データを豊富に載せることで点と点が繋がる
――電子書籍の可能性についてはどうお考えでしょうか?
田村秀氏: 僕は電子書籍に関してはよく分からないんですが、僕の本で電子化されてる本もありますし、むしろ僕はいろいろな本を電子化して欲しいなと思っています。やはり電子化というメリットは多分活字だけではなく、いろいろな写真などを入れやすいという点もあります。本を作る時に版を作ると、写真や図表などにすごく制約があるので、そういうところのハードルが低くなると良いなと思ってるんです。使いたいデータや表が、たくさんある場合は、むしろ電子化した方が充実した中身になるんじゃないかなと思います。データをたくさん入れることによって、信頼性が高まるという利点もあります。
――今は、テキストをiPadやKindleで読めるという意味での電子書籍ですが、もっと違う可能性があるのではないかと?
田村秀氏: 本を作っていると、すごく制約受けるわけですが、載せたいと思う200~300個の図表やエクセルの生データもあるわけです。例えばいろいろな国ごとのランキングなども途中の一部しか載っておらず、全部載せて、そこで初めて点と点じゃなくなるわけです。やはり値段のこともあるとは思いますが、データの改ざんを出来ないようにしてくれればそれで十分です。活字版だとここまでのデータですが、電子版だともっとたくさんデータがあるということです。僕の場合は、自分の中では当然のように繋がっていますから、いろいろな本、例えば出版しているグルメの本などにもリンクが出来そうです。
編集者との相性も重要
――電子書籍が普及していくことによって、そういう誰でも出しやすいという状況もありますが、その中で出版社と編集者の役割はどんなところにあると思われますか?
田村秀氏: 電子書籍においても、編集者は一種の目利きが出来ることが大切で、後は相性です。この編集者ではなかったら、この本を出せたのだろうかということもあるくらいです。後は、書き手が関心のあるテーマに編集者が興味を持ってくれることでしょうか。もう1つは構成については、アドバイスはするけれど、全面書き直しではなく、書き手の考えを生かしてくれること。そういう編集者だと、書き手としてもやりやすいです。
――テーマが様々なので、やり方もそれぞれ違うとは思いますが、編集者とはどのようなやり取りをされるんですか?
田村秀氏: 僕は、企画だけ出すというよりも、100ページから150ページほど書いた段階で売り込んでいました。ある程度書きながら、頭の中で構成が出来上がっていく感じです。およそのラフスケッチを描いて、取り合えずまず書いてみようと思い書き始め、書いている途中にどんどん直していくスタイルです。後は、ブログの内容がベースになったりしている本もあって、それについては、ある意味旅日記のようなものです。食に関する本は食べ歩いたものを、どうやってグルーピングするかだけだったりしますので、編集者とのやり取りもそれぞれ違います。でも、自分が経験したり、自分が関心を持ったりしたことじゃないと書けないというのが僕のスタイルなので、自分はやはり小説ではなくて、ノンフィクション系、それも社会科学系だなと感じます。
売れる本も書きたいが、基本は変わらない
――最後に今後の展望をお聞かせ下さい。
田村秀氏: 僕は大学に来てからですが、「1年1冊」という目標を立てています。一方で10万冊単位で売れる本も目指したい思いもありますが、それを目指したからといって達成できるものでもありませんので、自分の書きたいことを書き続けると思います。その中で数が売れる本が生まれればいいなと思っています。今の変化の多い時代の中で、立ち止まるなり、あるいは先を見るというものを多くの方に伝えたい。そのために自分が嗅覚をとぎすまさなければいけません。僕は仕事が好きなので、体壊さない程度に新しいテーマに、取り組んでいきたいと思っています。ただ、地方自治系、食系、データリテラシー系という僕の基本の3本柱は、おそらく変わらないと思っているので、その3つの分野に関しては2、3年に1回ずつ何か出していきたいなという思いはあります。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 田村秀 』