柴田昌治

Profile

1979年東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。 大学院在学中にドイツ語学院を起業し、30代の頃はNHKテレビ語学番組の講師を務める。その後、ビジネス教育の会社を設立し、80年代後半からは組織風土・体質改革の支援に本格的に取り組む。 2009年にはシンガポールに会社を設立、対話によるチームづくりを通じて日本企業のグローバル化を支援している。 主な著書に『なぜ会社は変われないのか』『トヨタ式最強の経営(共著)』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『考え抜く社員を増やせ!』『どうやって社員が会社を変えたのか(共著)』(以上、日本経済新聞出版社)など。

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「きっかけ」が必要


――書店で買ったものを電子書籍で読むということに関して、書き手としての思いはありますか?


柴田昌治氏: この間、大井のイオンの本屋さんで、電子書籍になっている私の一番新しい本が展示されているのを見かけました。書類にサインをしましたので電子書籍になっていることは知っているわけですが、実際に見たのはつい最近です。
これからは、電子書籍にしていかないと、おそらくダメなんだろうなとは思いますし、私の本は韓国語や中国語には翻訳されていますが、英語では翻訳されたものがありません。シンガポールに会社を作って4、5年前から活動しているのですが、書籍なしでやっているのです。そういう意味では、もっと英語で書いたものを作る必要があると思っています。そのために、まだ具体的な動きにはなっていないんですが、翻訳はできているので、電子書籍にしたいと思っています。でも、全く新しい分野ですから、どういう風にしていったらいいのか、まだよく分かっていません。

――電子書籍という業界に関しては、どのような可能性があると感じられていますか?


柴田昌治氏: 去年私の娘が、電子書籍について卒論を書いていて、その卒論は私が全部チェックしました。それによると、電子書籍で一番多いのは、どちらかというとアダルト系のものが多いということでした。彼女は経営学部だったので、売れるものや将来性などを財務的に見たり、町の本屋さんと大きな本屋さん、それから電子書籍の本屋さんとの違い、例えば設備投資がいらないという利点なども比較していて、面白かったです。電子書籍の将来性はすごくあるけれど、やはり伸びていくきっかけが必要なのではないでしょうか。これからさらに媒体が普及すれば、随分違ってくるんだろうなと思います。

――柴田さんは、電子書籍を使われていますか?


柴田昌治氏: 僕自身は全然使っていません。でもとっつきにくいというわけでもなくて、おそらくまだきっかけがないのだと思います。私にはイギリス人の友人がいて、月に何回か話をしますが、彼はiPadを持っていて、なんでもそれでやっています。僕もiPadを持つようになったら、おそらく電子書籍を読むようになるのではないかと思います。
なぜ会社は変われないのか』を書いていたのは1997年くらいだったのですが、その頃はパソコンではなく、ワープロで書きました。それまでは原稿用紙だったのが、ワープロになり、それからパソコンになり、今は、原稿用紙に書いていたら、まどろっこしくてしょうがない。原稿用紙に書く前は、完成型が見えないので、書き直ししたり移動させたりしていましたが、パソコンだと、僕は打つのは遅いのですが、編集などが一瞬でできる。読む時は、その便利さが分かりにくいのですが、ものを作る時や、書きものを作る時は、圧倒的に電子系の方が便利だと思います。僕ぐらいの年代でも、原稿用紙は使わないわけだから、書く時のあの便利さを読む時に何らかの形で体感できたら、電子書籍は圧倒的に強くなると思います。

――読む人の立場ということで、我々も目の不自由な方に対する音声読み上げ機能というものを、大学の研究室で一緒に開発しておりまして、そういったことも電子書籍の可能性ではないかと思います。


柴田昌治氏: 今、実は、僕も音声入力にトライしようと思っているところです。読み上げたり、音声を吹き込んだり、電子書籍ならではというものへの、もう一段の踏み込みが必要なのではないかという気はします。

編集者には表現価値を変える能力が必要


――出版業界はどんどん変化していますが、書き手として出版社や編集者の役割はどのようなところにあると思いますか?


柴田昌治氏: 出版をする人間には、フォームをどういう風にしたら読みやすくなるか、たくさん売れる本になるかというセンスが必要だと思います。中身のコンテンツにどういう風な化粧をするかによって、表現価値は随分変わってくると思うので、表現価値を変える能力が、編集者には必要なのだと思います。僕は長年やってきていて、自分なりにできるようになったわけですが、必ずしも書き手は、表現価値を高めるという力は持っているわけではないので、その役割を担う人は、本来は編集者なのではないかと思います。また、読者にいかに届けるか、いかに読ませるかというノウハウを持っていることも、編集者には必要ではないでしょうか。

――編集者の方との打ち合わせなどのやりとりはどういった感じでしょうか?


柴田昌治氏: 打ち合わせは随分やります。『なぜ会社は変われないのか』から、ずっと一緒にやってきている日本経済新聞出版社の編集の西林さんとは、お互いに言いたい放題言ってケンカをします。彼がミーティングに参加したら、1時間の予定がすぐに3時間ぐらいになってしまいます(笑)。お互いに、言いたいことを言えるという信頼し合っている間柄で、完全に彼もチームの一員ですから、よそよそしくないわけです。お互いに、「いい世の中を作っていこう」と、いつも言い合っています。

具体例を示す、情報を提供することで社会を変えたい


――最後に、柴田さんの将来の展望をお伺いいたします。


柴田昌治氏: 出版を続けたいという希望ももちろんありますが、私ももうすぐ70歳ですから、あと何年活動できるかなということを考えています。我が社の今の最高年齢が、相談役の金田秀治さんで81歳。元トヨタにいた人で、本をたくさん書いていますが、僕は彼が60歳ぐらいの時に出会ったので、もう20年以上一緒にいろんなことをしています。金田さんは年齢が僕とはひと回り違うので、僕もあと12年ぐらいはいけると思っています。これからも「こういう会社が変わりました。こういう風にしたら変わっていく」という具体例をもっともっとたくさん作っていきたい。大きな会社だと、部分的には変わっていても会社全体で変えるというチャンスが少ないので、そういう具体例を作りたいというのが1つ。
仕事を選ぶ時、つまり自分の労働力を売る時に、本来、売る側と買う側は、情報量として同じでないといけないはずなのです。でも、実際は、労働力を買う側は、働こうとしている人たちを調べますが、会社の本当の中身を知るだけの情報量が世の中に公開されていないので、労働力を売る側は会社のことをよく知らずに売るしかない。リクルートがリクナビなどで情報を出していますが、あれは会社に都合の良い情報を出しているだけで、その情報だけで選んだら大変です。世の中のために何かを一生懸命努力しましょうというよりは、お金もうけのことか考えていない企業も、どのような業種にもあるということ。だから、本当に良心的な人がそういう会社に入ってしまうと、自分の良心を捨てて仕事をしなくてはならなくなる。人間はやはり、自分のやっていることが世の中や人のために役に立っているということを感じられて、初めて元気になるし、生きていることや働いていることの価値を感じるわけです。僕は今日本で問題なのは、その労働力を売る側と買う側の情報量のアンバランス、アンマッチングだと思っています。だから働く人間がどんな会社を選んだらいいかという判断材料となる情報が、たくさん世の中に出てくるような環境を作りたい。これが僕の残されたミッションだと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『コンサルタント』 『コンサルティング』 『創造』 『営業』 『起業』 『きっかけ』 『プロセスデザイナー』

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