本作りは流れ作業であってはならない
――具体的に紙の本と電子書籍の使い分けにはどういった方法があるでしょうか?
清涼院流水氏: 僕は10年くらい前から言っていたんですけど、電子書籍を出版の主流にして豪華愛蔵版だけ紙の本、あるいは大ベストセラーになった本だけ何部か紙の本を作るというか、そういうチョイスがあってもいいと思うんですよ。在庫リスクを減らせたら、作家さんの取り分は減らさずにできるはずなんです。僕も、The BBBで本のコスト計算をやってるんですけど、採算分岐点は意外に低い。だから紙の本ほど売れなくても採算が取れるんですね。色んな人が群がって1冊の本から利益を搾取するから本は高くなるし売れなくなるんです。そういう仕組みを根底から変えていくことを、本当に本を愛してる人は考えないといけないんです。
出版の古い流れが崩壊してることは誰の目にも明らかなので、これは変えないといけない。まずスケールを小さくしないといけない。出す本が多過ぎるし作家も多過ぎるんで、まずは精選して数を減らして、丁寧に1つ1つのコンテンツを売っていくことが必要だと思うんです。そういう姿をThe BBBでは見せていきたいなと思います。だから1ヶ月に1コンテンツに絞って、丁寧に作って送り出したいと思うんです。決して流れ作業であってはいけないと思っています。
――世界に通用する質の高いコンテンツを作る勝算はありますか?
清涼院流水氏: 僕は自分の仲間たち全員を心の底から信じているんです。いま、何人かの作家さんとかビジネス書著者の方が協力してくださっていて、彼らは日本を代表する人気作家ではないかもしれないけど、僕は彼らと接していて才能は確かに感じてるんです。だからこの人たちの才能を100%、200%発揮するお手伝いを僕がすれば、それは世界に伝わると信じてるんですね。だから僕は、いま人気ある人をスカウトしてくるとか、そういう編集者がよくやる安易なことは考えていないです。大前提として、すべての人に才能はあると思っているんです。常識とか先入観が邪魔をして本来の能力を発揮できてないだけだと思うんですよ。それを僕が引き出せたら、そんなにうれしいことはないと思います。
――同業者からの批判もあるのではないですか?
清涼院流水氏: それは、ずっとありますね。でも僕はずっと新しいことをやり続けてきて、既得権益層からたたかれ続けて17年間戦ってますから、今更、痛くもかゆくもないんです。だから僕みたいにひんしゅくを買うのが平気な人しか新しいことはできないんですよ。ほかの作家さんと話していると、業界に嫌われるのが怖いとか、読者に悪口を言われるのが怖いと言うんですけど、僕は最初からたたかれ続けているので、全然怖くないんです。逆に僕が現在の出版界を批判することも多いですが、出版社や編集者も被害者だと思っている面もあります。要するに、仕組みが破たんしていて、その仕組みの中で自分のタスクなりノルマを与えられたら、崇高な志を持っていても、まず目先の仕事をやらないといけないですから。古い仕組みが破たんしてるのは誰もが認めていて、どうしようもないのが現状なんです。
天才ではない、でも何かの能力はある
――清涼院さんの常識にとらわれない考え方は、子どものころからのものでしょうか?
清涼院流水氏: もともと、おきて破りみたいなことが好きだったんですね。幼稚園児くらいの時から前代未聞が大好きで、とにかく人のやってないことをやりたかったんです。はっきり覚えてるのが、昔アニメで大人気だった『パタリロ』の主題歌で、「誰も考えつかないことをするのが大好き」という歌詞があるんですよ。それがずっと忘れられなかったんです。子どもながらパタリロの天才性というか、天衣無縫な姿にあこがれていた。その前からそういう素質はあったと思うんですけど、影響は受けたと思います。あとアニメの『名探偵ホームズ』で、「24時間頭の中で何かがダンスしてる人なんだから」という歌詞も好きだったんです。そんな生き方ができたら楽しそうだな、というのが根っこにあるんですよね。
――学生時代はゲーム関係の仕事を目指していたとお聞きしました。
清涼院流水氏: ゲームクリエイターを本気で目指していました。本当にゲームが好きで、ゲームセンターでプレイしたり自宅でプレイしたり、夜中に親が寝静まってからパソコンでプログラムして、たくさんゲームを作っていました。でもゲームを作っていた中心メンバーの医者の息子が、高2の終わりに「俺、あきらめて医者を継ぐわ」と言ったんです。その時は本当に、目の前が真っ暗になりました。当時から小説や漫画も書いていて、小説の方がウケが良かったので、小説なら1人でできるからと思って、高2の終わりに小説家になることに決めたんです。その時から「清涼院流水」という名前を使っています。あそこで彼が辞めなかったらゲーム業界に入っていたと思います。でも、ゲーム業界は僕の年齢になると管理職以外じゃないと体が持たない。徹夜とかも当たり前ですし、ゲーム業界で頑張ってる友人もいるんですが、彼らの話を聞くと、やっぱり行かなくて良かったなと思っています。
作家は70歳、80歳でもやっていける仕事ですからね。僕が電子書籍に抵抗がないのは、たぶんゲームの影響もあって、日本の電子書籍の発展に貢献できるのであれば、あの当時のゲーム漬けの毎日も無駄ではなかったです。不思議なことに、すべてがつながっているんですね。
――よく「自分は天才じゃない」とおっしゃっていますね。
清涼院流水氏: 狂人と天才は紙一重とかよく言われるんですけど、僕は狂人かなと思ってるんです。僕も子どものころは自分は天才だと思ったんですけど、大人になって冷静に考えると完全に狂人だなって(笑)。でも変な能力が何かあるのは多分間違いないと思っていて、それがいま役に立つ方向に向かいつつあるのがうれしいんですね。いままで小説を書いていると、賛辞と合わせて批判も受けるわけですよ。ところがいまの活動では、あいつが最近やってること、ちょっと面白いかもな、と。かつてアンチ流水だった人たちも、ちょっと関心を示してくださったりして、それは本当に価値のあることなんだろうし、ひょっとするとこれからの出版界で結構必要とされることなのかな、とは思うんですね。
著書一覧『 清涼院流水 』