英語、ビジネスなど多ジャンルでも「わかりやすく」教える
石崎秀穂さんは、神戸大学卒業後、業界最大手食品メーカーの中央研究所に勤務、研究者の道を歩まれますが、その後、自身で築き上げた、さまざまなノウハウをホームページやメールマガジンにて公開したことにより、今までにないわかりやすさが人気に。そして『基本にカエル英語の本』シリーズなどとして書籍化されました。そのほか、文章術、ネットマーケティングの本など幅広く執筆される石崎さんに、本について、電子書籍についてのお考えを伺いました。
新刊は大人のための「わかりやすい」中学英語
――『基本にカエル英語の本』シリーズなどの著者としてご活躍中の石崎さんですけれども、最近はどんなことに取り組まれていますか?
石崎秀穂氏: メインの仕事はホームページ制作や、メールマガジンの運営です。その他、4月の下旬に、『ゼロから始める!大人のための中学英語』という本を、高橋書店から出版しました。また、現在、ペンネームで、会話などのノウハウをまとめた本も執筆しています。
――執筆される時にどんな想いで書かれていますか?
石崎秀穂氏: わかりやすい本を書きたい、本の価格以上のものを提供したい、それで、いろんな人々の役に立ちたいという想いですね。
――「わかりやすく」というのがキーワードですね。
石崎秀穂氏: わかりやすく、ジャンルを問わずに書いてみたいと思っています。出版社が許せばですが(笑)。
研究者からビジネスの世界へ、出版はブログノウハウの本がきっかけに
石崎秀穂氏: 私はもともと研究所に勤めていたのですが、結婚を契機に退職して、ホームページを作ったんです。ページにアフィリエイトの広告を載せたら収入になった。自分なりに「こうすると収入が得られるんじゃないかな」と思って本格的に頑張ったら、トントン拍子で収入が上がって行ったんです。それで経過をブログに書いていた。そうしたら出版社の方から「ブログの本を出してくれないか」ということで執筆依頼が来ました。それが『人とお金が集まるブログ作りの秘伝書』という本で、これがヒットした。その実績ができた時、英語のホームページを作っていたので、またそれが書籍化につながったんですね。それが『基本にカエル英語の本』というシリーズです。その本もヒットして、今でも売れています。
――もう何刷も重ねられていますね。
石崎秀穂氏: 毎年増刷していて、現在、シリーズ7万部ぐらいです。あとは英語の本やネット集客の本をいろいろ出しています。読者から出版社に「わかりやすい」という感想が来るらしく、今度は出版社の方に、「わかりやすい文章の書き方を書いてほしい」と言われて、去年ぐらいに『あなたの文章が〈みるみる〉わかりやすくなる本』という本を出しました。
塾講師をすることで、文章も教えるスキルも鍛えられた
――もともとは理系で、神戸大学出身でいらっしゃるのですね。子どものころはどんなお子さんだったのですか?
石崎秀穂氏: 子どもの頃は、文章は全然書かなかったんです。でも、書いているうちに慣れてきました。あとは大学時代に塾の先生をやっていて、わかりやすく説明するにはどうすればいいのかを研究していたので、わかりやすい文章を書けるようになっていったのかもしれません。ちなみに、塾ではいろんなことをしていて、小・中学生も教えていたのですが、高校部を新しく作る時に僕に任せてくれたこともありました。
――その当時、新設の部分を任せられるということは、その時も評価が高かったのですね。
石崎秀穂氏: 新しく高校の部を作るという話があって、誰に任せるか決まっていなかったんです。たまたま僕が、アンケートでわかりやすいと評価されていたこともあって、任されたようです。
――その時の経験が大きいのですね。教える時に、小学生から高校生までで共通するものはありますか?
石崎秀穂氏: 学生は素直なので、わかりにくかったらすごく嫌われる。場合によっては、騒ぎ出すので、やはりそこは厳しいですね。なので、わかりやすく教えざるを得なくなってくる。大人は何かしくじっても絶対聞いてくれますから、大人に向けてセミナーをしている方が気が楽ですね(笑)
――もともと教育に興味がありましたか?
石崎秀穂氏: あまりなかったですね。僕はすごいあがり症で、人前でしゃべれなかったんです。だから、人前に立つと話せるんじゃないかなと思って、それで講師を始めたんです。塾講師を始めてから、教育の楽しさを知りました。
家でできる仕事を、とホームページに挑戦
――卒業後は研究所に勤められたとのことですが、どういった研究でしたか?
石崎秀穂氏: 「液クロ」という分析機器があって、成分を分析する。例えばこのコーヒーの中にどういう成分が含まれているのか、分析機械にかけて見る、というような研究です。
――そこからブログやホームページを作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
石崎秀穂氏: 研究所勤務といえども、サラリーマンです。いつ転勤になるかわからない、リストラされるかもしれない。それでは家族を大切にしているとはいえない。だから、家で何か仕事をできないかと思いました。それで会社を辞めてホームページ作りを始めたんですね。当時は、家族を養わないといけないのに、定職がなく、必死でしたね。そのころに培われたノウハウがいろいろあって、それが今に生きている。
――石崎さんは執筆も含めて、お仕事の中で何を大事にされていますか?
