間がかかるんですよ。僕らの分野でも最初に電子媒体で発表されて、専門誌で出る。もっと早いのはワーキングペーパーといって、大学の研究者が出している論文の段階でセミナーに出回る情報が一番新しいんです。そこから2、3年かけて専門誌に出て、その時点ですでにもう情報がけっこう古くなっていて、重要な分野だとそれから何年かたって、その先生がまとめて本にする。だから書籍になって出てくる時は、最低5年ぐらい前にそのトピックがあったということになるんです。本になるのがそれだけ遅いので、すごく有名な先生が書いていて買うに値する本だっていうのは、買う前からわかっているんです。
――そうすると逆に電子化の可能性もありますか?
松本茂氏: 最近、特に統計学や計量分析などのいわゆるデータを使う分野とかだと、アメリカの先生はすごくて、まずネットの利用を想定した本を書きますよね。本の中にURLが書いてあって、データとプログラムがそこから利用できるようになっていて、「授業にそのまま使えます、どうぞそのままお使いください」と、そこまでやってくれているんですよ。そういう形で教材が提供されているんですよ。本じゃなくて、コースパックになっていて、本はその中の一部になっているのかという気はしますね。今の売れているテキストのほとんどは完全にそういうスタイルで、早くから電子化することを取り入れているんですね。
自分の手で触るものへの興味
――今後取り組んでみたいテーマはなんでしょうか?
松本茂氏: 仕事は特別新しいことをしようとは思っていないんですが、環境政策の仕事は、そのままやり続けていきたいと思っていますね。
――プライベートではいかがですか?
松本茂氏: 最近はまっているのは、庭仕事。植物に関心がありますから。もともと農学部だったんですよ。農学部にいたころ、父親と散歩していた時、花とか咲いていても、僕はその花の名前を知らないんですよ、農学部の学生なのに。父親は知っているんですよ。それでちょっと恥ずかしいなと思って。そうしたら父親が、自分が家庭を持って子どもができて、ライフステージでそういう時に来ると、特に覚えようと思う気はなくても覚えるものだし、花を育てようと思えばその手の本を買って覚えるはずだと。料理も一緒ですね。学生で一人暮らしするようになったら、それまで全く料理なんかしなかったのに食わなきゃいけないと思って作るようになった。
――料理もなさるのですか?
松本茂氏: 自分が食べたいからですかね。そんなに凝るわけではないですけども、スパゲティとかも作りますよ。お酒は、焼酎でもなんでも飲めれば高いお酒でなくてもいいんです。自分の研究テーマもそうなんですけど、食べ物は、環境問題と関係があるんですよ。介護とか社会保障とか環境とか食品とかいった身近なもの。この種の分野の研究者は女性の方が多いんですけども、基本的に自分の手で触るものをやっているのかな。僕もどっちかというと自分の手で触る者以外興味がないのかもしれません。ごりごりの理論の話だとか、ごりごりの金融だとかは全然関心がないですね。本もそう考えると哲学的な本とかは読んでいないような気がしますね。どちらかというと、身近なテーマのものを読んでいることが多い。哲学的な話とか宇宙の話とかは中学時代のブルーバックスで卒業して、今は、身近にある花や食べ物が気になっているようです。とりあえず感銘しているものをやっている気がします。
(聞き手:沖中幸太郎)
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