漫画を描く時には、雑誌のカラーや読者を意識する
――出版社・編集者の今後のあり方というのをどうお考えですか?
久世番子氏: 出版社・編集者も大変そうな話しか聞きません。普段のやりとりは、展開を相談したりといった感じで普通だと思いますが、電話で済ます時と直接会う時があります。その雑誌や読者によってカラーがあるので、「どのような方が読んでいますか?」と詳しく伺います。文藝春秋で連載した『よちよち文藝部』などは、文芸誌を読んでいる方が楽しめるように、けっこうマニアックなネタを入れる方向でしたが、今『Kiss』という女性誌でやっている『神は細部に宿るのよ』というファッションエッセイは、かなり軽めです。ファッションでも最先端のファッションはやらずに、もっと日常に寄っていく。読んでいるのは20代後半から30代ぐらいの独身か、お子さんがいらっしゃる読者が多いので、そういう方と私の共通点をネタにしようと思っています。そういう風に考えないと、読んでもらえませんし、読者さんが受け入れてくださったからよかったなと思っています。
――とても謙虚でいらっしゃいますね。
久世番子氏: 最初は「漫画など買わなくても生きていけるのに、その漫画を買っていただいている」ということを考えておらず、自分の好きなことを書いていました。偶然書いた『暴れん坊本屋さん』を出した時に、面白いと言ってもらえて、「ああ、こういう反応が来るんだ」と知った時に初めて、こっちが投げる玉がなんとなくわかってきた。それまでは全然、そういうことを考えられない人でした。
うれしい反応も、厳しい反応も半分ずつ受け取る
――今Twitterもそうですけど、反応が返ってきやすいというか、目に見えやすいですね。
久世番子氏: もちろんうれしい反応はいいのですが、否定的な反応もあります。それにはあまりとらわれないようにしています。精神の安定が崩れてしまうので、うれしいことは半分、イヤなことも半分で受け取っておこうと思います。人間はうれしさのあまりにも死ぬし、落ち込んでも死ぬと思っているので、死なないようにと(笑)。精神的におかしくなるというか、自分を追いつめてしまう人がこの世代には多いので、健康、精神を健康に保つことを第一条件にしないと、生きていけない。体は健康ですが、心を病んでしまったために仕事を休職したりしている方がいるのを見ていると、「ああ、精神もいたわってやらないと」と思ってきました。
精神を健康に保ちつつ、新しい世界を手探りしながら描き続ける
――久世さんの漫画は読んでいるとほっこりしますが、作品に共通するテーマはありますか?
久世番子氏: なるべくつらいことは書かないようにしています。毎日楽しそうなエッセイですけども、実際はいろいろとつらいですよね(笑)。私の本を買ってくれる方は、そんなにつらいものを読みたいと思っていらっしゃらないので、「じゃあ、ここはせめて楽しい感じで読んでいただこう」と思って、楽しいものだけを買って帰ってもらうようにしています。年をとると、つらいものを読むのがどんどんつらくなってきます。やさしいものを見てワーって泣くよりも、元気がいい時に、「よし!今日はつらいものが読める」というようにかなりエネルギーがいります。読者さんから、「先生の作品が病院の待合室に置いてありました」と言われたのがうれしかったです。おそらく病院でいろいろ思うところがあって、選んでくれたのでしょう。
――最後の質問になりますが、今後の展望をお聞かせください。
久世番子氏: 精神を病まないようにがんばっていきたいです(笑)。読者サービスばかりではなく、自分自身も楽しんで書く。同じことをやっていては行き詰まってしまうので、少しずついろいろなところを探りつつやっていきたいです。
(聞き手:沖中幸太郎)
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