石崎秀穂氏: 昔は、家族を守るために、とにかくお金を稼ぐことがメインだった。お金儲けが中心の生活に疑問を感じていましたが、目の前のことで必死でした。でも、離婚など、いろいろなことがあって、「お金だけじゃないのかな」ということを感じますね。だから今は稼ぐというよりも、人々の役に立つ、自身が楽しむ方にシフトしています。ただ、本に関しては、当時から、特別の想いがありました。だって、本は、時には他人の人生に影響を与えるものですから。だから、昔から、本の価格に見合う以上のものを読者へ提供したいという想いがありました。
――プロフィールが掲載されているホームページにも、自分の得意ジャンルなどを編集者向けにわかりやすくまとめていらっしゃいますね。
石崎秀穂氏: やはり同じ本を作りたくないというのがあります。例えば「カエルの本が売れているから同じ本を作って」という依頼が来たら断ります。同じ英語のジャンルでも違うものを作りたい。そうしないと、前の読者の人にまた読んでいただいた時に「同じじゃないか」と言われてしまいます。英語の本は3、4冊ありますが、全部やはり内容が違います。
電子書籍は、ビジネスモデルがまだ確立していない
――読者の皆さんは紙の本でも読みますし、その後電子書籍化して読むなどさまざまだと思うのですけれども、電子書籍というものに対して、どのようなお考えをお持ちでしょうか?
石崎秀穂氏: 僕はどちらかというと商売人なので、電子書籍はそちらの視点から見ています。
僕は文章を書いてお金をもらっていますが、収入を得る手段としては、ホームページを作ってそこに文章を入れて、アフィリエイト広告を載せて広告収入を得る方法もあれば、ホームページのコンテンツをCD-ROMにして売る方法もある。ブログであれば、アフィリエイト広告を載せて広告収入を得ることもできれば、有料ブログにすることもできる。メルマガ運営なら、ヘッダー広告でお金をもらえることもありますし、メルマガでアフィリエイトする方法もありますし、有料メルマガにすることもできる。他にも、本を出版して印税や原稿料をもらう方法もあれば、雑誌の記事を書いてお金をもらう方法もある。さらにはアプリの文章を書くなどいろいろとあるんです。その中で電子書籍というものは、たぶん1ジャンルとして将来できるのかなと思います。
――ビジネスとしての可能性がありますね。
石崎秀穂氏: 可能性は大いにあると思います。ただそれは将来の話で、現状を見てどうかというと、正直言って僕は書きたくない。なぜかというと、ホームページやメルマガは、ネット集客の手法が確立されているし、本の出版というのは、書店と出版社がいて、本を出せば書店にばらまかれて販売されるという販路が出来上がっている。では電子書籍はどうかというと、今のところ電子書籍はまだ販売手法も確立されていなければ、販路もないんですよね。ホームページでその販路を作って売ればいいんじゃないかと思うかもしれないですけれど、例えば電子書籍で200ページ書いたとして、その200ページをホームページにしてアフィリエイトにした方が収入が得られるんです。それが全然桁が違って、たぶん広告の方が電子書籍の100倍ぐらい儲かるので、そうすると電子書籍を書く価値がないのかなと思いますね。それに、読者にとっても、電子書籍だと有料ですが、ホームページだと無料で読めるわけですし。だから今、文章を書くのを生業としているものにとって、電子書籍というのは魅力がないのだと思います。もっとも、ごく一握りの有名な漫画家や作家などは違うのでしょうけど。
――それではどのようにしたらよいのでしょう。
石崎秀穂氏: 販路ができればコンテンツを書きたいですね。出版社が販路を作ってくれて売れる状況を作ってくれればいいのですが。他にも、情報商材のように、ぼったくり価格で販売するのもひとつの方法だと思います。販売数が少なくても収入は多くなりますから。でも、僕は、それはしたくありません。それ以外にも、過去の本を電子書籍にするという方法もありますが、その方法だと現状は、違法行為が気になります。単なる受け渡しだけではなくて、ネットを通して交換しようとか、そういった話もあるということを聞いたのでなかなか難しいかなと。そこをクリアできれば、電子書籍の販売も面白いと思います。
ただ、電子書籍は、作り手としてはちょっとさみしい。僕も執筆するまでは知らなかったのですが、本というのは著者が作っていると思っていた。でも実際は編集者というリーダーがいて、書き手がいて、デザイナーがいて、イラストレーターがいてと、みんなで作っている。編集者によったら紙質がどうとか、発色までこだわって、それで1個の商品として出来上がっているけれど、電子書籍にするとそういうものがなくなってしまいます。電子書籍を例えるならば、一生懸命、みんなでショートケーキを作ったのに、読者が「自分はイチゴが欲しいから」とイチゴだけを食べて、他を捨ててしまうみたいな感じです。そうかと言って、じゃあ僕が読者だけの立場だったら、利便性を考えて、本を電子書籍にしちゃうと思います。将来は電子書籍の方に向いているのは確かですけれど、今、過渡期なんでしょう。
ウェブサイトと電子書籍はどこが違うのか
――その過渡期の中で、石崎さんの英語の教材など、電子書籍ならではの何かできそうなことがありますか?
