電子論文はiPadに2000本以上、
趣味に仕事に、デバイスを活用する。
池谷裕二さんは東京大学薬学部卒業後、米・コロンビア大学生物科学講座客員研究員などをへて現在東京大学大学院薬学系研究科の准教授として脳の研究をされています。また『海馬』(共著)、『進化しすぎた脳』、『記憶力を強くする』などのベストセラーを多く出されています。一般向けの脳についてのご著書も多い池谷さんに、本とのかかわりについて、また私生活でも活用されている電子書籍についてのご意見を伺いました。
新刊はクリエイターを一般公募。新しい才能の登竜門としたい。
――早速ですが、近況をお知らせください。
池谷裕二氏: 今年は、認知バイアスをテーマとした新刊を出すために、準備をしている段階です。一般向けの本にしたくて、絵本のような本を出せればいいと思っています。今回はデザイナーやイラストレーターも一般募集しているのですが、そういうプロジェクトは珍しいようで、出版業界にも注目いただいているようです。
――イラストレーターを公募するのは、どなたのアイデアですか?
池谷裕二氏: 私の提案です。たとえば美大の学生さんなど、才能ある人がたくさんいるのに、今は本が売れない時代になったので仕事のチャンスも少ない。最初の仕事が入れば軌道にのる人もいるかもしれないと思ったのがきっかけです。朝日新聞出版の企画で、ホームページを作って募集しています。私が糸井重里さんと『海馬』を出版した時に、寄藤文平さんがブックデザイナーとして初の仕事をなさったんです。奇遇にも同じ版元、同じ編集者のチームですが、今回も同じようにクリエイターにとっていいきっかけを作りたいと思っています。
東大薬学部へ進学したきっかけは、若き叔母の死だった。
――池谷さんは、海馬の可塑性の研究がメインのテーマでいらっしゃいますが、そのテーマへ至られた経緯をお聞きしたいと思います。幼少期の頃はどのようなお子さんでしたか?
池谷裕二氏: 自分では普通の子のつもりでしたが、周りからは普通ではないと思われていたようです。自分のことはわからないので、周りに聞いてほしい気もします(笑)。小学校の時は星や鉄道を見たり、趣味に没頭していました。中学校以降は勉強したと思いますが、小学校の頃は、宿題は最低限で終わらせていました。そもそも教科書やノートは家に持って帰らなかったのです。小学校のロッカーに置きっ放しだったから、6年間教科書を1回も忘れたことがない。夏休みや冬休みの時だけ持って帰っていました。
――ご両親は何もおっしゃいませんでしたか?
池谷裕二氏: 勉強については何も言われませんでしたね。父親自身が趣味などに凝り性だったので、私が新しい趣味を始めると、父親がサポートしてくれました。私が「星が好きだ」と言えば「星の本を買ってあげる」、「天体望遠鏡を買ってあげようか」などと父に言われました。「鉄道が好きだ」と言ったら、「電車を見に行こうか」などそんな感じでした。父は、私が興味を持ったものに関する本や図鑑を買ってくれたりしました。
――印象にのこっている本などはありますか?
池谷裕二氏: 小説はあまり好きではありませんでしたが、図鑑や伝記は好きでした。もちろん当時読んだ本は、小学生向けで本格的ではありませんでしたが、ワシントンやリンカーンなどはもちろんのこと、アインシュタインやノーベル、ニュートンやエジソンの偉人伝を読むのが好きでした。でも、もともと視覚的な認識の問題があるのか、文字を読むのは苦手で時間がかかるからか、長い物語はあまり読みませんでした。
――大学は東大の薬学部に進まれましたが、昔からそちら方面を目指されていたのでしょうか?
池谷裕二氏: 実は大学に進学した時は、全く薬学に進むつもりはありませんでした。東大では3年生になる時に学部が決まります。物理や化学が好きで、科目としても得意だったのでそちらへ進もうと思っていたのですが、大学の最終希望進学先を出す10日くらい前にスキルスという胃がんで叔母が若くして亡くなったことが、薬学へ進むきっかけになりました。10日前までは、化学科に行って有機物の研究をしようと思ってゼミまで出ていたのに、急に希望を変えたので、その時は生物のことを何も知らなくて、後に苦労をしました。海馬の研究を始めたのは、配属になった先がたまたま海馬の研究室で、その研究をやってみたらとても面白かったので、今でも研究を続けています。
著書一覧『 池谷裕二 』