石崎秀穂氏: それはウェブサイトと電子書籍は何が違うのという話になる。わざわざ電子書籍にしなくても、ウェブサイトにすればいいのではないかという話です。だから電子書籍の存在意義がまず問われる。少し前までは、出版社とか別の会社が絡んで、電子書籍にはウェブサイトにはない「質」があるということで、その「質」で売っていけば、電子書籍の存在意義がでてくると思っていました。しかし、最近、グーグルがウェブサイトにも著作者情報を掲載して、ウェブサイトの信用性を向上させようとしているみたいなので、単純に質だけでは勝負できないかなとも思い始めています。あとは電子書籍の著者を選ぶとか、誰でも書けない状況にするとかするくらいしかウェブサイトとの差別化が難しいのかなと思います。
――「質」というお話が出ましたが、石崎さんにとっての理想の編集者を伺えますか?
石崎秀穂氏: 僕が持っていないものを、持っている編集者ですね。たとえば、僕は大雑把な性格なので細かいところまで気を配ってくれる編集者、僕の持っていない売れる情報を持っている編集者などです。他にも、書評ブロガーと仲の良い編集者もいて、その人に担当してもらうと、新刊を書評サイトなどで紹介してもらえたりするので、そういう編集者はありがたい。
あとは一生懸命営業の人に本を推してくれる人もいいですね。自分の担当する本なので皆さん頑張りますが、やはりその頑張り方のランクがある。一緒になって売ってくれる人がいいですね。
――編集者とはどのようなやりとりをされるのですか?
石崎秀穂氏: 言い回しなど、細かい文章の直しなどはしょっちゅうです。僕は基本的に口を出さないので、よっぽど変になっていない限り自由にやってもらいます。僕は内容を提供する立場で、わかりやすい文章の書き方、わかりやすい英語の教え方などは僕が担当ですが、細かい表現や日本語の使い方に関しては編集者の方がプロなので、任せた方が確実なものができますから。編集者によっては発色についても相談されることもありますし、タイトルの相談もされることもあるのですけれど、そこも任せているので好きにやってほしいですね。
「わかりやすいか」、「わかりにくいか」が本を選ぶ基準
――石崎さんは、小さいころから本を読むのはお好きでしたか?
石崎秀穂氏: 全然好きじゃなかったんです(笑)。僕は実用書とビジネス書、漫画ぐらいしか読まない。マーケティングや心理学など自分の仕事と直結するものですね。ネットに関する本はネットの方が最新なので、ネットで読んでいます。
――心理学の本も仕事につながるんですね。
石崎秀穂氏: 必要性にかられて読んでいます。例えば、何か人とお話をする時に、「この人の心を動かすにはどうしたらいいのだろう」と思った時に、心理学の本を読む。ホームページを作ったけれどアクセスが伸びない時、「どうすれば伸びるのかな」と思ったらマーケティングの本を読む。全て必要にかられての情報収集として本を読んでいます。本は手助けになります。
――本を選ぶ時というのはどのようにして選びますか?
石崎秀穂氏: 書店に行って棚の端から端までどういったことが書かれている本なのか、中身を確認します。だから平積みの本に僕は心を動かされない。内容は、やはりわかりやすいかどうかで選びます。同じ内容でも、わかりやすい本だと1時間ぐらいでマスターできますが、わかりにくかったら10時間くらいかかりますから。
自分のノウハウを「わかりやすく」読者へ伝えていきたい
――石崎さんは今後どのようなことをしていきたいとお考えですか?
石崎秀穂氏: 本の話で言うと、「わかりやすい」という初心者向きの本を、いろんなジャンルで出したいな思っています。人脈づくりや会話術についても書いていきます。
――人脈づくりにはどのようなコツがあるのでしょうか。
石崎秀穂氏: とにかく相手が求めるものを提供することですね。相手の考えていることは、その人の話を聞いているとわかる。僕はすごく内向的です。人当たりがいいので外向的だと思われるようですが全然そうじゃない。逆に得意じゃないからこそ、一生懸命そこで努力しているのかもしれませんね。目下はマーケティングや人脈づくりとか会話術など、そういうテーマを初心者向けにわかりやすく書きたいですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 石崎秀穂 』